初々しくも
────そして、長い長い時が……経ったように思えたのだが、チラと視界端を確認してみれば大した時間は経過していなかった数分後のこと。
感情やら何やらの紆余曲折は確かに壮大極まりないものだったが、実際のとこ俺が辿った〝これまで〟を言葉で言い表すと至極単純なストーリーでしかない。
つまるところ、天使と妖精と姫君それぞれにノックアウト×3を喰らった俺が『よしわかった。そんなら何も諦めずに人生を賭す』と覚悟を決めたってなだけの話。
いくら丁寧に引き延ばして伝えようとも、結局それだけなのだ。真剣さを示すため真心を籠めて語りはしたが、全ての説明は僅か数分で終わってしまった。
……然して。
「────………………………………………………………………」
この、迫真フリーズお師匠様である。
両目は真ん丸。お口も小さくポカンと丸。つらつらアレコレを並べ立てる俺の言に終始これといった反応も返せぬまま、固まり続けて今この様子。
情緒小学生……は、失礼過ぎるにしても。事実として恋愛云々に関わらず剣に生きてきた御方だ、なおのこと俺が進む異常の道は飲み込み難いことだろう。
ゆえに、この未来は予測できていた。
ついでに、この後についても予想が────
「………………、」
スッと、ういさんが不意に無言で縁側の席より立ち上がる。
「……、………………」
そのままスイっと、何処かへ行こうとして……すぐに転進。
「……………………………………」
こちらへ戻ってきたと思えば、そのまま通り過ぎていき……。
「…………」
ピタリと停止。
「……、……、……、………………」
縁側に腰掛けたまま動向を見守る俺へ背を向けた状態で、両手を持ち上げ如何しようとしているのか謎に宙を右往左往させた後……────再びの転進。
「……………………………………………………………………………………」
元居た位置まで帰還した後、スッと静かに腰を下ろした。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
……………………………………………………………………………………。
「え、なんですか今の」
────後の行動についても、大体は予想できている。なんて思っていたのは自惚れであったと深く反省する必要があるだろう十数秒の謎アクション。
然らば、思わず素でツッコミを入れてしまった俺に対して、
「……っは、ふぁ」
「はふぁ?」
ういさんは言葉にならない声音を少々、零した後。
また十数秒の沈黙と共に、ただひたすらパチパチと瞬きを繰り返して……。
「……。…………、……っ」
また唐突。やや機敏な動きでシュっと振り上げた片手を、
「っ……!」
ベフッと、己が膝へと叩き付けた。
快音とはいかないサウンドエフェクトの通り。常より人類の手本めいて誰もが見惚れる、綺麗流麗な仮想身体捌きからは程遠い至極ぎこちない動作で。
気合いを入れるかのように、自分を張った後。
「ぁ、……────あのです、ねぇっ!」
「………………」
「………………」
おそらく、気合い注入が過ぎたのだろう。見事に引っくり返った声音を高らかに打ち上げた【剣聖】様は、俺を見るまま再びピシリと迫真フリーズ。
そのまま、またまた十数秒の沈黙が過ぎ去って……。
「……………………────ッ……‼︎ ハル君が悪いんですっ……!!!!!」
「いえまあそれは本当その通りなんで無限に詰っていただいて構いませんハイ」
両手で顔を覆って無事に撃沈した彼女へ、どんな反応を見せれば良いのやら。
とりあえずは先の円卓一幕に続きサルベージ優先と状況を見切り、俺は混乱と羞恥の二重苦により会話不能となった師の鎮静化を試み始めた。
◇◆◇◆◇
────そして、今度こそ長い長い時が……。
具体的には、一時間弱ほどの時が経過した後のこと。
「………………つ、つまり」
「はい」
「ハル君は、その、三人ともに『一生を捧ぐ』と……」
「はい」
「ぷろ……け、結婚の、申し入れをして」
「はい」
「アーちゃ……アイリスさ…………アーちゃんは、既に承諾の返答を……」
「はい」
「つま、つまり……ハル君とアーちゃんは、こ……婚約済み」
「互いの意思だけ見れば、そうなりますね。はい」
「その上で、あの、ソラちゃんとニアさんのことも、その…………く、くど……」
「全力で以って口説かせていただいている次第です。はい」
「…………………………ど、」
「ど……?」
「どんな風、に────いえ、そうではなく……!」
「そうではなく。はい」
「と、とにかくっ……! 三人とも……さ、三人とも? 四人、とも?」
「は、はい」
「一応の、納得……? は、している形で…………」
「納得、というか、なんというかですが。一旦は落ち着いた状況っちゃ、まあそうですね。俺の無茶苦茶で滅茶苦茶に振り回している形ではありますけど、はい」
どうにか言葉を交わせる程度には心を落ち着けてもらった上で、確認作業のような会話を並べていく。そうして、その果てに────
「……………………………………………………」
再びの、沈黙。
……今のところ表情に咎めるような色や嫌悪の色は見て取れないが、おそらく十分に頭が回っていないだろう現状では正確な諸々の読み取りは不可能だ。
仰天されるであろうことまでは、予想できていた。けれども、俺の告白を噛み砕いて飲み下した後、最終的に彼女が如何なる反応を見せるかは予想できていない。
正直なところ、怖ろしさはある。とんでもない道を選んだ自覚など有り余っているのだから当然だ。最悪『それは流石に』と軽蔑される可能性とて考えている。
いる、けれども。
勿論、考えてはいるのだけれども────ぶっちゃけの内心を白状するのであれば。その可能性を仮に個人的観測にて数値化するのであれば、小数点以下。
彼女に限っては。
お師匠様に限っては。
ういさんに限っては……────俺が、どんだけ真面目に『人生を賭ける』などと宣ったのかを、どこまでも真剣に受け取ってくれるものと信じていたから。
「……………………ハル君、ごめんなさい。あの、もう少し、時間を……」
「……はい」
愚かな俺への嘲笑ではなく、いつまでも混乱の解けぬ己を恥じらう微笑み。
いつからか『似た者同士』なんて呼ばれるようになった師弟。お師匠様は、俺の死ぬほど馬鹿で死ぬほど真剣な現状に、極限までの動揺と混乱を抱えながら……。
「今、一生懸命、飲み下していますので……」
「はい」
どこまでも優しく真剣に。俺の隣で、俺のことを考え続けてくれるようだった。
かわいいんよ。




