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scene:104 生産の木

 美咲から聞いた話では、生産の木の種を加工することで望んだ実をつける木が育つ種になるという。その種の加工方法だが、『心臓石加工術』に似ているらしい。


 そんなことを話している間に、エレナが知識を習得した。

「さて、もう少しだから、船の確認を続けよう」


 俺たちは他に何かないか船内を探した。だが、他には何もなかった。ただ、いくつかの部屋にクゥエル支族が住んでいた痕跡を発見した。


 子供の落書きのようなものを発見したのだ。文字らしいものも書かれており、これが解読できれば何か発見されるかもしれない。


 河井が落書きを見詰めながら口を開いた。

「なあ、これを政府に報告するのか?」

 どうするかな? と悩んでから、

「報告するしかないだろ」


「どうしてだ?」

「政府の人間もヤシロに住んでいるんだ。これだけデカイと隠しようがない」

「……ん、そうだな。隠すのは無理か」


 美咲が口を挟んだ。

「この巨大船は、白石君たちが発見したものよ。政府に報告するかどうかは、彼らの意見も聞かなきゃ」

「そうだな。それに中を見たがっていたから許可してやろう」


 これまでは危険があるかもしれないので禁止していたのだ。耶蘇市の人々も見たがるだろう。


 俺は美咲とエレナに目を向けた。

「ところで、生産の木は船の材料の他に何が生産できるんだ?」


 エレナが最初にアイデアを出した。

「例えば、木綿や絹が作れる材料を生産するのはどう?」

 美咲が同意して頷いた。俺も河井も賛成だった。


 河井が変な事を言い出した。

「一つの木に、バナナやリンゴ、梨、葡萄なんかを実らせるというのはできるのか?」


 エレナが頭の中にある知識を検索しながら考え答えを出した。

「種類が違う果実を、一つの木に実らせるということは可能です。でも、収穫数は少なくなる気がします。それに二、三種類が限界だと思いますよ」


「庭に一本植えておけば、一年中果物が食べられるというのは無理なのか。残念だ」

「これだけ広い土地があるのだから、たくさん植えたらいいじゃないですか」

「それだと木の世話をする農作業が増える」


 溜息を吐いた俺は、美咲に顔を向けた。

「美咲は、どんな実を考えているんだ?」

「良質の油が大量に取れる実かな。元々日本の植物油自給率は、数パーセントだったから、回収した油がなくなると、好きな料理も作れなくなるのよ」


 俺は一つ疑問を持った。

「でも、木が大きくなるには数年必要なんだろ?」

「そこをクゥエル支族の技術は解決しているの。約一〇ヶ月ほどで実がなるほどに急成長するそうよ」


「木を増やすのは、どうするんだ?」

「ソメイヨシノと同じで、挿し木で増やすみたい」

 俺は美咲の手の中にある。種の数をチェックした。十四個である。十四種の生産の木しか作れないということだ。足りないのではないか? そう思ったので美咲に確かめた。


「きっと種を増やす方法があると思うの。三個は未加工のまま残して、種を増やす研究に使うつもりよ」


「じゃあ、加工できる種は、十一個か。現在の候補は、建築素材・木綿・絹・植物油の四つ、後七個は別のものを生産できる」

「砂糖なんて、どうだ?」

 河井が提案した。


 それを聞いて、俺が却下した。食料エリアで農業をしている吉野が、砂糖大根とも呼ばれる甜菜(てんさい)の栽培を食料エリアで始めており、それが順調なのだ。


 甜菜が育てられるなら、砂糖は確保できる。そのことを河井に話した。

「なんだ、砂糖は大丈夫なのか。だったら、アルコールはどう?」

 美咲が否定するように首を振った。

「アルコールは嗜好品(しこうひん)よ。牛乳だったらいいかも」


「はあっ、牛乳だって。植物からは無理だろう」

「ベジタリアンのために、合成牛乳というのが研究されているそうよ。クゥエル支族の技術なら不可能じゃないと思う」


「……そうなんだ。でも、牛乳なら乳牛を飼えばいいだけじゃないか?」

「分かってないのね。畜産は大変なのよ。それに日本で生き残っている乳牛が少なくなっているから、集めるのは難しいと思う」


「ふーん、牛乳か。チーズやバターが作れるのは嬉しいけど、どんな木になるんだ。まさか、木の枝に牛乳瓶が生るのか?」


 河井の言葉で生産の木に牛乳瓶がたわわに実っている光景を想像して、それはないだろうと思う。


 話はそれくらいにして、ヤシロへ戻ることにした。戻った俺たちは、巨大船を発見した白石たちや佐久間などを呼んで話し合った。


「へえー、そんな亀がいたんだ。後で見せてよ」

「ああ、いいぞ」

 俺は巨大亀の死骸を亜空間に収納している。政府に調べてもらおうと思っているのだ。


 話し合った結果、巨大船を政府に報告することになった。発見者は白石たちで、調査したのは俺たちということになる。


 翌日、耶蘇市に戻った俺たちは、政府に連絡して巨大船のことを伝えた。すると、すぐに調査チームを派遣するという。


 その調査チームというのが、生駒大臣と数人の技官たちだった。防衛省と文部科学省の技官らしい。

「なぜ、生駒大臣が?」

「食料エリア担当大臣も兼務することになったのだ。日本の政治家で食料エリアを直に見たことがあるのは、二人だけだからね」


 食料エリアであるから、農林水産省の車田大臣が兼務するのが良さそうに思えるが、車田大臣は農業問題で超多忙らしい。


 日本どころか世界各地で農産物が不作になり、問題が山積みしているらしい。食料エリアから食料を調達するしかないと思うのだが、地方によってはガーディアンキラーが存在しない町もあり、中々大変なようだ。


 一方、エネルギー問題を解決する目処が立った生駒大臣が、割と暇になったので兼務ということになったらしい。本当なら別の政治家を任命するのだが、人材不足のようだ。


 俺と美咲が案内することになった。調査チームが六人だと聞いていたので、俺は八人乗りのオフロード車を用意していた。


 転移ドームから食料エリアへ転移すると、オフロード車に乗り込んだ。ヤシロへ行って、そこで休憩してから、北西に向かう。


 初めて巨大船を見た調査チームのメンバーは、口を開けたまま動きを止めた。

「……これは、本当に巨大だ」

 生駒大臣が言葉を絞り出すように言った。


 俺たちは大臣たちを案内して、巨大船に向かう。破損している部分から内部に入り空っぽの部屋を見て回り、調査メンバーはガッカリした顔をする。


「どの部屋も空っぽなのかね?」

 生駒大臣が尋ねた。

「ええ、空っぽでした。ただ巨大亀の背中にクゥエル支族の遺物が残されていただけでした」


「その遺物ですが、壊したそうですね。残して欲しかったです」

 技官の一人が言った。

「クゥエル支族が残した知識を得るためには、壊すしかなかったのです。しかし、メッセージの全ては、伝えたはずです」


「しかし、そのメッセージが本当かどうかを確かめる手段がなくなった」

「俺たちは探索者です。発見したものは発見者のもの、それがルールなんです。自分の所有物なら壊すのも自由です」


「それは異獣を倒して手に入れたものだろう。今回の場合は違う。日本の、いや世界の命運を握るかもしれないような情報を、君たちが判断できるのかね?」


 だったら、日本の政治家や官僚に判断できるのかと言い返したかったが、言おうとして美咲に止められた。

「では、あなた方はどうしようと考えているのです?」


 質問を返された技官は、返答に困ったようだ。アイデアもなければ行動もしないで、文句ばかり言う連中だ。

 生駒大臣が苦笑して口を挟んだ。


「うちのメンバーが失礼なことを言って、すまんね。ただクゥエル支族に関する情報は、重要だと我々は思っているのだ」


「私たちもそうです。なので、政府に伝えました」

「そのことに関しては、感謝している。ところで、生産の木に関することなのだが、その種を日本で育てることはできるのかね?」


「それはやめた方が良いと思います。日本の農産物は原因不明の不作になっています。その原因が生産の木に及ぶかもしれません」


「なるほど、そうなるとガーディアンキラーの存在が、重要になる」

「ガーディアンキラーを増やす活動は、続けているのですよね?」

「もちろん、続けている。但し、ガーディアンキラーになれるまでレベルを上げた探索者が、それほど多くないのだよ」


 探索者を育てられなかったのは、日本政府の明らかな落ち度だった。俺は溜息を漏らす。またガーディアンキラーを増やす仕事が回ってきそうだ。



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