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scene:73 馬頭羅刹の守護者

「あれっ、コジローさんが持っている槍は?」

 神部が俺が持っている槍に気づいたようだ。

「これはコボルトから奪い取った槍だ」


「えっ、ちょっと待って、異獣から武器を奪い取るなんてできるの?」

 水瀬が驚いた顔で確認した。

「できるさ。異獣から武器を奪い取って、その武器で異獣を倒せば、手元に残るようになるんだ」


 俺が『特殊武器製作』のスキルを手に入れるまでは、秘密にしていた情報だった。だが、ガーディアンキラーを一人でも多く必要としている今は、公開しても構わない情報だと思っている。


 ただ敵の武器を手に入れようとして、無理をする探索者が出るかもしれない。その点だけが心配だ。

「それって、余裕のある探索者しかできないんじゃないの?」

 石渡が指摘した通りなので、俺は頷いた。


「相手がコボルトなら、俺たちには余裕があるという事だ。この槍は神部さんが使うといい」

 槍を受け取った神部が感謝する。彼の槍は大型ナイフに長い柄を付けただけの槍だったので、コボルトの槍の方が上等だった。


「先に行こう。長田市にどんな異獣のテリトリーがあるか知りたい」

 俺たちはオークとコボルトを倒しながら獣人区を調査した。守護者の居所が市役所だと判明した後は、大通りを東に進んで小獣区だと思われる場所に到達した。


 駅前の繁華街から少し外れたので、一軒家やアパートらしい建物が多い。ただ建物のほとんどが破壊され、廃屋はいおくとなっている。


 その廃屋に棲み着いた異獣は、バッドラットやホーンラビット、それに巨大なハリネズミの釘ネズミである。

「ここは守護者の居所だけ確認して次に行こう」


 そのまま東に進むと、馬頭区に辿り着いた。そこで遭遇したのは地獄の獄卒鬼である馬頭羅刹にそっくりな異獣だ。


 俺たちが大通りを東に進んで、小さな川に架かっている橋を渡った時、前方からそいつが現れた。身長二メートル、ボディービルダーのような身体に馬の頭が載っている。


「おいおい、ここは地獄か」

「強そうな奴が出てきたぞ」

 高校生の二人が騒ぎ始めた。俺は馬頭羅刹を観察した。手に持っている武器は、薙刀である。


 エレナが弓を引き絞り爆裂矢を放った。矢は馬頭羅刹の胸に突き刺さり爆発する。それを見た石渡は気に入ったらしい。

「凄え、カッコいい。僕も弓にしようかな」


 馬頭羅刹は爆裂矢の一撃で仕留められなかった。大剣を抜いた河井が走り寄り、その首を刎ね飛ばす。

「おれは大剣がいいな」

 土田は河井の大剣が気に入ったようだ。


 エレナは爆裂矢で仕留められなかった事で、威力不足を感じたらしい。

「爆裂矢の威力を上げたいな」

 それを聞いた俺は提案した。


「以前、『精霊使い』のスキルの中に、特別な力を付与する能力があると言っていたけど、それを使えないのかい」


「あれは、そうじゃないの。ある特性を持つものに祝福を与えることで、その特性を強化することができるという能力よ」


「そうなんだ。なら、爆裂矢に祝福を与えたら、どうなるんだ?」

 エレナは首を傾げた。試したことがないらしい。祝福という言葉と爆裂矢が繋がらなかったようで、試していないという。


「今度、試してみます」

 祝福で爆裂矢の威力が上がるなら、様々な応用が効くようになる。


「ねえ、コジロー。ここの守護者を倒すのは、神部さんたちには難しいんじゃない?」

 美咲が神部たちの実力を危ぶみ質問した。

「守護者を見てもいないから、そう断言するのは早いと思うけど……馬頭羅刹がこの強さだと、守護者は無理かな」


 取り敢えず、守護者の場所だけは確定しようということになり、俺たちは馬頭区を探し回った。守護者の気配を感じたのは、パン工場だった。


「パン工場か、小麦粉とか残っていないのかな」

「どうだろう。でも、一年前の小麦粉だぞ。大丈夫なんか?」

「一年くらいなら大丈夫だと聞いたけど」


 俺たちが話していると、神部たちも期待するようになった。神部たちが住む銀山町では、食糧不足になっている。小麦粉は是非とも欲しいものなのだ。


「でも、この気配からすると、草竜区の守護者クラスだぞ」

 河井が真面目な顔で言う。俺も気配から判断して同意見だ。


 神部たちは意味が分からないという顔をする。彼らは草竜区なんて知らないだろうから当然だ。

「草竜区の守護者は、全長九メートルのトリケラトプスみたいな化け物だ」

 その情報を聞いた神部たちは、顔を青褪めさせた。


「私たちじゃ無理よ」

 水瀬が戦う前に降参した。まあ、当然だろう。銀山町四人の実力では無理なのだ。武器だけの問題ではなく、個体レベルも足りない。


「コジロー、どうしますか?」

 エレナが尋ねた。俺はやる気になっていた。ただ問題がある。神部たちを連れていけば、確実に足手纏いになる。それに今回の任務は、神部たちをガーディアンキラーにすることだ。


「まず、水瀬・石渡・土田の武器を何とかしてから、小獣区の守護者を倒させよう。馬頭区の守護者は、その後だ」

「分かったけど、武器はどうするんだ?」


「ミチハル、お前も見ただろ。馬頭羅刹の薙刀だ」

「なるほど、了解した」

 俺たちは馬頭区で馬頭羅刹を狩り、薙刀を手に入れた。方法は腕を切り落としてから、薙刀を奪い仕留めるというものだ。


 手に入れた薙刀は、俺が調整した。水瀬や石渡、土田の体格には合っていなかったのだ。調整と言っても柄を短くしたくらいである。


 武器を新しくした四人を連れて、小獣区に戻った。小獣区の守護者は、工事中だったらしい建設現場に居た。雑草が生い茂る土地の中心に分裂の泉があり、その傍にワーウルフの姿がある。


 狼が二足歩行になったような化け物だ。武器は戦棍だった。この守護者なら、神部たちが全員で袋叩きにすれば仕留められるだろう。


 新しい武器を持った神部たちは、ワーウルフに襲いかかり袋叩きにした。この状態だと誰がワーウルフを仕留めるのか予想もできない。


 結果、土田が最初にガーディアンキラーとなった。その報酬は所有するスキルのレベルがすべて一つアップされるというものだったようだ。

 そして、制御石の選択で『操氷術』を選んだという。


「さて、今日は野営する拠点を探そう。この辺りは住宅街だが、小さなビルがいいと思う」

 入り口が狭く防御しやすいビルを見付けた。入り口をロッカーなどで塞ぎ、臨時のバリケードとする。そのビルの三階が学習塾のようだった。


 その学習塾を拠点とすることに決める。土田は他の三人と話し合って、レベルアップで溜まったスキルポイントで『操闇術』のスキルを取得し、スキルレベル2まで上げた。


 スキルレベル2で【影空間】の能力が使えるようになるからだ。

 俺は四人に、シャドウバッグから食料と料理道具などを渡し、ここで待機するように指示した。


「コジローさんたちは、どうするんですか?」

 神部の質問に、馬頭区の守護者を倒してくると答えた。


 俺たちは外に出て、馬頭区まで行く。パン工場に入った俺たちは、パンを作る工場と倉庫の間にある運動場に、守護者の姿を発見した。


「うわっ、これはない」

 思わず声が出た。守護者は巨大な六本腕の馬頭羅刹だったのだ。身長は三メートルほどで、手には金剛杵こんごうしょ・弓・長剣などの武器を持っていた。


 守護者も俺たちを発見したらしい。弓を引き絞っている。その矢が放たれた瞬間、俺の横を何かが通り過ぎて衝撃波が起こり、身体が跳ね飛ばされた。


「何だ? 掠ってもいないんだぞ」

 素早く立ち上がった俺は、驚きの声を上げた。衝撃波が発生したということは音速を超えたことを意味する。あれは普通の弓とは違うらしい。


「大丈夫ですか?」

 エレナの声に『大丈夫だ』と答え、恐怖と緊張が湧き起こる。あいつに攻撃する時間を与えてはいけない。そう判断した俺は声を上げた。

「総攻撃だ」


 エレナが爆裂矢を放ち、美咲が【氷槍】を使う。その二つの攻撃は、守護者の表面を傷つけただけだった。巨大馬頭羅刹が、こちらに一歩だけ足を踏み出した時、その地面がなくなった。


 河井が『操地術』の【落とし穴】を仕掛けていたのだ。深さ三メートルの落とし穴に嵌った守護者は、手から弓を落とす。


 俺は素早く駆け寄り弓を拾い上げ逃げ戻る。守護者は憤怒の表情になり、穴から飛び出した。

「あの深さから、一気に飛び出して来れるのかよ」

 河井が驚きの声を上げる。



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