scene:108 仮首都の混乱
「コジロー、どうした。何と書いてあるんだ?」
「試しの城で会ったレビウス調整官の種族について書いてある」
レビウスの種族は『モファバル』というらしい。彼らはクゥエル支族より二千倍も長い歴史を持つ種族で、進化が止まった終焉種族であるという。
モファバルは不思議な種族で、様々なエネルギーを利用する超高度な文明を築いている。その中には荒っぽい方法でエネルギーを集める手段もある。
その一つが生命に満ちている世界から直接%$&#エネルギーを収奪する方法だ。クゥエル支族が住んでいた世界も、その対象となったらしい。
%$&#エネルギーがどんなエネルギーかは分からないが、クゥエル支族の世界にもレベルシステムが導入された。そして、食糧生産に支障をきたすようになったようだ。
クゥエル支族はモファバルから与えられた食料エリアに移り住む決断をしたという。
「どういう意味です。農業に問題が発生したのは、異獣のせいではなくモファバルのせいなんですか?」
エレナが怒気を含んだ声を上げた。
俺は頷いた。
「どうやら、そうらしい。どんなエネルギーを収奪しているのか分からないが、モファバルにとって必要なものなのだろう。そして、その結果で滅びようとする知的生命体に救いの手を差し伸べている」
「そいつら、頭おかしいだろ。救いの手を差し伸べるくらいなら、地球に手を出さなければ良かったんだ」
「気持ちとしては、同意する。けれど、人間も同じようなものだからな」
「何がだよ?」
「俺たちの世界にも、自然保護区とか絶滅危惧種を守ろうとかいう活動があるからな」
河井は不満そうな顔で黙る。人間は野生動物なんかとは違うという意識があるのだ。だけど、そう言うと傲慢だと思われることも分かっている。
エレナが俺に顔を向けた。
「それで地球は滅びるのですか?」
「いや、生命力が強く環境変化に対応できる種は生き残るらしい。ただ農作物はどうだろう? 生命力という点で言うと農作物は全滅し、雑草が生い茂るという結果になるような気がする」
「だったら、何でレベルシステムなんてものを導入したんだ?」
河井の問いに、俺は顔をしかめた。
「救う価値があるかを、見極める手段のようだ」
捕鯨に反対する国の人々が、クジラは知能が高いから殺すなんて、とんでもないという意見を言う。それと同じでレベルシステムを導入して人類の能力を見極め、助けるかどうかを決めるらしい。
「じゃあ、助ける価値なしと判断されたら、絶滅しても構わないというのか?」
「モファバルにとっては、そうなんだろう」
エレナが首を傾げている。
「でも、救う手段が、レベルシステムというのは、ゲームをしているみたいに思えますけど」
本当にゲームをしているのだったら、怖い話だ。
「結果的に、モファバルは人類を助けることに決めた。だから、食料エリアを開放したんだ」
「でも、地球のエネルギーを奪い取ることはやめないんだろ」
「モファバルにとって、そのエネルギーが必要なんだ」
「この状態が、どれくらい続くのですか?」
エレナの質問で、俺は碑文に目を向けた。
「数百年くらい続くようだ。ほとんどの人間は、食料エリアに移住することになるだろう」
河井とエレナが暗い顔になった。
「このことを政府に伝えなきゃいけないな」
河井が言った。俺もそうだと思ったので頷く。ただ突拍子もない話なので、政府が信じるかどうかは分からない。
その後も廃墟の都市を調べたが、碑文以外のものは発見できなかった。
ヤシロに戻った俺たちは、発見したことを美咲に伝えた。
「へえー、そんなものが見つかったの。私も行けば良かった」
「無理をしない方がいい。忙しかったんだろ?」
「そうなのよ。出産予定の家庭が六世帯もあるのよ。出産に備えて、産婦人科医と病院を準備しなきゃならない」
ヤシロには、様々な問題が山積みとなっている。竜崎と美咲が協力して捌いているようだが、かなり大変らしい。自分たちでできることは、俺たちで片付けることにした。
まずは政府と連絡を取ることにした。電話が通じなくなっている。たぶんシフトが起きて、電話線が異獣に切られたのだろう。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
次の日、忙しい美咲は残して、俺たち三人で転移ドームへ向かった。
そこから仮首都の隣の町に転移する。仮首都に行くのは危険がある。そこで食料エリアへ転移して、仮首都の方へ移動することにした。
政府は、仮首都の転移ドームから食料エリアへ転移した場所に町を開発している。俺たちが目指しているのは、開発中の町だ。
そこには政府の関係者がいるはずだ。俺たちは東に進み、開発中の町を探した。オフロード車はガソリンがもったいないので使わない。
「中々見つからないな。大きな町のはずなんだが」
広い草原を見回した俺は、愚痴るように言った。
河井が急に立ち止まって右手の方を見る。
「あれじゃないのか?」
遠くに町のようなものが見える。俺たちはそちらに向かった。
探し当てた政府が開発中の町は、予想より規模が小さかった。どうやら仮首都から転移するストーンサークルの近くには、広い町を造る土地がなかったらしい。
「ヤシロの半分くらいしかないじゃないか。ちょっとガッカリだ」
河井が不満そうな声を上げる。
「きっと、ここを中心に広げようという計画なのよ」
エレナがフォローしようとしているが、ストーンサークルから近いところを選んだだけのように思える。
「とにかく、生駒大臣か貴島さんに会って話をしよう」
俺たちは食料エリアの議員会館みたいなところへ行って、生駒大臣と貴島を探した。見つかったのは、貴島だった。
「貴島さん、探しましたよ」
「おっ、摩紀さんじゃないですか。装甲列車も走っていないのに、耶蘇市からよく来れましたね」
「隣町のストーンサークルから歩いてきたんですよ」
「何かあったんですか?」
「クゥエル支族が残した都市の遺跡を発見したんですよ。それを報告に来たんです」
「クゥエル支族の都市遺跡ですか。凄い発見です。これが一年前だったら、大騒ぎになっただろうけど」
「どうしたんです?」
「この前のシフトで、政府の余裕がなくなったんですよ」
貴島の話によると、シフトが起こった時、仮首都では住民の食料エリアへの避難を行わなかったらしい。そして、シフトが起こり仮首都の住民エリアの傍に、毒虫区がシフトしてきたらしい。
俺は思わず溜息を漏らした。耶蘇市にあった毒虫区が消えていたのだ。どこにシフトしたのかと思っていたが、まさか仮首都へシフトしていたとは。
「毒虫のおかげで、日本政府の政治家が大勢死んだのです。最後まで日本に残って仕事をされていた総理も、五日前に死にました」
日本政府が混乱していると感じていたが、総理が死んだのか。
「誰が総理になったんです?」
「生駒大臣が、新しい総理に決まりました」
衝撃の事実だった。




