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scene:152 世界の現状

 俺と美咲は、中国の食料エリアについての情報を聞き話し合った。

「中国が、食料エリアに王朝を築いたと言うけど、どうなると思う?」

 美咲が俺に尋ねた。

「昔の中国に戻っただけじゃないか。だけど、何で人数を制限しているんだろう?」


 美咲が笑う。

「中国は、人が多くなり過ぎたと反省したんじゃないの?」

 過剰な人口増加を抑えるために、中国は『一人っ子政策』を始めたが、近年では少子高齢化に悩むようになっていた。


 そこで食料エリアを得た機会に、選ばれた少数の国民でやり直そうとしているというのが、美咲の意見である。


「そのために何億という国民を、切り捨てるという事か。冷徹というか、非情だな」

 中国の食料エリアでは、ほとんど機械を使っていないらしい。そうなると、人力で畑を耕し作物を育てることになる。人口は多いほど良いはずだが、中国は食料エリアへの人口流入を止めている。


 誰でも転移できる転移ドームのことが広まれば、人々はその転移ドームに押し寄せるだろう。中国政府はそれを警戒しているのだ、と美咲は言う。


「でも、将来は気をつけないとダメね」

「どういう意味?」

「中国の食料エリアでは、これから出生率が急激に上がると思うの」

 これから中国の食料エリアでは、人口が急増するのではないかと美咲は予想している。もちろん、出産制限は無くなっている。


 中国は若い労働力が欲しいのだ。但し、その労働力は無学の方が良いと考えたのではないか、と美咲が言う。


 諸外国と競い合って発展していくためには、教育された多くの人材が必要だった。だが、諸外国と切り離された食料エリアでは、高学歴の人材は選ばれた者たちだけで十分だと考えたのだろう。


「将来は気をつけないとダメだと言ったのは、人口が増えて、中国の食料エリアが手狭になったら、他国の食料エリアへ手を伸ばす、ということ?」


 美咲が頷いた。それはどれくらい先の話だろう。もしかすると数十年で、その日が来るかもしれない。俺たちは中国が膨張を始める時に備えて、準備をしなければならない。


「中東やアフリカ、南アメリカはどうなんだ?」

「かなり酷い状況になっているそうよ」

 中東とアフリカ、南アメリカは異獣と空気中の毒で人口の九割が死んだらしい。王族や政府幹部、金持ちはヨーロッパへ逃げたようなのだが、そのヨーロッパが大変な事になっている。


 ヨーロッパの食料エリアは、西と東で食料エリアを一つずつ分け合う形になったという。つまり一つの食料エリアの中に数ヶ国の人々が逃げ込んだ。


 しかも手に入れられた制限解除水晶が少なかったらしい。なので、移住の順番を政府要人から始め、その順番を決めた基準に問題があった。


 最後に回されたのが、新しく移民してきた者たちだったのである。その事を知った移民が暴動を起こし、それが内戦にまで発展したようだ。


 内戦は制限解除水晶をセットした転移ドームの奪い合いとなった。ヨーロッパの人々は銃弾が無くなると、銃を弓に持ち替えて戦っているらしい。


 しかも、その戦いは食料エリアの内部にまで持ち込まれ、大変な状況になっている。

「ヨーロッパには近付かないのが正解ね」

「人口がかなり減ったはずだから、全部の生き残りを移住させても、十分生活できたと思うけど」


「最後には、誰が食料エリアで主導権を握るか、という話になったんじゃないかしら」

「ということは、食料エリアへの移住が成功したのは、アメリカと日本だけということか」


「周りの国々と比べれば、そうだけど……まだ分からないことが多すぎるのよ」

 美咲が溜息を吐いた。


 アガルタでは、交通網の整備と住宅建設を中心に開発が進められた。住宅は一戸建てではなく集合住宅が多くなり、交通網はクゥエル樹脂で舗装された道路が整備され、バスの運行が始まった。


 アガルタで生活を始めた人々は、落ち着きを取り戻しアガルタを発展させようと努力を始める。その努力はクゥエル支族が残した資料の研究にも影響し、いくつかのことが分かった。


 大きなエネルギーが必要になった時、クゥエル支族はある立体紋章を利用したようなのだ。その立体紋章がどれかは分かったが、どうすれば起動するのかが分からない。


 それにアガルタの海底の泥が建設資材として使えることが分かった。海底に溜まっている泥というのは、プランクトンの死骸と排泄物なのだが、これを石灰と一緒に混ぜて乾かすと岩のように固くなるのだ。


 アガルタでは海底の泥を掬い上げる専用船を建造し、建築資材として利用を始めた。この効果は大きく、住宅と道路の建設が進む。


 美咲たち行政長官は、アガルタをどうやって住み良い場所にするかを話し合い、まず行政単位を確立した。元の都市国家を中心に二十八の州に区分したのである。


 美咲はヤシロ州の州知事になり、新しい日本を率いる一人となった。この時は首相や大統領のような首長は決めずに、二十八人が合議してアガルタ全体をどうするかを決める事にした。


 その二十八人の中で、一番発言力が強いのが美咲である。紅雷石・生産の木を発見したのがヤシロの者であり、アメリカとの交渉を担当したのが美咲だったからだ。


 ヤシロに企業も集まり始めた。自動車産業や電気産業などは、エネルギー源である紅雷石発電装置を開発生産しているヤシロに本社を置くことが有利だと考えたのである。


 ヤシロの人口も増え、六十万人となった。

 俺とエレナの二人目の子供が生まれた。女の子である。美桜(みお)と名付けた。俺は嬉しくて仕事もせずに、赤ちゃんの顔を一日中見ていたほどだ。これは一人目の子供アンナの時と同じである。おかげでエレナに叱られたが、子供たちのためにも頑張らないと。


 アガルタ全体でも出産が増えている。だが、ここには学校や病院も十分にあるので、中国の食料エリアほど急激な人口増加はないだろう。


 アガルタでもスパイを中国の食料エリアへ送り込んで、調査することにした。そうでないと、不安だからだ。


 中国の食料エリアでは、やはり子供が急激に増えているらしい。但し、子供の死亡率も高くなっているという。十分な医療が受けられないようだ。


 世界は段々と安定期に入ったようだ。このまま各国の食料エリアが開発され、争いごとがなくなればいいのだが。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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