再三お努め開始
────然して、トータル小一時間。
「あーいうことばっかしてるからファンが増えるんですよ?」
「この件さっきもやったな……」
男女の分け隔てなく揉みくちゃにされた末。最低限の『お務め』は果たしたかなと息を吐きつつ賑やかな輪の外へ出てくれば、迎えたのは面白がるような友の声。
基本、俺が何しようが『身内としての呆れ』よりも『エンタメ視聴者としての楽』に浸るのがノノさんという御人。馬鹿野郎が馬鹿をやるのを見て「もっとやれ」と裏表なく大手を振るタイプは、地味に俺の知人友人では珍しいタイプだ。
決まって応援はしてくれるとしても、大体は皆「アホだコイツ」って呆れから入るからな────と、にゅふにゅふしている平常運転オレンジ色の他。
「それぞれ、どこ行った?」
見回しても姿の見えない非一般勢の行方を問うてみれば、見ようによっては一人で俺を待っていたようにも思える【彩色絢美】殿はニヤ顔を引っ込めて、
「鉄君は料理人勢のミーティング。ナツメちゃんは防衛網もとい防衛〝糸〟を敷設しながらの見回りへ。ニアちゃんリィちゃんはぁ────」
それぞれの行先を順に口頭で伝えていき、
「お宅で、誰かさんの帰りを待ってまーす」
それは果たして、如何なる揶揄いの表情なのか。謎のキメ顔かつ流し目で俺を見ながら、遠くにある俺専用住居を両手で示して一礼した。なんなん。
いや、今回イベント内で俺たちが没頭する予定の件については共有済みだし、それに際して構築されるであろう光景が傍から見りゃアレだろうというのは……。
まあ、理解しているけども。
「……あの、伝えてある通り、あれだからな。割と業務だからな」
「わぁかってますともー! どうぞ外のことは気になさらず真面目に一生懸命に三人でイチャ────んもとい成すべきことをしていただいてっ! ハイ!!!」
「『ハイ!!!』じゃねぇんだわ」
そんでもって、この人が面白がって囃し立ててくるであろうことは読めていたけども……と、まあ読めていたからこそ覚悟もしていたので、それは置いといて。
「真面目な話……」
「ぁハイ。真面目な話オッケーです」
見ようによっては、というか、実際に俺を待っていてくれたのだろう。【干支森】参謀もとい相談役様は、頼りにすべき時に頼りになってくれる。
そんな御人でもあるから憎めないのだ。然らば────
「悪いけど、作業を始めたら多分こっちから外のことはミリも感知できなくなると思う。リィナの『魔法』で音も気配も完全シャットアウトするから」
「ほぇー、あの子そんなことまで出来ちゃうんですか」
「出来ちゃうらしい。なんか『同意が必要』だとかは言ってたけど」
「魔法って不思議ですねぇ……や、星属性が特別なだけかもですけど」
「だな。んで、つまりあれだ、外で何かしらヤベーことが起こったとしても俺たち気付けないし、基本は食事とか『夜襲』の時以外は出ないつもりだから……」
「オッケーオッケーです。ほんっっっっっとーにハルさん呼ばなきゃ対応無理な大事件とか起きない限りは呼びませんし、いざ起きたら起きたで迷わず呼びます」
「申し訳ねぇ。マジで運営諸々そっくり全部、丸投げになっちまいますけども」
「だーいじょうぶですよ皆さん優秀ですし、ノノミちゃんも頑張りますから!」
つらつら伝え答えて、締めは元アイドル様の迫真細腕マッスルポーズ。
ありがたいかな。その華奢な敏腕が冗談抜きで頼りになることを知っている俺は、それではと申し訳なさを放って信頼と感謝を手繰り────
「よろしく頼んだ、参謀殿。なんかあれば【糸巻】様に泣きついてくれ」
「了解でありますリーダー殿!」
笑みを交わして、待ち人いたりという自宅へ足を向けた。
◇◆◇◆◇
……ってなわけで、お宅へと帰ってきたところ。
「ぇなにしてんの」
「な、なんだろ……」
「準備運動……?」
扉を開けた俺を出迎えたのは、揃って他人様のベッドの上で簀巻きごっこ(???)に興じている藍色娘と青色娘の二人だった。
どういう経緯で『そうなった』のか全く不明。それぞれが一枚の毛布を両端から巻き取る形で美少女巻き寿司と相成っている者たちへ素のツッコミを投げてみれば、あっちもあっちで自分たちの行動が意味不明らしく首を傾げたのは計三人。
わかるよ。あるよね、そういうこと。
……いや、あるか? ねぇわ。なにしてんのコイツら────
「ファンサ、終わった?」
と、困惑の沼に沈みかける俺を澄まし顔でサルベージしようとする元凶の片割れ。ほっそい身体でスルリと器用に簀巻きから抜け出したリィナが問う。
まるで何事もなかったかのような顔だ。恐ろしいアイドルである。
自分でも首を傾げるような奇行を目撃されたからだろう、恥ずかしがって頭を引っ込め簀巻きからミノムシにジョブチェンジしたニアちゃんとは格が違う。
お前もさっさと出てこいや可愛いかよ。
「終わった。ひとまずはな……ってことで」
「うん。いつでもいい、よ」
ともあれ、ニアは一旦放置でも構わない。
「んじゃ、始めるか」
いざ作業開始。俺の『記憶』とリィナの『魔法』によって先日の攻略風景を再現録画する試みだが……まあ、暫くは試行錯誤で本録画には至れないだろうから。
ゆえに「あー」だの「うー」だの唸りながらベッドの上で好き放題のたうち回っていただいても、別に最初の内は構いやしない。
むしろそっちこそ録画してくれようかってな具合────まあ冗談として、とにもかくにも早速のこと始めようとリィナへ目配せをすれば、
「膝」
「……まあ、仕方なし」
求められた特等席に許可を出せば、ストンと一切の躊躇なく収まる小柄な身体。本当に『仕方なし』文句を言わないのは今回だけだぞと、言い訳は誰にともなく。
「そしたら、あー……『音』に関しては」
「〝幻〟だから、見せる対象と聞かせる対象は自由自在」
「漏れは心配ナシ、と。録画録音についても……」
「私の〝幻〟はシステムも騙せるから、無問題」
「ほんと、理解すればするほどエゲつねぇ魔法だよな……」
「ぶい」
再確認を取りつつ、褒めろと言わんばかり後頭部で胸元を打つ頭を唯々諾々と撫でる。女子ではなく猫か何かと思うべしこそ駄妹との触れ合いの定石だ。
さてさて、それでは。そのもの猫が如く喉を鳴らす、エゲつねぇ魔法の持ち主様が満足した頃合いを見計らい────
「よし、頼む」
『記憶』を呼び覚ますため息を整えた後、号令一発。
「ん……────《夢幻ノ天権》」
俺は、成すべきことに取り掛かった。
残念ながら仮想世界のベッドに持ち主の匂いは付きませんよニアちゃん。




