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scene:110 化け物猿

 仮首都の人々が移住する時に障害となる巨大な猿の化け物を駆除しなければならない。

「猿の化け物を駆除するのなら、その化け物と遭遇した探索者に案内させましょうか?」

 貴島が提案した。


「本当ですか。案内してもらえるのなら、助かります」

 俺たちは喜んで、その提案を受けた。貴島は仮首都で探索者をしている米谷よねたにと小阪という男たちを紹介してくれた。二人は二〇代の探索者で、いつも二人組みで探索しているらしい。


「あんたたち本当に猿の化け物を倒しに行くのか?」

 体を鍛えているらしい米谷が俺たちに尋ねた。

「ええ、案内をよろしくお願いします」

「そうは見えないけど、凄腕の探索者なんだろうな」


 俺たちは仮首都の転移ドームから、食料エリアへ転移した。

「コジロー、移住する人たちは、ここから北へ八〇キロほど歩いていくのか?」

「それくらいだったら、歩けるんじゃないか?」


「老人や子供たちも居るんだぞ」

「そうか、老人と子供か……乗り物を用意するしかないな」

 小阪が俺に視線を向けた。

「燃料はどうするんだ?」


 俺は軽油やガソリンが少なくなっているのを知っていた。

「電動トラックを集めて利用するのもいいな。電気は紅雷石発電装置があれば、何とかなるだろうから」


 ヤシロには紅雷石発電装置を製造する工場もあるので、十分な量を揃えられる。問題はバッテリーだが、充電できないようなら、技術者に紅雷石発電装置からモーターへ直接電気を供給する方法を考えてもらおう。


「電動トラックは、どこで手に入れる?」

 河井が質問した。

「耶蘇市にある物流センターに、電動トラックが三台ほど停まっていたのを見ている」

「あそこは大鬼区の守護者がいるところじゃないか」


「そうだけど、俺たちなら倒せると思う」

「油断はまずいぞ」

「そうだな。電動トラックを回収に行く時には、慎重に戦おう」


 俺たちは北へと進み、米谷たちが猿の化け物に遭遇した場所まで来た。

「我々が化け物と遭遇したのは、ここだ。あの森から出て来たんだ」

 米谷が右手の方角にある森を指差した。北へ行くルートで森の近くを通らなければ、遠回りすることになる。化け物猿を倒さなければならないようだ。


「たぶん、あの森を棲み家にしているのだと思う」

 小阪は確信がありそうだ。俺は翔刃槍を手に持ち森に足を踏み入れた。エレナは羅刹弓と爆裂矢を持ち、河井はフレアソードを構えている。


 この森はリンゴに似た果物がたわわに実っていた。猿の化け物が食べているのだろうか? そんなことを考えながら、俺は森の奥へと進んだ。


 この森は食べ物が豊富な場所だった。化け物猿が居なければ『恵みの森』と呼ばれるかもしれない。


「旨そうだな」

 河井がリンゴを枝からもぎ取って齧りついた。その瞬間、甘い香りが周りに広がる。その香りを嗅ぎつけた何かが警告の叫びを上げた。


 森がざわつき化け物猿が姿を現した。身長三メートルもあれば、巨人と呼ばれてもおかしくない。だが、そいつは人ではなかった。


 赤茶色の長い毛が全身を覆い、分厚い胸と電柱のように太い腕は全てのものを壊してしまうようなパワーを(みなぎ)らせている。


「こいつには、操炎術が効かなかったんだ」

 米谷が情報を追加した。但し、操炎術のレベルが分からない。たぶん【爆炎撃】で攻撃したのではないだろうか?


 河井が『操地術』を使って石槍を放った。その石槍を化け物猿は機敏に躱す。俺は気を練り始め、それが神気に変わる。


 俺が攻撃する前に、エレナが爆裂矢を放った。その攻撃が化け物猿の胸に命中して爆発。その巨体がぐらりと揺れたが、倒れることはなく逆襲してくる。


 神気を衝撃波に変えて放つ。その衝撃波を受けた化け物猿が吹き飛んだ。それを見た米谷と小坂が、目を丸くして驚いていた。


「何をしたんだ?」

「何も見えなかったぞ」

 地面に倒れていた化け物猿が起き上がった。そして、凄まじい咆哮を上げる。小阪と米谷はビクッと反応していた。


 俺は神気を流し込んだ翔刃槍を化け物猿に向けて突き出した。翔刃槍の穂先から三日月型の神気の刃が形成され、撃ち出される。


 神気の刃は凄まじい威力を持っていた。一メートルほどの神気刃は、化け物猿に命中すると胴体を真っ二つとした。


「おいおい、あっさりと化け物猿を倒しちゃったよ」

 小阪と米谷は呆れたような顔をする。それほど簡単に倒してしまったのだ。


「さて、森の中を確認しよう。他にも化け物猿がいるかもしれない」

 俺たちは森の中を歩き回り、化け物猿を探した。その結果、三匹の化け物猿を倒すことになった。


「森から化け物猿を駆除した。これで安全は確保できた。次は船の確保だ」

 俺たちは北へと進みストーンサークルを発見した。これが日本海近くの都市に転移できるもののはずだ。ここを通って食料エリアへ転移した人々は、もう少し西に行ったところに町を開発しているはずである。


 俺たちはストーンサークルの内部にある転移模様に足を踏み入れた。次の瞬間、俺たちは日本に転移していた。


「伊葉市ですね」

 エレナが声を上げた。伊葉市は日本海に面した港町である。ここにはマリーナがあり、様々なヨットやクルーザーが停泊していた。


「この中で大きな船をチェックしよう」

「どんな船がいいんだ?」

 河井が確認した。俺としては五〇〇人ほどが乗れる船が欲しかった。但し、本当に定員五〇〇人の船だと大きすぎるので、定員は八〇人から一〇〇人ほどの船で、詰め込めば五〇〇人が乗れるという船が良かった。


 俺たちは残っている船を一隻ずつチェックしながら歩いた。河井が豪華クルーザーを見付けて、これが良いと言い出した。


「待てよ。これだと詰め込んでも一〇〇人くらいしか乗せられないぞ」

「一〇〇人なら十分じゃないのか?」

「全部で二万人を運ぶんだぞ。二〇〇回も往復することになる」


 毎日往復したとしても半年以上かかることになる。それでは遅いと考えた。

「あの船はどうですか?」

 エレナがカーフェリーを指差した。定員が三〇〇人ほどの中型カーフェリーだ。


 俺は顔をしかめた。

「あれだと亜空間に入らない気がする」

 それを聞いて河井が首を傾げる。

「何で亜空間に入れる必要があるんだ?」


「ここから耶蘇市までは船で行って、耶蘇市からここまでは亜空間に入れて運ぼうと思っているんだ」

「それは燃料の節約ということですか?」

 エレナの質門に俺は頷く。

「そういうこと」


「燃料の節約か、船の燃料は何を使っているんだ?」

 河井が尋ねた。

「重油だと聞いたけど、もしかすると軽油かもしれない」


 日本が貿易で使っている船は、重油を燃料にしていた。だが、石油が足りなくなった今は、石炭を粉末状にしたものを燃やして燃料にしているらしい。

 石炭火力発電で使われている技術を応用したようだ。


「あれはどうですか?」

 エレナがまた声を上げた。それは双胴型の船で二階建て船室が見えた。どうやら中でパーティーなどもできる豪華クルーザーらしい。


「大きさは、定員八〇人くらいか。無理すれば五〇〇人は乗れる。いいんじゃないか。中を確かめてみよう」


 俺たちは豪華クルーザーを調べた。船体が傷んでいるが、致命的な破損箇所はない。バッテリーが上がっているようだが、中は綺麗だった。


「はあっ、やっぱり燃料が空だ」

 俺は燃料を確かめて溜息を漏らした。河井が手を打ち鳴らした。

「そうだ。これを電動にできないのか?」

「電気推進船にするということか……できるかもしれない」


 耶蘇市に建設中の造船所は、この電気推進船を建造する造船所なのだ。技術者も職人も揃っている。最初の仕事として、この豪華クルーザーを改造するというのは面白いかもしれない。



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