世界に対する埋め合わせ
────で、暫くの後。
お師匠様を落ち着かせて、重ね重ねの無事アピールを行い、改めて落ち着いた場で和やかに雑談を交えつつ……本題というか何というか、行き着いた先。
「んでまあ、そんな感じに。アーシェと簡単に相談してたんだが……どう思う?」
「おう、いいんじゃねぇか?」
「そうね……役者が役者だけに、不満は出ないんじゃないかしら」
「ま、しゃーないよねぇー」
「残念って声も出るだろうけど、新鮮で面白いって声の方が多くなるはず」
俺が切り出した『今攻略の総まとめ案について』云々を聞いた面々は、揃って肯定的。既にアーシェと共に協議したことであるという前提も相まって、実際それしか手がないという事実があってのことではあるが……。
「オーケー。そしたら正式に、その方向で進めて……?」
「あぁ、構わねぇだろ。アイリスのやつから今頃ヘレナにも話が通ってるだろうし……ま、細けぇことは俺たちの方で詰めといてやる」
「あざっす」
とりあえず、だが。これにて攻略後から抱えていた懸念事項の取り扱いに一応の決着ということで、また一つ肩の荷が下りた気分である。
いや、まだ全然これからなんだけどもさ。
それに今この瞬間も、長らく長らく報告ってか攻略映像を待ち侘びている世間様に待ちぼうけを食らわしていることに変わりはないので……。
「ってことで……──悪いけど、協力してくれな」
「うん」
また改めて気合いを入れつつ、いい映像を撮り直さなければなっと。
最近の常。膝上にて我が物顔で丸まっている自称妹へ顔を向け『依頼』の言葉を投げ掛ければ、返ってくるのは素直極まる応答の声。
……ソラさんが、逆に不安を覚えるレベルで気にした風もないこと。
プラス、今回のことで多大な心配とストレスを掛けたであろうこと。
プラス、今しがたも的確な感想で上手いこと俺の気を楽にしてくれたこと。
数ある理由によって相方と同じ扱いを免れているに過ぎないことを、承知しているのかいないのか。最早『妹』ってかデレデレ状態の犬猫が如きリィナに心中、困惑と苦笑いは例によって無限に湧いて出る。流石に懐きすぎではなかろうかと。
加えて、またしてもコレに借りを作ってしまうことについても思うところってか不安がないでもないが……まあ、仕方ない。背に腹は代えられぬってやつだ。
なんせ、今回の『緑繋』攻略第二幕────
全ての録画映像が、綺麗サッパリ消滅してしまっているがゆえに。
つまりは、そういうこと。
「ある意味タイミング良かったねー。ここじゃなかったら暫く暇なかったし」
「……三日あれば、なんとかなる?」
「なんとかする。けども、だからこそ丸ごと時間を貰うことになる。すまん」
一月末の攻略から数日明けて、二月の頭が目前の今。つまりは二ヶ月毎の月初めに開催されている三泊四日のイベント中に、どうしても力を借りねばならない。
相方のミィナも軽く言ってくれてはいるが、もうすぐ……三月の引退ライブを控えて怒涛のスケジュールに追われているのであろうトップアイドル様の貴重な時間を、ガッツリと奪ってしまうのは甚だ申し訳なくはある。
が、もう本当に仕方ない。
「望むところ」
「…………その返しは、いろいろ不安なんだけども。まあ、頼むわ」
この件に関しては苦渋の最終手段────即ち俺の『記憶』とリィナの『幻術』による重ね技で、無理矢理にでも〝映像〟を取り戻す他ないから。
俺の『記憶』からケンディ殿の姿が消滅しているため、それでも完全再現は不可能。更に言えば俺の『視点』の完全再現となるため、全編一人称固定は不可避。
けれどもまあ……友人の姿も声も消えてはいるが、在った事柄は消えていない。
攻略に際して俺たちが聞いた『言葉』は残されている。導かれた道筋とて忘れてはいない。ただ、それをケンディ殿が齎したという記憶が消えているだけ。
虫食い状態の再現映像を整えたりなど今からでも苦労は思い浮かぶが、やってやれないことはないはず。一人称視点に関しても今回の俺はステータスを制限されていたこともあり、爆酔い導入動画みたいにはならないだろうしな。ラスト以外。
シーンを厳選すれば、娯楽映像の構築は可能と見ている。
更に更に、特大のオマケとして────
「ソラも。巻き込んで悪いけど、よろしくな」
「いえ、あの、巻き込まれるも何も当事者ですし……!」
完成した映像は【星架】の個人チャンネル【Clown・Archive】にて配信する際、俺とソラによるリアルタイム感想解説付きの生放送を予定している。
割かしどころではなく思い切ったアレだが、ソラさんの『俺やアーシェばかりに大変な思いをさせて申し訳ないから』という意思を酌んでの決定だ。
いろいろと不安がないでもないが……まあ確かに、リアルバレ云々などを気にするのであれば諸々に慎重となるべきラインなど遥か過去に通り過ぎているゆえに。
「大丈夫、です。多分。画面越しであれば、あまり緊張もしないと思うので……」
「頼りにさせてもらう。一緒に頑張ろうぜ」
「はいっ。あの、頼りには、されても……応えられるか、わかりませんが……!」
本人も意外と張り切っているというか乗り気に見えなくもない様子なので、あまり俺の方で心配してもまた『過保護』だと怒られてしまうだろう。
メイドにも許可を取っているとのことで、重ね重ね決定事項なのである。
────徹吾氏の方については許可だの何だのといった話を全く聞いていないのだが、おそらく、多分、きっと、大丈夫なんじゃないですかねと。
なんか今は海外にいるらしく『見舞いに行けず申し訳ない』といったメッセージが入院中に届いたが、連絡は届くってことで何かしらアウトならアウトと俺の方にドクターストップならぬ御父上ストップが飛んでくるだろうし。
ソラではなく、俺の方にな。
こう、娘が話を聞いてくれない何とかしてくれみたいな体で。間違いない。
……とまあ、ではではそんなところでといった具合。
「そしたら、また俺たち次に顔出すとこがあるので」
頃合いを見て「お集まりいただき……」云々と礼を併せて切り出せば、それぞれから返ってくる良い意味で適当かつ気楽な挨拶が人数分。
然らば視線を交えたソラと二人で立ち上がって……去り際。
「────っ……、…………」
別れの挨拶で終えて、しかし続けたい言葉があったのか否か。
ソレを自ら留めたのか、あるいは口から出てこなかったのか……流石に、そこまでは視界端で僅かばかり見止めた程度では読み取れなかったが。
「……────あ、ういさん」
転移の直前。顔を上げて、視線を向けて。
落ち着いたように見えて、その実は如何か。いつものように皆の会話へ大人しく寄り添っていた師へと、俺は思い出した様を装い声を掛けた。
「、……はい。どうされましたか?」
然して、それも流石というか。
いざ本気で取り繕われると内心を読めないランキング上位に食い込む【剣聖】様は、おそらく極少数の者を除いて完璧に騙せるであろう自然な声音。
自然な反応で以って、
「あとで行きますんで。刀の手入れ、よろしくお願いします」
「………………はい。勿論です」
ふわりと俺に、微笑んだ。
そしてここから、お師匠様への埋め合わせ。




