あこがれの
俺が各種取得したアレやコレやが連なる『竝枝界拓』のMIDツリーは、簡単に言えばプレイヤーが明確に『MP』を『魔力』として扱えるようになる拡張能力だ。
いやMP=魔力で魔力=MPってのは元からだが、そうじゃない。言葉としての意味合いではなく、実際的に別物と化すとまで言っても大袈裟ではないだろう。
あくまでシステマチックに活用する他に使い道がない『MP』から、
自分の意思で好きなようにできる『魔力』へと、容を変えるのだから。
昨日、ソラと一緒に体感した第一段階センス《感識》は序の口だ。常時発動型魔力感知能力の獲得から始まり、才能に関わらず誰でも知覚可能となった謎エネルギーを如何様に扱ってみたいのか────というのが、MIDツリーのコンセプト。
たとえば俺の取得したセンスだと……まず第二段階《顕幻》で『可視化魔力の任意発露』が可能となり、続く第三段階《現界》にてレベル毎ある程度の『物理的影響力』が発現、同じく第三段階《幻操》で『具現魔力の思考操作』が解禁される。
そして第四段階《属醒》を解放することにより、各プレイヤーの潜在的かつ根本的な『属性』が覚醒。各々の魔力は各々に相応しい形態に変化するってな具合。
ぶっちゃけ、説明だけ聞かされても理解できるわけがない。
いやニュアンスってか雰囲気は察せられるが、実際に体験してみないと何がどうなるのか上手く予想できる者などいやしないだろう。
実際に『魔力』を操ったことのある人間なんて、真面目な話いるわけがないんだからな。仮想世界にて才能に恵まれた極少数の既存例外は除くものとする。
────とまあ、さて置いて。
昨日は挨拶回り諸々で一日が終わったゆえ、取得と同時に実感させられた《感識》以外のセンスについては触れてすらいない状況だった。
そんな折……なに? なんか『弁が開いた』とかなんとか意味のわからんことをペラペラ喋り、みっともねぇだの舐められるだのと呆れた顔を向けるまま。
手本を真似してみろと唆す性別不肖【銀幕】麗人にテメェこら目にもの見せてくれるわ(?)と、無知かつ半分ヤケっぱちに……こう、なんだ。
気合い的なものを適当に放出するイメージで、堰を切ってみた結果。
「────ちょちょちょちょちょ待て待て待て止まれ止まれヤベェって!!?」
瞬く間。
俺は轟と激しく渦を巻き視界を埋め尽くす、青い輝きに呑み込まれていた。
「ちょっと、おい、ゆらッ!?」
マジで、完全なる、制御不能。
無色透明に近い仄かな青、撚り集まっては深い青。
『竝枝界拓』の実装前から一部界隈では常識とされていた個人毎の魔力色、それが《顕幻》にて誰でも簡単に判別可能となったんだよなぁコレがそうかーとか成程へぇ俺の魔力の色は無色に近い青だったのかーとか感心も感想も後回しだ。
なにこれ────いや洪水どころか竜巻じゃねぇか何も見えねぇ‼︎
「おいコラゆらッ! ゆらさん!? ゆらせんせーッ!?」
然して、当然のこと助けを求めるも……。
「……──、─────、────」
「いや聴こえねぇ‼︎ 腹から声出せッ!!!」
アルカディア十八番ご都合音声伝達システム、好き放題に荒れ狂う我が魔力が放つ轟音の前に完全敗北。竜巻の向こう側から薄ッッッすら何事か声音のようなものが耳に届いたが、なにを言ってるかなど欠片も判別不能────
と、魔力の壁を隔ててなおも目に届く紫紺の輝き。
瞬間、俺の意になど全く従わず大暴れしていた魔力の渦が忽然と消失。さすれば開けた視界、目に映った銀色の瞳は芸術的なまでに俺を見下しながら……。
「なにしてんだテメェ、馬鹿が」
「よしオーケー場所を変えようぜ訓練所だ。ソラさんにも『こういう感じの先生』してるってんなら《疾風迅雷》&サクラメントも辞さんからなテメェこの野郎」
ご機嫌に喧嘩を売ってくるものだから、秒で即買い。それから暫く楽しい楽しい口喧嘩の応酬と相成り、俺たちは実に有意義かつ無駄な時間を過ごした。
◇◆◇◆◇
然して、場所を移して数分後。
「────……ほらみろ、まともにやりゃ簡単にできんじゃねぇか。なんで『とりあえずアクセルべた踏み』が基本なんだよ反論あんなら言ってみろ馬鹿が」
「誠に申し訳ないと思っている」
「どこ見て言ってんだクソガキ」
俺たちは仲睦まじく口喧嘩を続けながら、真っ白な空間こと訓練場にて早々『特訓』を了としていた。そう、了ってのはつまり────
「いやーしかし、懲戒免職RTA教師は置いといてコレは感動ものだな……」
先の竜巻暴風……もとい、暴水に比して対極の静謐。魔力特有の空間に浸み込むような光輝を放つ〝せせらぎ〟を周囲に侍らせ、左右の手で自在に操りながら。
「…………やばい、超楽しい。一生やってられる」
悦に浸る俺の胸中、白状すればコレが本懐。
バトル漫画やらアニメやらでのド定番。即ち『魔力』だの『気』だのを身体から放ち操る強者ムーブの代表たる絵こそ、俺が求めたものなのだから。
────戦闘力拡張?
────便利能力獲得?
ッハ、知ったことかよ。俺はなぁ……! 今まで、ずっと……ッ!
ずッッッッッッッッッッと、我が相棒の臨戦態勢にて魔力ぶワァーッが超格好良くて無駄と知りながら謎練習したりするくらい死ぬほど羨ましかったんだよ!!!
「ゆら」
「あ?」
「これで、俺も今日からファンタジーだな……」
「なに言ってんだ気色悪りぃ」
まあ、なにはともあれだ。
「練習、付き合ってくれて助かった。サンキュ」
「別に。私が世話焼かなくても勝手に何とかしてただろ、お前」
「いやぁ……」
礼を言えば即座に不要と打ち返されてしまったが、実際問題ゆら先生はメチャクチャ練習の助けになった。なんせ舵取りが分からず暴走を起こしてしまう都度、かのルール制定『魂依器』の権能で以って即鎮圧してくれたものだから。
「ほら。ゆらが大変なだけなら幾らでも失敗していいかって、気楽にできたし」
「ぶっ殺すぞ」
なんかもう、コレさえ物騒な親愛の五文字に聞こえてきた俺は末期かもしれん。
ゆらチョロ末期。あまりの面白チョロさに対する俺側までチョロチョロと容易に好感度が上がってしまう処置無し状態。いと恐ろしき不良様である────
「ってか、やっぱ〝水〟なんだな俺。似合わねー」
と、言い表すのが難かしい感覚とて一度『記憶』してしまえば俺のモノ。
水流という容を取った我が魔力を縦横無尽に操り弄びながら、もう既に操作性良好だけど《幻操》のレベルを上げる必要あんのかコレとか考えつつ、ぽつり。
ふわっと湧いた疑問ってか感想を零すと、
「ハル」
「うん?」
名前を呼ばれ、再び視線を向ける。
「裏返ってみろ」
「……うん?」
さすれば、そんなことを【銀幕】殿が仰るものだから。『緑繋』攻略からこっち、なんか思い返せば地味に久々な気がしないでもない鍵言を────
「《転身》」
呟き、転じた、その瞬間。
「──────ふぉぇあッ!?」
バチッと、雷光。
無色に近い透明な青、色はそのまま。
揺蕩う〝水〟から迸る〝雷〟へと姿を変えた魔力が、変わらず俺の周囲へ侍り瞬いたゆえ。反射的に不本意極まりない高い悲鳴を上げてしまった俺を他所に。
「…………成程な。そうか」
「いや『成程な』でも『そうか』でもねぇわ! 隙あらば匂わせヤメロや今のドッキリで何がわかったんだよテメ────あっ、ちょ待〝水〟と操作感が違ッッ」
またしても意味深に一人だけ何事かを飲み下した馬鹿野郎へ、誠に遺憾ながら満足ゆくまでの文句を投げ付けること叶わず。
表裏を変えて、まさかの練習Part.2が幕を開けた。
いつぶりだろうかハルちゃん。
それはそれとして魔力オーラ闘気その他諸々ぶわぁーッッッズワァーッッッゴゴゴゴゴゴバチバチバチバチィッッッが嫌いな男の子なんていないよね。




