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人類にレベルシステムが導入されました  作者: 月汰元
第1章 未知の声編
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scene:23 樹人区のトレント

 獣人区に入ってオークと遭遇するようになると、意外にもエレナが活躍した。オークの首に正確に矢を放つ技量を披露したのだ。


 オーク一匹と遭遇した時、俺が前に出て敵の注意を引き付けている間に、エレナが矢を放ち仕留め始めるようになった。このことで異獣にも急所があるのかもしれないと思った。


「凄いな。正確に首を射抜くなんて普通はできないぞ」

 エレナが嬉しそうに笑顔を見せた。その後、エレナは弓を選んだのは失敗だったかもしれないと言い出した。理由を聞くと、奇獣区に矢の攻撃で倒れそうにない敵が居るのだという。


 奇獣区はワイルディボアとマーダーウルフが巣食っている場所である。マーダーウルフはエレナの弓が通用すると思うが、ワイルディボアは難しいかもしれない。


 俺なら超強力な弓を用意し鋼鉄の矢を使い力尽くで射抜いて仕留めただろうが、エレナはそんなタイプではない。そこで違うアプローチを検討した。


「『心臓石加工術』のスキルレベルが6になれば、解決するかもしれない」

「どういうこと?」

「こいつのスキルレベル5で与えられる【効力付与】とスキルレベル6の【複合加工】を使うと、爆発するやじりとかができるようなんだ」


 ヒーロー映画に出てくる弓を使うヒーローと同じことができると俺は考えた。そのことをエレナに話すと、『心臓石加工術』のスキルレベルを上げるように努力すると彼女は言った。

 ちなみに【複合加工】というのは複数の素材を組み合わせて加工し、目的のものを作り上げる技術である。


 獣人区をもうすぐ抜けようとした時、二匹のオークと遭遇した。

「このオークは、俺に任せてくれ」

「でも、二匹居ますよ」

「試してみたいものがあるんだ」


 俺は棍棒の先端を鉄で覆った武器、西洋ではメイス、日本では鎚矛つちほこあるいは戦棍せんこんと呼ぶ武器を構えた。

 すぐさま豪肢勁を使い始める。動きが速いハイオークならば、豪肢勁を使い始めるまで待っていなかっただろうが、相手はオークである。無駄に威嚇するだけで、すぐには襲ってこなかった。


 やっとオークの一匹が牛刀で襲いかかった時、準備はできていた。全身にみなぎる力を使って、牛刀を戦棍で弾き飛ばす。俺は自分が振るった力でバランスを崩しそうになった。何とか持ち堪えた俺は、驚くオークの顔に戦棍を叩き込んだ。オークが飛ぶように転がる。


 そのオークを援護するように別のオークが割り込んできた。俺は牛刀の斬撃を避け、腹に戦棍を叩き込む。苦しそうに蹲るオークの頭に全力で戦棍を振り下ろした。


 頭蓋骨が砕ける手応えを感じる。そのオークは心臓石に変わった。残った一匹が素手で襲いかかってきた。その手を躱し、戦棍を首筋に叩き込むと骨の折れる音が聞こえる。仕留めたのだ。


 エレナが目を丸くしていた。

「全然、動きが違う。何をしたんですか?」

 俺は笑って説明した。

「これは気を使って、筋力を増強させる技なんだ」


「そんなことが……」

 エレナが興味を持ったので、『小周天』について説明した。

「私のスキル選択には、そんなスキルは出てきていませんよ」


 どうやら個人個人で選択できるスキルが若干違うようだ。ただ『毒耐性』や『心臓石加工術』のように一般的なスキルも存在する。


 エレナは凄いと感心してくれたが、戦っている最中にヒヤリとする瞬間があった。自分のパワーに身体が振り回され、バランスを崩しそうになったのだ。


 まだまだ練習が必要なのだと感じた。それにパワーを完全に使いこなせていないと分かった。戦棍を振るった時に、反動で身体が後退したのだ。パワーのすべてを敵に叩き込むということができていないのである。


 オークが変化した闇属性の心臓石を拾い上げて仕舞う。

「奇獣区に入ると、ワイルディボアと戦うことになる。油断しないでくれ」

「マーダーウルフも素早いですから、要注意ですよ」

「そうだな」


 俺たちは奇獣区に入った。俺の実家がある町だ。道路がかなり傷んでいる。家屋も傷んでおり、塀が倒れ壁が破壊されている。そんな町で最初に遭遇したのは、マーダーウルフだった。大型犬ほどの大きさで、素早く凶暴な異獣である。


 三匹のマーダーウルフが目の前に飛び出してきた。エレナは素早く弓を構え矢を番えると同時に、マーダーウルフを狙う。


 素早く動き回る標的に矢を命中させることは難しい。ところが、エレナは簡単に命中させた。彼女は敵の動きを予想する能力に優れているようだ。


 一匹をエレナが仕留め、残りの二匹を俺が戦棍で倒した。

 マーダーウルフ程度では、危ない場面はなかった。だが、次に遭遇したのはワイルディボアだ。俺が島から戻ってきた最初の日に遭遇したワイルディボアは、一五〇キロほどの大猪だった。


 俺は一五〇キロでも巨大猪だと思ったのだが、今回はそれを遥かに超えていた。体重は倍の三〇〇キロほどありそうだ。エレナの弓では、大したダメージを与えられないだろう。


「本当に爆発する鏃が欲しいな」

「そうですね。コジローさんの戦棍で大丈夫そうですか?」

「どうだろう。戦ってみないと分からないな。でも、心配するな。いざとなったら、操炎術で仕留めてやる」


 俺の操炎術は、威力が高いけれども命中率が悪い。それでも何度か放てば仕留められるだろう。


 俺たちが会話を交わしている間に、ワイルディボアは道路のアスファルトを後ろ足で砕き、気合を入れている。

 突然、巨大猪が突撃を開始した。


 俺は前に出ながら戦棍を巨大猪の額に叩き込んだ。豪肢勁によりパワーアップされた筋力により加速した戦棍は、トン単位の打撃力があった。


 巨大猪の突進力と戦棍の打撃力が激突し、俺は弾き飛ばされた。道路をゴロゴロと転がり、バッと起き上がる。ちょっとフラフラする頭でワイルディボアの様子を見た。


 突進が止まり、酒に酔ったように千鳥足で歩いている。チャンスだった。俺は無理して突進し、戦棍でボコった。

「とりゃあ、ほりゃあ、せいやあ」


 俺が叫びながら戦棍を振り回している間に、エレナも矢を射たようで、いつの間にか巨大猪の首に矢が突き立っている。

 三〇秒ほど経った頃、ワイルディボアが心臓石に変わった。


「はあはあ……疲れた。やっぱり刃物の方がいいのかな?」

 エレナが懐疑的な顔をする。あれだけの筋肉と贅肉に覆われた異獣だと、刃が内蔵や急所まで届かない恐れがある。


「一度柳葉刀で戦ってみてはどうです」

「そうしてみよう」


 俺は二匹目のワイルディボアと遭遇した時、柳葉刀で戦ってみた。こいつも三〇〇キロ超えの大物で、一五〇キロほどの大猪は特殊な個体だったのかもしれない。


 戦った結果は、戦棍とあまり大差がなかった。仕留めるまでに何度も何度も斬撃を打ち込む必要があったのだ。


 ようやく奇獣区を抜け、木の化け物トレントが巣食っている樹人区に入った時、二時頃になっていた。

「まずいな。急ごう」


 樹人区は植物の成長が加速されているようだ。しかも、アスファルトの下から見覚えのない木が生えてきていた。二、三年経てば、ジャングルのような場所になるかもしれない。


「もしかして、あれがトレントですか?」

 エレナが木の化け物を発見して声を上げる。三本の足と食虫植物のハエトリソウのような頭を持つ奇妙な敵だった。


 三本足で近付いてくるトレントは、幹を切断しないと仕留められない。エレナには牛刀で戦ってもらうことにした。この牛刀は刃がボロボロになったものではなく、予備として保管していたものだ。


 俺は戦棍を構えた。ここまでの戦いで戦棍もかなり傷んでいる。予備を作っておいた方がいいかもしれない。

 トレントの頭は、正確に言うと口らしい。左右に開く口を開け、ずらりと並んだ歯を見せながら襲いかかってきた。


 俺たちは敵の攻撃を躱しながら、その幹に武器を打ち込んだ。数回の攻撃で幹が切断され、心臓石に変わる。エレナは大事そうに心臓石を拾い上げた。


「これがあれば、吉野さんを助けられるんですね?」

「そうだ。でも、一個で十分かどうか分からない。三個ほど持って帰ろう」

「分かりました」


 俺たちは後二匹のトレントを倒して合計三個の木属性心臓石を手に入れた。時刻は三時を過ぎている。早く戻らなければならない。


 急いで戻る途中、気配察知で異獣を発見した。上空を飛んでいる鳥が、普通の鳥とは別だと感じたのだ。

「気をつけろ、変な鳥が居る」

 エレナが上を見上げた。


「あれはマグネブバードです。電波を発しているものを持っていない限り、襲ってこないと言われています」

 マグネブバードが急降下の体勢になった。目標は俺たちではないようだ。


 狙っているのは、路上に駐めてある自家用車だった。もの凄い速さで急降下した体長二メートルの大きな鳥が、頭から車の屋根にダイブする。


 凄まじい音がして、車の屋根がべコリとへこみ内部も壊れたようだ。俺たちから三〇メートルほど離れた場所で起きた出来事だ。

 マグネブバードは車の中で藻掻いてから苦労して出てくると、飛び去った。


「何で車を?」

「さあ、何か電波を発するものが積まれていたのかもしれません」

「嫌な世の中になったな」


 エレナは古い型の機械式腕時計を見て、時間がないと告げた。俺も頷き急いで帰路に就いた。



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