scene:144 巨大昆虫の守護者
オーストラリアに来てから分かったのだが、キャンベラの連中はシドニーの近くにある鉱山を襲ったらしい。アメリカと取引している鉱山であり、大量の食料を蓄えていたようだ。
日本が援助している炭田とシドニーとは距離があるので、キャンベラの連中がここまで来るには時間が掛かりそうだと分かった。
「コジロー、すぐに日本へ帰るのか?」
「いや、この近くに巣食っている守護者を何匹か倒そうかと思っている」
河井が『何で?』という顔をする。
「新しいスキルを手に入れようかと思ったんだ」
「ああ、この前調べた時に欲しいと言っていた『神気戦闘術』と『神速術』か?」
「そうそう、それだよ」
「今更、新しい戦闘用スキルが必要なのか?」
河井は神気と翔刃槍があれば十分だという意見らしい。
「最近、翔刃槍が変な音を出し始めたんだ」
翔刃槍を使うとミシッという音が出るようになって、気になっているのだ。もしかすると、壊れる前兆かもしれない。壊れた場合、戦力がガタ落ちしそうな気がして、代わりのものが必要だと思ったのだ。
「へえー、武器にも寿命があるのか。考えれば当然か」
この世に不滅のものなど存在しない。それに武器などは消耗品なのだ。
守護者が倒された事がない異獣のテリトリーをオーストラリア人から聞いた。それは近くにある巨大昆虫のテリトリーらしい。
途中に大トカゲの異獣が棲み着いている場所があったが、久しぶりに鋼鉄鞭を使って一掃する。鋼鉄鞭に神気を流し込んだ状態で、『操磁術』を使って鋼鉄鞭を振り回すと凶悪な武器に変わった。
鋼鉄鞭に触れたもの全てが切り裂かれるのだ。
「それがあれば、翔刃槍が壊れても大丈夫なんじゃないか?」
河井が鋼鉄鞭の破壊力を見て言った。
「この鋼鉄鞭の耐用年数は、短そうな気がする。いきなりブチッと切れるんじゃないか」
俺が『操磁術』で鋼鉄鞭を振り回して、大トカゲを真っ二つにしているのを見ていた河井がジト目で俺を見る。
「そんな使い方をしたら、どんな武器も耐用年数が短くなるさ」
俺は肩を竦め、先に進んだ。そして、ここの守護者と遭遇する。大トカゲのボスらしく全長八メートルもあるトカゲだった。
その守護者は、河井が放った『操炎術』の【フレア】によって焼き尽くされて倒れた。守護者を倒した褒美で『大剣術』のスキルレベルをマックスまで上げる。
次に制御石に触れて、大トカゲに襲われない護符を作る知識を得た。残念ながら、スキルを一つ習得するという選択肢は残っていなかったという。
その後、俺たちは巨大昆虫のテリトリーに辿り着き、巨大なクワガタと戦う羽目になった。全長三メートルのクワガタは、強烈に頑丈な化け物だった。
黒い外殻に河井がフレアソードを振り下ろしても、その斬撃を跳ね返すほどの強度があったのだ。
「何でこんなに硬いんだ?」
愚痴っぽく河井が言うと、俺は神気を込めた翔刃槍を巨大クワガタの頭に突き出した。
神気で強化された貫通力により、その槍の穂先が硬い外殻を貫く。但し一撃では仕留められず、二撃三撃と突きを放って仕留めた。
「鋼鉄鞭は使わないのか?」
河井が質問してきた。俺は周りを見回し、
「木が邪魔で使えないよ」
ここはイチジクの木が生い茂っており、その木が邪魔で鋼鉄鞭は振り回せなかった。
「クワガタの大顎は、武器にならないのか?」
「翔刃槍や鋼鉄鞭の代わりにするには、威力が足りない気がする」
河井は自分が使っている剣を見た。
「このフレアソードも替え時なのか?」
「まあ、そうだな」
そんなことを話しながら進んでいると、守護者が棲家にしている池の傍まで来た。ここの守護者は、子供に人気のあるカブトムシである。
但し、このカブトムシは体長七メートル、狼牙棒のような棘付きの打撃部を持つ角を持ち、その角から稲妻のようなものを放出することができるという化け物らしい。
俺は鋼鉄鞭を取り出して、神気を鞭に流し込む。鋼鉄鞭から神気が漏れ出し白く輝く。これは俺の体内にある神気が増えて、大量の神気が鋼鉄鞭に流れ込むようになったせいである。
その鋼鉄鞭を『操磁術』で操り、巨大なカブトムシに叩き付ける。神気を帯びた鋼鉄の鞭が黒い外殻に食い込んで大きな傷を付けた。
守護者は角を振り回して暴れ始める。俺たちは守護者の攻撃を躱しながら隙を窺う。巨大カブトムシの角から、稲妻のような雷撃が発射され、俺に襲い掛かった。
俺は『機動装甲』のスキルで防御を固めていたので、致命傷にはならなかったが、受けた衝撃で弾き飛ばされて宙を舞った。
地面に叩き付けられたが、ピョンと起き上がる。
「あんなのを食らったのに、平気なのかよ?」
「『機動装甲』のおかげだ。河井も取れたらいいのに」
「どうやったら、スキルリストに出るようになるのかが、分からないからな」
俺は鋼鉄鞭でもう一度攻撃しようと振り回したら、それを角で防がれ鋼鉄鞭が角に巻き付いた。その瞬間、雷撃が鋼鉄鞭に流される。
俺は慌てて鋼鉄鞭から手を離した。
「あっ」
雷撃を受けた鋼鉄鞭がズタズタに切れた。一部分は高熱が発生して溶けたようになっている。
俺は後ろに跳躍して距離を取り、翔刃槍を取り出す。河井が『操炎術』の【フレア】で攻撃した。高熱の炎が巨大カブトムシを包み込んで焼く。
だが、炎が収まった後の守護者は、平気な顔で角をブンブンと振り回している。俺は翔刃槍に膨大な神気を流し込み三日月型の神気の刃を放つ。
神気の刃は守護者の首に命中し、刎ね飛ばす。頭を失ったカブトムシはしばらく生きていたが、突然倒れて死んだ。残す部位を選択するように促されたので、雷撃を放つ角を残すことにした。
【レベルが上がりました】
守護者を倒しても、一つしかレベルアップしなかった、それに苦痛もそれほどでない。完全に慣れてしまったのだ。
【守護者ヘラブレスを倒しました。あなたの所有するスキルから任意の一つをレベルマックスまでアップさせます。どれを選びますか?】
頭の中に響いた声に従い、俺は『特殊武器製作』をマックスまでアップさせる。その後、制御石に触れて『神気戦闘術』のスキルを取得した。
この『神気戦闘術』は、俺が今まで神気を応用して戦闘に使っていた方法を体系化し、神気を固定化して武器として使うものだった。
河井が守護者の角を回収して俺に渡す。
「これで武器を作るんだろ?」
「ああ、久しぶりに打撃用の武器になりそうだ」




