表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/178

scene:138 オーストラリアの炭田

 チェンバレン博士は紅雷石発電装置を徹底的に調査して、その発電原理を確認した。結果として、日本側の説明通りだった。


 サリンジャー大統領はシュルツ長官と軍の代表であるフレッチャー将軍を呼んで、チェンバレン博士からの報告を検討する。


「大統領、紅雷石という資源を、日本人に任せてよろしいのでしょうか?」

 フレッチャー将軍が危険な発言をする。それを聞いた大統領は、苦笑する。

「将軍、もはや世界に軍を派遣していた頃のアメリカではないのだよ」


 フレッチャー将軍が苦い顔をする。

「ですが、紅雷石は石油に変わる重要な資源となるのですよ。それを日本に任せて良いのですか?」

「任せるしかないだろう。別に何か方法が有るとでも言うのかね?」


「日本の食料エリアに攻め込んで、紅雷石の鉱山を占拠するのです」

 サリンジャー大統領が渋い顔をする。

「それが可能なのかね? 鉱山の場所も分からないのだよ」


「鉱山の場所など、住民に聞けば良いのです」

「将軍、日本は我々の同盟国だ」

「承知しております。ですが、日本政府は名前だけの存在になり、都市国家の首脳が合議制で運営しているようではないですか。もはや同盟国だった時の日本とは違います』


「君が国のことを考えて言っているのは分かるが、失敗した場合は紅雷石が手に入らなくなる。その話はなかったことにしてくれ」


 大統領の決定を聞いたフレッチャー将軍は、一瞬だけ不満そうな顔をしたが、承諾した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アメリカからオーストラリアの炭田や鉱山を譲り受けた俺たちは、アガルタの各都市国家に声を掛けて行政長官たちを集め、オーストラリアの鉱山経営について話し合った。


「オーストラリアに残っている人々との間で、問題が起きることはないのかね?」

 ニュー横浜の行政長官である島谷が尋ねた。


「ミネラルサンドと鉄鉱床に関しては、障害はないと思われます」

 美咲が言うと、何人かの行政長官が『どうしてだ?』という顔をする。


「この二つは採掘が止まっていたからです。無人の状態になっていると思われます」

「なるほど、そういうことか。ならば、採掘が続けられている炭田だけが問題になりそうなのだな」

「ええ、そこは最盛期の二割ほどの規模で採掘が続いています。日本が輸入していた石炭は、ここで採掘されていたものです」


 この炭田で働いている人々は、アメリカへ行くのを拒否した人々である。そこの人々は石炭の代価として、食糧を要求している。


 日本からも食糧を運んでおり、日本とは縁があるのだ。

「そのオーストラリアの人々は、どうするんだね?」

「アガルタに来たいというのなら、連れて来ます。オーストラリアから転移できる食料エリアへ行きたいというのなら、制限解除水晶を一つだけ渡してもいいと思っています」


「それは危険じゃないのかね。オーストラリアには、大勢の犯罪者が残っていると言っていたじゃないか」


 美咲が頷いた。

「はい、もちろん日本が管理する鉱山や炭田は、厳重な警備を行います」

「そこまでして、地球側の資源が必要なのだろうか?」

 島谷が疑問を投げた。それを聞いた美咲は溜息を漏らす。


「我々は、生活の必需品の何割かを心臓石を加工して得ています。そのために異獣を狩る必要があり、地球側での拠点が必要なのです。その拠点を維持するための資源です」


 それに鉄鋼などの産業は、地球側に置いておこうと考えていた。必要な資源が地球側にしかないからだ。それを説明すると、島谷も納得した。


 アガルタの建築物は、生産の木に実る『樹脂果』から取り出されたクゥエル樹脂を建築資材として建てられることが多くなっており、鉄はあまり使わなくなっている。それもあって高層ビルがない。


 しかし、橋や見張り塔は鉄が使われており、アガルタでも必要だった。乗り物などにはアルミなども必要だが、それは日本中にある車などからアルミを回収して使っていた。


 アガルタの探索者たちは、心臓石の他にもアルミや銅などの資源も日本から回収して、アガルタに運び込んでいる。その中で鉄が不足気味なのだ。


 行政長官全員の承諾を取った美咲は、視察のために船を出すことにした。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 視察に行くのは、俺と河井、それに鉱山技術者たちである。移動に使うのは電気式に改造した大型クルーザーだ。本当は豪華クルーザーにしたかったのだが、乗船人数が多すぎて使えなかった。


 大型クルーザーを整備して乗り込んだ俺たちは、日本海を西へと向かう。台湾を過ぎフィリピンに沿って南下すると、フィリピンの町が見え始める。


「東南アジアの諸国は、どうなっているんだろう?」

 河井がフィリピンの町を見ながら言う。

「食料エリアへ移住したかどうかは、分からない。連絡が途切れているからな」


「東南アジアの人々に、制限解除水晶を譲るということはできないのかな」

「とっくに使っているかもしれないぞ」


 日本だってまだアガルタの生活が軌道に乗ったとは言えない状態なのだ。他国を援助する余裕はない。

 大型クルーザーはインドネシアの沿岸を通って、オーストラリアへ近付いた。アラフラ海から珊瑚海へ向かい、クイーンズランド州の大炭田に到着。


 この炭田は古くから日本との関わりが深い炭鉱群が多くあり、露天掘りが可能な炭田だった。港に大型クルーザーを停泊させると、俺と河井、それに鉱山技術者の数人が高機動車に乗って、炭田のある方へ向かう。途中、何匹かの異獣に遭遇したが、俺と河井で倒す。


 この辺はオーストラリアの人々が道を整備しているので、楽に炭田まで行けた。途中、石炭を運ぶ貨物列車とすれ違ったが、石炭焚きの機関車が煙を上げていた。


「うわーっ、蒸気機関車か。古い機関車を修理して使っているのかな?」

「どうだろう。新しく製造したのかもしれないぞ」


 日本は紅雷石が有るから必要ないが、他の地域は蒸気機関車が復活したところも多いかもしれない。


 事務所らしい建物に近付き車を停める。俺たちが車から下りると、事務所から人が出てきた。

「何者だ?」

 ちょっと癖のある英語が聞こえた。俺も少し英語を勉強したので、ちょっとした会話くらいなら話せるようになっている。


「日本から来ました。アメリカから連絡をもらっていませんか?」

「この炭田は、おれらのものだ。アメリカのものでも、日本のものでもない」


 こういうことが有ることは予想していたので、俺たちは慌てなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ