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scene:47 リトルレックス狩り

 リトルレックスは死んではいない。河井が『操地術』のスキルレベル2で使えるようになった【投槍】を使った。石で出来た槍が空中に現れ、恐竜に向かって飛んだ。


 石槍は倒れているリトルレックスの首に命中。次の瞬間、恐竜の巨体が粒子に分解しテニスボールほどの心臓石に変わった。


 俺は河井に近寄って声をかけようとして、異変に気づいた。河井が立ったまま固まっている。どうやらレベルアップしたようだ。


 河井に声をかけるのをやめ、心臓石を拾い上げた。火属性の心臓石だ。

 動きが止まっていた河井が動き出し、大きく息を吐き出す。

「やっぱり、レベルアップはキツイな」


 俺は珍しく河井を褒めた。

「立ったまま耐えられるようになったんだな、立派じゃないか」

「へっ、当たり前だ」


 地面を転げ回って痛がっていた頃の河井を思い出した。人間は変化するものだ。だが、あの不思議な声が聞こえた時以来、その変化が激しくなったと感じた。


 熊田隊長と美咲がこっちに近付いてくる。

「コジロー、あのパワーは何なの?」

 パワーというと豪肢勁ごうしけいのことだろうか? 今では無意識に発動してしまう技である。


「レベルアップと『小周天』で気功を使ったからかな」

「気功? そんなスキル、聞いたことがない。珍しいスキルを持っていたのね」

 気功に関係するスキルについては、初耳だったようだ。


 熊田隊長が俺の擂旋棍を見ている。

「その戦棍は、どうした?」

「偶然手に入れたものです」


「どこで手に入れたのだ?」

「それは言えません」

「なぜだ。その武器が他にもあれば、任務が成功する確率が上がるのだぞ」


「そうは思えないな。武器を取りに行っている暇なんかないでしょ。それに、この武器は一つしかありません」

 言い負かされた熊田隊長は、渋々頷いた。熊田隊長としては、今回の作戦だけでなく、将来起きるだろう異獣との戦いに備え、強力な武器が欲しいと思ったのだろう。


 俺たちはまた進み始め、別のリトルレックスと遭遇。

「今度は、僕たちだな」

 守護者討伐部隊に組み込まれたもう一つの探索者チームが前に出た。


 このチームは、伊橋という三〇歳くらいの男を中心にした五人チームだった。チームの特徴は、『操炎術』を持つ探索者が四人も居るということである。


 彼らは『操炎術』の【爆炎撃】を連発した。六発ほどの攻撃を受けたリトルレックスが力尽きたように、地面に倒れた。最後は伊橋が、『操雷術』の【雷爆】を使う。


 【雷爆】は空から雷を落とすという攻撃だった。稲光と雷鳴が響き、リトルレックスの胸に命中した。雷の電流が心臓を焼き仕留めたようだ。


 この【雷爆】の威力は凄いのだが、かなり派手で騒々しい攻撃技だった。他のリトルレックスが気づいて集まってこないか心配なほどである。


 俺たちはまた山の斜面を登り始めた。途中で遭遇したリトルレックス二匹を仕留める。カルデラの入り口付近で三匹のリトルレックスがうろうろしているのを発見した。


「あの三匹を頼む」

 熊田隊長が、俺たちと伊橋チームに指示した。どうやら、ここで分かれて特殊精鋭チームだけが、カルデラに侵入するらしい。


「俺たちが二匹を倒すから、伊橋さんたちは一匹を頼むよ」

「僕たちが一匹でいいのか?」

「任せてくれ」


「仕留めたら、応援に行くから」

 伊橋たちは一匹のリトルレックスへ向かっていった。その時、特殊精鋭チームはカルデラへ進み始めていた。


 俺たちは特殊精鋭チームの背後を守るような位置に移動する。リトルレックスが俺たちに気づき走り寄ってきた。


「エレナ、頼む」

 俺の声でエレナが弓を引き絞った。爆裂矢が放たれ、リトルレックスの腰に命中して爆発した。巨竜はバランスを崩してよろめく。


 俺は擂旋棍に気を流し込んで走り出した。巨竜に近付いた時、頭上から巨大な爪が襲う。その攻撃を躱して、擂旋棍を太い足に叩き込んだ。


 巨竜の太腿から爆発したかのように肉片と体液が飛び散った。その巨体を支えられなくなったリトルレックスは、横倒しに地面に倒れる。


 武藤が『操風術』の【風迅槍】を放った。透明な槍が高速で飛翔し巨竜の腹部に突き刺さる。『操風術』は速いが、威力が足りないようだ。


 エレナが続けざまに爆裂矢を放つ。三本の爆裂矢が巨竜の腰・腹部・首へと命中し爆発する。最後の首に命中した爆裂矢が致命打となった。


 俺はもう一匹のリトルレックスへ襲いかかった。その時、武器を影刃サーベルに持ち替える。どちらの武器が有効か確かめようと思ったのだ。


 影刃サーベルを使うと精神力が削られる。その感覚が嫌いで、こいつを狩りの時にはあまり使っていない。俺は『操闇術』のスキルから得られる闇への干渉力を使って、影刃を伸ばす。


 直径四センチほどの黒い棒のようなものが、一メートルほどに伸び影刃が形成される。

 この影刃は何か特殊な力場ではないか、と俺は感じていた。と言っても、高度な専門知識があるわけでないので、そんな感じがするという曖昧なものだ。


 リトルレックスの突進を躱しながら、影刃を巨竜の脇腹に滑り込ませる。影刃は薄いカミソリの刃のように変化して脇腹の筋肉に食い込み斬り裂く。


 その時、抵抗を感じた。木を伐採した時やオークの胴体を輪切りにした時には感じなかった抵抗だ。そのために影刃の切り口が浅くなったようだ。


 おかげで十分なダメージを与えられなかった。リトルレックスが腰を振り、長い尻尾を鞭のように振り回す。俺は地面に転がって尻尾の攻撃を回避した。


「危ない!」

 河井が『操地術』で援護攻撃した。それにより巨竜の敵意が河井に移る。その隙に、立ち上がってリトルレックスの背後に回った。


「エレナ、頭を狙って」

 俺の要望に応え、エレナが爆裂矢を放つ。巨竜の頭で爆発が起こり、一瞬その巨体が揺らぐ。俺はリトルレックスの背中を駆け上がった。


 胸の高さまで登った俺は、影刃で首を薙ぎ払った。また抵抗を感じたが、意志力を強めると影刃が巨竜の首に潜り込み始める。精神から発した何らかのエネルギーが影刃サーベルに流れ込むのを感じた。


 これほどはっきりとエネルギーの流れを感じたのは、初めてのことである。そのエネルギーが斬り裂く力となって影刃の威力を高めるのだと悟った。


 巨竜の首が切断され、ドンと地面に落ちた。

「疲れる」

 俺は精神的に疲れて、その場に座り込んだ。それを見たエレナが駆け寄る。


「怪我をしたんですか?」

 心配そうな顔である。俺は首を振って影刃サーベルを使うと精神的に疲れることを伝えた。


 それを聞いた武藤が首を傾げた。

「何でだ、太い丸太を切っても、そんなに疲れないんだろ。何が違う?」

「……巨竜が強い異獣だということぐらいかな」


「ふーん、強い異獣は影刃に抵抗する何らかの力を持っているということか」

「でも、精神から出る意志力みたいなものを、影刃に注ぎ込めば強化できる? 不思議ですね」


 河井がニカッと笑い、その精神の力を『心力しんりょく』と呼ぼうと言い出した。

「心力って、精神力と同じような意味だったような気がするけど」


 エレナの反論は、河井によって却下された。意味などどうでもよく、音の響きが気に入ったらしい。

「伊橋さんたちは?」

 俺が尋ねた時、離れた場所で雷の轟音が響いた。どうやら、リトルレックスを倒したらしい。


 一旦、伊橋チームと合流したが、分かれてリトルレックスを狩ることになった。元々の作戦案がカルデラ周辺のリトルレックスを狩り、守護者の周りに集まらないようにするというものだったからだ。


 俺たちはリトルレックスを一匹ずつ狩り続けた。九匹目を倒した時、カルデラの底の方で大きな爆発音が響いた。武藤が不安そうな顔で音がした方に目を向ける。

「今の爆発音は、何だったんだ?」


「たぶん、美咲たちが戦っているんだと思うけど」

「ちょっと心配ですね」

 エレナの言葉に頷いた。


「確かめに行ってみようぜ」

 河井が言う。俺としては賛成だった。エレナと武藤に確認すると賛成だと言うので、カルデラの底へと下り始めた。



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