特別扱い
────大学の長期休暇というやつは、冗談抜きで〝長期〟である。
仮想世界とは別の方向で『異世界』と称すに足るだろうキャンパスライフ。高等学校とのギャップで驚かせられたアレコレは数え切れないが、中でもポジティブかつ分かりやすくインパクトがあったのが夏休みと春休みの長さだ。
夏は八月と九月。春は二月と三月ってな感じで、それぞれほぼ丸二ヶ月間。社会進出を見据えアレコレ準備が必要であるからこその設計なのは理解できるが、とはいえ高校生以下の視点から見れば「羨ましい」という感想ばかりが出るだろう。
夏にソラから「大学生ってズルいです」なんて、可愛いことを言われたの然り。
そして実際問題、世界からゲーム三昧が推奨されている極まった奇特大学生こと俺にとっては、様々なことに融通が利くようになるため間違いなく有難い期間だ。
……とはいえ、まだ数日ほど春休みまで時間が残っている。
然らば突発入院で普段に増して遅れてしまった勉学諸々に置いて行かれぬよう、気合いを入れて講義に出向くとしようじゃないか────
そう思い、颯爽と我が家こと四谷宿舎から出掛けようとした退院翌日の朝。
『────そういうことですので、どうかゆっくり身体を休めてくださいね』
「へ?」
誰あろう、大学理事長様から。まさか『いや来なくていい』なんて、そんな馬鹿げた連絡が来るなどと誰が予想できるものか。
ちょうど靴を履いたタイミング。玄関でスマホを構えたままボケっと突っ立つ俺の様子など知る由もないだろう、理事長様ことセレブリティマダム……。
もとい、九里さんは『うふふ』と電話越しにも優雅な笑み一つ。
斯くして────
『大切な身体ですから、ご無理はなさらぬよう』
「いえ、あの、診断結果は……」
『えぇ、えぇ。先程も申した通り、昨日の内に連絡は受け取っています。そちらは大事なくて何より……ですが、気苦労に関しては間違いなくありましたでしょう』
「そりゃ多少は、しかし別に……」
『学校が息抜きにという考えもあるでしょうが、それはそれ友人との時間を設けるなどでも同じことでしょう。必要なら四人も同様に特別休としても構いません』
「………………さ、流石に特別扱いし過ぎでは?」
押されに押されて、再びの『うふふ』を経てトドメの一発。
『間違わず特別を特別に扱えるからこそ、この歳で今の椅子に座っているんです』
なんか格好良いようなエゲつないような貫禄ある台詞に黙らされ、
『勿論。心を休められるのなら何処へ行かれても、貴方を咎める者はいませんよ』
最後の締めは、結局ソレが本音だろと危うくツッコミを入れかけた身も蓋もないような言葉。然して、もう一体なんと返せばいいのやら困り果てた末。
俺の強制フライング春休み開幕が、あれよあれよと決定した。
◇◆◇◆◇
────ってなわけで数分後。
「……そんで素直に〝ゲーム〟を始める俺も俺だってんだよな本当に」
迷うことなく二度寝を決行した俺は、紛うことなき不良である。まあでも正直な話、ぶっちゃけ言ってしまうと有難いっちゃ有難い。
俺は別に勉強大好きというタイプでもなけりゃ、特別に学校という空間を愛しているわけでもない。ゆえに九里さんが言っていたような『学校=息抜き』という方程式は残念ながら成立しないため、休むなら引き籠もっているのが最善手。
『大学生活を満喫したい』と『大学を満喫したい』は似て非なるもの。現実的成分の癒しが欲しいのであれば、俊樹や楓たちと会って駄弁ることこそ効果的。
そこは九里さんの言う通りだ。
加えて、今は時間が貰えること自体ひどく助かるのが事実。仮想世界の方で済ませておきたいタスクが乱立しているゆえ、時間は無限に足りない状況だから。
なので……一時、すまんな普通の俺。今ばかりは紛れもない特別な立場こと、東陣営序列三位【星架】としてのアレコレを優先させていただく所存だ。
両親にも退院報告時『好きにしろ』と判断を任されたことだし……────と、
「お」
ログイン後から寝転んだまま、されど別段のんびりサボっていたわけではなく。
乱立タスクの順位付け処理と並行してパパパッと目を通していたメッセージウィンドウに新着通知。開く前から、送信元の名前を見て思わず声が出た。
────然らば、消化する用事一件目は自動的に決定。
「なんだよ、珍しい時間に……いや、アイツ別に夜行性ってわけじゃないのか?」
機会を逃せば早々エンカウントできない難物先輩に、顔を見せに行くとしよう。
仮にメジャーリーグでバリバリ常軌を逸した活躍をしながら普通に学校へ通い続けるアホがいたら誰だってアホみたく特別扱いするでしょ。つまり主人公はアホ。
さておきウルトラ長くなる気配がしたので今日は短め切り。
奴が出るシーン高確率で長尺化するのは一体なんなんですか好きなんですか。




