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scene:51 電気の分配

 俺たちは町内会で、県から依頼された作戦に参加して電気を手に入れたことを報告した。

「そいつは凄い。前と同じように電気が使えるようになるということだな」

 農家を代表する三人の中の一人である星谷が、事情を理解していないような言葉を発した。


 武藤が慌てて口を挟んだ。

「いや、県全体で五万世帯分だと言っただろ。全世帯に配電はできない。それに実際には工事があるから、三ヶ月後になる」

「なんだ……それで東上町には何世帯分の電気が配電されるんだ」


「一〇〇世帯分になる」

「少なすぎる。もう少し増やせなかったのか」

 星谷と同じ農家の武田が苦情を言った。


 俺は武藤の隣りに座って黙って聞いていた。だが、苦情のようなことを言い始めたので、説明した。

「県は、電気の半分以上を工場の再開に使うそうだ。残りの電気を住民の数と作戦への貢献度で判断して配ると一〇〇世帯分が東上町の分になる。これは公平に分配した結果だ」


「しかし、一〇〇世帯分か。東上町の全世帯に配電すると、照明に使うのが精一杯で、冷蔵庫や洗濯機も使えないかもしれんぞ」

 元の生活に戻りたいというのは分かるが、こんな世の中で元のような生活をしたいというのが贅沢なのだ。


 武藤の顔に怒りが出ている。

「文句ばかりで、感謝の言葉もないのか。我々のチームが参加したから、配電されることになったんだぞ。文句ばかりの奴は、話し合いから外れてくれ」


 町内会のメンバーが慌てた。

「あ、いや、あんたたちには感謝しているんだ。だが、電気が配電されると聞いて、元のような生活が戻ってくるんじゃないか、と期待したのだ」


 期待するのは勝手だが、何もしていないのに文句だけ言うのは許せない。俺と武藤は、底抜けのお人好しではないのだ。とは言っても、東上町に住む人々の生活を助けたいとは思っている。


 そこで五〇世帯分の電気は町内会に任せ、残り五〇世帯分は探索者たちで決めることにした。武田や星谷は不満そうだったが、県と交渉したのは俺たちなので諦めたようだ。


 町内会から帰り、空を見上げると真っ赤に染まっている。

「コジロー、五〇世帯分の電気は、どうするつもりなんだ?」

「まずは、俺と武藤さんたちの家、それに保育園には、電気が来るようにします」


「思いっきり私利私欲に走ってないか?」

「いいじゃないですか。それだけの働きはしたんですから」

「でも、保育園に必要か? 今じゃ子供たちの遊び場と寝る場所になっているだけだろ」


「あそこに洗濯機を集めて、コインランドリーみたいな場所にしようかと思うんです」

「そうか、女房が洗濯が大変になった、と言っていたからな」


「武藤さんは、何か希望がありますか?」

「製材所を再開したい。丸太を切り出すのはできるんだが、板や角材に加工する作業が時間がかかるんだ」


「薪を作るのにも利用できる。いいんじゃないですか」

「良かった。これで大工の佐久間が腕を振るえる。……でも、それだけじゃ、電気を使い切れないぞ」

「本当は、化学肥料工場とか立ち上げたかったんだけど、原料が手に入りそうにないんです」


「肥料か……天然のものでなんとかならないのか?」

「堆肥とか緑肥みたいなものでも効果はあるんですが、堆肥を手作りするのは大変らしいんですよ」


「ふーん、結局どうするんだ?」

「精米所と製粉所を合わせた機能を持つ工場を作ろうかと考えています。どこかに機械に詳しい人は居ませんかね?」


「探せば居ると思うが、機械を新しく作るつもりなのか?」

「今ある精米機や製粉機は、いずれ壊れます。その時のための準備ですよ」

 俺たちは保育園の前で別れた。自宅に入ると、美咲とエレナがリビングで話をしていた。


「あっ、お帰りなさい」

 エレナが笑顔で迎えてくれた。

「誰かの持ち家を借りてるんだと、思っていたけど。この家はコジローが建てた家なんだって、凄いじゃない」


 美咲から褒められたことがほとんどなかった俺は、戸惑った。

「まあね。いい人たちと巡り会えたのが、幸運だったんだ」


 俺の答えを聞いた美咲が溜息を吐いた。

「いいわね。私なんか最悪だったのよ」

「田崎市でのことですか?」


 エレナが尋ねると美咲が頷いた。

「そう言えば、コジローの『特殊武器製作』というスキルは、刀鍛冶みたいに金鎚でトンカンする必要があるの?」

「いや、『心臓石加工術』と同じで、素材とイメージ、それに意志力だけで加工できるものだ」


「それを聞いて安心した。刀鍛冶は最低でも五年の修業が必要だと聞いているから」

「そんなに待たせないよ。明日にでも薙刀は作る。でも、柄の部分はどうするかな」


 エレナが佐久間に頼んだら良いとアイデアを出した。

「そうだな。刃の部分を作ったら、佐久間さんに頼んでみよう」


 翌日、エレナと美咲の前で『特殊武器製作』のスキルを使おうと準備を始める。

 ブレードクロウの爪を用意して、数枚纏めて手に持った。『特殊武器製作』を発動して爪に意識を向ける。すると、爪が融合して一つの塊となる。


 エレナと美咲が息を呑む気配を感じた。いかん、集中しなければ、そう思って塊に集中力を向ける。薙刀の刀身の形については、美咲から説明を受けていたので、その通りに変形するように意志力を込める。


 塊が長く伸び、刃の形に変化を始めた。

「……完成した」

 目の前に薙刀の刀身が存在する。……ちょっと反りが足りなかったか。薙刀というより、長い剣鉈に似ている気がした。


「ちょっと失敗かな」

「いや、立派なものよ」

 美咲が薙刀の刀身を持ち上げ、重さを確かめる。切れ味を確かめることになり、外へ出て薪が置いてある場所へ向かった。


 美咲は薪を一本取って地面に置き、刀身を振り下ろした。軽く振り下ろされた刀身の刃が、薪を真っ二つにする。

「何これ、凄い切れ味じゃない」


 美咲は気に入ってくれたようだ。そうこうするうちに、河井が来た。

「今日はどうするんだ?」

「異獣の素材を集めながら、美咲に現状を見てもらおうと思っている」


 その日は海岸沿いに獣人区・奇獣区・樹人区・精霊区まで探索した。美咲は変わり果てた故郷の姿に衝撃を受けたようだ。

 俺は奇獣区のワイルディボアから牙、樹人区のトレントから木材を手に入れた。


 後日、トレントの木材とソードサウルスのヒレを使って複合弓を製作した。形はシンプルなリカーブボウである。魔物の素材を使用したことで、強力な弓となった。


 河井用としてワイルディボアの牙から、大きな両手剣を作製した。一三〇センチほどの両刃剣で、かなりの重さがある。


「大剣というには短くないか? 二メートルくらいのものを想像していたんだけど」

 河井が首を傾げている。

「馬鹿か。二メートルもある大剣なんて実戦では使えないぞ。あれは儀式用か飾りだ」


「そうなの」

 河井は大剣を持ち上げた。

「うわっ、結構重いな」

 ぎりぎり河井でも扱える重さの大剣に仕上がったようだ。


 柄の部分については、佐久間に相談すると木工職人の仙田を紹介してくれた。薙刀や大剣の柄や鞘は、仙田に作ってもらう。


 新しい武器を揃えた俺たちは、中断していた獣人区の守護者を倒すという作戦を再開した。

 俺は獣人区の守護者を倒すと決めてから、やってきたことを美咲に説明した。


「へえー、エレナとミチハルのレベルアップと精霊の入手、それに新武器の製作か。巨竜区の守護者を倒したコジローでも、そんな準備が必要だと思ったんだ」


 美咲は俺の技量なら、一人で獣人区の守護者を倒せたのではないかと、考えているようだ。

「そんな準備なしでも倒せたかもしれないけど、確実に倒せたかどうかは分からないだろ」


「まあ、そうね。巨竜区の守護者以上の化け物だったら、負けるかもしれない。正体を確かめたわけじゃないから、慎重になるのも当然か」

 美咲は納得した。


 俺たちは獣人区の守護者がいる耶蘇北高校へ向かった。途中で遭遇したオークは、新しい武器を装備した美咲たちが仕留めた。


 美咲は薙刀でオークの首を切り裂き、河井がオークの頭を大剣でかち割った。エレナの弓は貫通力が増したようだ。普通の矢でオークの頭蓋骨を貫通させ仕留めた。


 俺たちが耶蘇北高校に到着した時、学校から守護者の気配を感じた。

「巨竜区の守護者と比べて……弱いわね」

 美咲が俺の方へ視線を向けた。


 小鬼区の守護者と比べたら強いと思ったのだ。だから、戦力アップを行っていた。

「気配だけで、全部が分かるわけじゃないだろ」



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