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人類にレベルシステムが導入されました  作者: 月汰元
第1章 未知の声編
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scene:20 倉庫のハイオーク

 俺たちは倉庫に向かって進み、またオークと遭遇した。今度もエレナの弓と俺の牛刀で仕留めた。その時、エレナの個体レベルが上がった。


 苦痛に顔を歪めたエレナだったが、すぐに痛みは消えたようだ。個体レベルが上がると痛みにも耐えられるようになるらしい。選択できるようになったスキルの一覧を見て、エレナが笑顔になる。


「何かいいことがあったの?」

「『弓術』のスキルが選べるようになりました」

 弓の練習と実戦で弓を使ったからだろう。エレナは即座に『弓術』のスキルを選択したようだ。


 そこでふと気づいた。経験値みたいなものは、敵を仕留めなくても戦闘に参加すれば入るようだ。レベルの高い者がレベルの低い者に戦闘を手伝わせて、レベル上げを助けるパワーレベリングも可能だということだ。


 ただ戦闘では何が起きるか分からない。強い敵と戦わせた場合、一瞬の隙で殺されることもある。よほど慎重に行わなければ、パワーレベリングは危険だ。


 目的の倉庫は、獣人区の中央付近にあった。これは水道局が借りている倉庫で、水道局の事務員をしている柏木が何度も来たことがあるそうだ。


 柏木はひょろりとした背の高い男で、手製の槍を武器にしている。

「倉庫は向こうです」

 指差した方向には倉庫らしい建物がある。ただ、その向こうには耶蘇北高校があった。


「耶蘇北高校と近いんだな」

 俺が気になったことを告げた。

「近いと言っても、一〇〇メートルほどは離れている。大丈夫だろ」

 武藤はあまり気にしていないようだ。


 倉庫の前まで来た時、その扉が壊されているのが分かった。

「誰かが、扉を壊して中に入ったようだな」

「食料でも入っていると思ったんじゃないか」

 探索者の黒井と二之部が話しているのが聞こえた。


 黒井はがっしりした体格の男で、武器は剣鉈である。もう一人の二之部は、バールを武器にしている。ちなみに、武藤は手斧を武器にしていた。


 俺たちは荷物を下ろし、それぞれが武器を構えて壊れている扉から中に入った。

「何か気配を感じるが、暗くて見えないな」

 武藤が目を凝らして奥を見ようとしたが、ダメだったようだ。壊れた扉から少し光が入っているが、奥は暗くて見えない。


 農協ビルほどではないが、強い存在から放たれる気配を俺は感じた。

「気をつけてくれ。相手は強敵のようだ」


 その瞬間、倉庫の奥から地を震わすような咆哮が響き渡った。

「ヤバイ、外に出るんだ」

 俺たちは明るい外に出た。それを追いかけるように何かが飛び出してくる。


 明るい場所で確かめると、通常オークより一回り大きなハイオークだった。背丈は約二メートル、手には柳葉刀りゅうようとうを持っている。柳葉刀というのは、中国武術で使われる中国刀の一種である。


 武藤たちは怯えた表情を浮かべている。エレナの顔も強張っていた。

「俺が戦うから、皆はサポートしてくれ」

 牛刀を構えた俺は前に進み出ようとした。


「待て待て、おれが戦ってやる」

 高校生の二之部がエレナをチラリと見てから前に進み出た。

 二之部を見て、ハイオークがニタリと笑う。獲物が自分から進み出たみたいなことを考えているのかもしれない。


 ハイオークが二之部に襲いかかった。柳葉刀が二之部に向かって振り下ろされ、その柳葉刀をバールで受け止めようとする。一撃でバールが弾き飛ばされ、二之部が尻餅をついた。


 ハイオークが二之部を蹴り上げた。

「ひゃあ!」

 悲鳴を上げ宙に舞う二之部。俺は前に跳び出した。それを見たハイオークが脅すように咆哮を上げた。


 咆哮は耳が痛かった。だが、このハイオークからは島のミノタウロスほどの脅威を感じない。俺がハイオークを相手している間に、地面で伸びている二之部を武藤たちが引きずって後方に避難させる。


「おい、本気で戦うつもりか。勝てると思っているのか?」

 武藤は逃げた方が良いと言いたいらしい。だが、ハイオークの動きを見て、簡単に逃げられそうにないと思った。


 オークの動きはドタドタした感じで付け入る隙がいくらでもあった。ところが、ハイオークは違う。巨大なパワーを使って機敏な動きをしている。


「エレナも隙があれば、矢を放ってくれ」

「や、やってみます」

 俺はハイオークに向かって走り出した。間合いに入ると全力で牛刀を振るう。その牛刀が柳葉刀で弾かれた。凄いパワーで、牛刀が手から飛びそうになる。


 ハイオークが真上から柳葉刀を振り下ろす。横に跳んで躱し牛刀を奴の腹に送り込んだ。ハイオークが飛び退いて躱す。それでも牛刀の刃が脇腹に浅い傷を付けた。


 大した痛みのない掠り傷だ。それでもハイオークが怒りの叫びを上げる。怒ったハイオークは柳葉刀を振り回し始めた。恐ろしい速さで襲ってくる刃を躱しながらチャンスを待つ。


 エレナが矢を放った。その矢はハイオークの右肩に突き刺さる。刺さったのは二センチほどで深くはない。だが、ハイオークの注意が俺からエレナに移った。


 俺はハイオークの死角に飛び込み牛刀の斬撃を放った。その刃は左足の太腿を深く切り裂いた。ハイオークは力任せに柳葉刀を振り回す。そこに隙ができた。柳葉刀を躱した直後に、柳葉刀を持つ手に牛刀を振り下ろした。


 偶然にも刀術スキルが教えた技と動きが重なり絶大な威力を発揮した。ハイオークの手首から先を斬り飛ばしたのだ。


「誰か、その刀を拾ってくれ!」

「お、おう」

 武藤が刀を拾った。俺は武藤から柳葉刀を受け取り、それで攻撃を始めた。


 手首を斬り飛ばしても、そこから真っ赤な血が噴き出るということはなかった。体液である青い血が滲むくらいで生物を切ったような感じはしない。これは異獣が真っ当な生物ではなく、あの例の声の存在が用意した化け物だからだろう。


 武器を失ったハイオークは、怯むことなく体当たりを敢行した。俺はぎりぎりで躱し柳葉刀をハイオークの首に送り込んだ。豚頭が宙を飛ぶ。

 ハイオークは心臓石に変化し、俺の手には柳葉刀が残った。


【レベルが上がりました】

 例の声が頭に響いた。エレナも声を聞いたようだ。俺は立ったまま襲ってきた苦痛に耐えたが、エレナはしゃがみ込んだ。


 俺たちの様子を見て、武藤たちは何が起きたのか悟ったようだ。

「おめでとう。個体レベルが上がったようだな」


 俺は頷いてから息を吐き出し、右手に持つ柳葉刀を持ち上げてチェックした。武藤が柳葉刀に気づいた。

「何だ。何で刀が残っているんだ?」


 異獣の武器を奪って、それを使って殺せば心臓石にならずに残るということを、武藤たちは知らなかったようだ。俺が説明すると驚いていた。


「しかし、凄いよ。コジロー君は」

 水道局の事務員だった柏木が声を上げた。


 俺は少し休んでから、倉庫の調査を始めようと声をかけた。

「もういいの。もう少し休んだら」

 エレナが心配そうに声をかけた。

「大丈夫だ。それより倉庫の中が気になる」


 その時になって、牛刀の状態に気づいた。柳葉刀の攻撃を受けたせいで刃が欠けボロボロになっている。

「こんな状態で、よくハイオークの手首が切れたな」

 とりあえず、布を取り出して巻いた後にバックパックに仕舞った。柳葉刀は鞘がないので抜身のままである。


 二之部の怪我は大したことはなかったようだ。起き上がってハイオークの黒い心臓石を拾い上げ、俺に渡してくれた。

「ありがとうな。助かったよ」


 無謀な戦いを仕掛けたあげく簡単に負けたことを恥ずかしそうにしている。武藤たちから教えてもらったらしく、助けられたことを感謝していた。


 柏木が倉庫の入り口付近の棚で懐中電灯を見つけたので、それを使って中をチェックした。ハイオーク以外の異獣は居ないようだ。


 俺は倉庫の中でハイオークが何をしていたのか、疑問に思った。

「あのハイオークは何をしていたんだろう?」

「さあな。異獣の考えなど分からん」

 武藤は異獣の行動などどうでもいいようだ。


 倉庫の入口付近にはトラックが停めてあった。

 おれたちは倉庫で大量のパイプと継ぎ手、工具などを発見した。当然だった。ここの倉庫は水道局に関係がある倉庫で、事務員だった柏木は中にパイプがあることを知っていたからだ。


 倉庫のトラックにはガソリンが残っていた。トラックの運転手だった黒井は、出番が来たと喜んでいる。


 皆でトラックに倉庫の塩ビパイプなどを積み、下条砦まで運んだ。五回ほど往復し、ほとんどのものを運ぶことができた。だが、それでトラックのガソリンが尽き、黒井が残念そうにしていた。



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