数ある我が家
────斯くして。
「ご心配を、お掛けしまし「ったーい!!!」ヴぁっべ」
時は約束の頃合い。場所は円卓。居並ぶは親しき顔。そして場に際して殊勝に頭を下げれば、下げた頭に圧し掛かってくる軽くも致命的な勢いの付いた体重。
つまりアホ。
現実の肉体であれば頸椎とかが大変なことになるであろう衝撃を受け、さしもの【蒼天を夢見る地誓星】も耐性を貫通され俺のアバターはベシャッと地べた。
そして、ことを成した犯人は高らかに……。
「元気そうで何より!!!!!」
「……そうだな。いつも通り元気だから、こんなこともできるんだわ」
叫ぶものだから、奔らせた影糸で以ってグルグル巻きにして横へ放った。なんかムグムグ言ってるが知らん、暫く反省してやがれ────と、
東陣営序列持ちの集会場こと『東の円卓』へ転移した後、十数秒の一幕。
影で簀巻きにされたまま。俺やソラと共に来た相方にゴロゴロ転がされ、小さく「ぁー」とか鳴きながら隅へと追いやられていく赤色一匹は置いといてだ。
「……本当に、元気そうね。安心したわ」
「やっぱ会って顔を見ねぇとなぁ。見舞いに行けりゃ良かったんだが」
スタートダッシュを切ったアホが一着のせいで最速ではないが早速のこと。近付いてきた年長二人組が、まずは優しげな表情と共に俺とソラへ言葉を掛けた。
「改めて、ご心配を……」
「お掛けしました……」
対して、相棒と二人で答えて返せば……。
「ま、もう話は聞いてっからよ。心配はしたが、お前さんらが『掛けた』ってなわけじゃねえし俺らに頭下げるこたぁねぇ。めでてぇで済む話だ」
「そうね。本当に、とりあえずは何事もなかったで済んで良かったわ」
これこの通り、流石は東陣営の良心トップ2である。
……いや一位から九位まで俺の自己評価は置いて全員が良心の持ち主ではあるが、こう、アレだ。地に足付いた常識も兼ね備えているという意味で────
「ハル」
「おう?」
とかなんとか東陣営の父と姉に和まされていると、初っ端に来襲した怪獣の鳴き声を除いた声掛けPart.3。青色が仮想世界にいるのだから赤色もいるのは当然として、ならば最近はセット行動が常のコイツも当然いるわなってなわけで。
「一応の安心、なんだろう? 違和感には気を配っておけよ」
「あぁ、気を付けるよ」
「ソラ。君もな」
「ぁ、は、はいっ……!」
一拍を置いてゴッサン雛さんと迎えの輪に加わった囲炉裏も、言葉調は割かしズケズケだが裏を返せばストレートな心配の顕れ。暫し仮想世界を留守にしていた俺とソラに向けて、注意を促す体で以ってイケメンスマイルを向けてきた。
なお、入院云々に関しては身内……つまるところ各陣営トップこと序列持ちの面々には連絡報告が成されている。昨日の時点で、診断結果の報告も併せてだ。
まあ当然。各陣営それぞれから選抜した面子で攻略を行ったのであり、即ち全ての陣営が『仲間』について関わる事態であったものだから。
大事のようだが、真実そのもの大事に違いないゆえ────さて、
「…………平気か?」
「大丈夫。ゲンさんも心配ありがとう」
「……うむ」
遅れてきた我らが萌えキャラからも好意を頂戴して……この場は以上。
「テトラは?」
「今日は深夜にログインするっつぅからよ。会えたら挨拶するとさ」
「了解。ゆらは?」
「アイツぁ用事中。あと数日は帰って来ねぇだろな」
「そっちも了解。そしたら────」
然らばタイミングが合わずに居合わせなかった面々に関して、丁度リアルの方で俺が連絡を取れない者たちであることを理由に問うていく……──と、
「お」
「ういの奴なら、そろそろ来る頃合いだろ……って言おうとした」
最後に我が師の状況を訊ねる直前、視界端。臨時でアクティベートしておいた特定プレイヤーのログインを知らせる通知が、控え目に瞬いた。
つまり、
「……えーと」
────ある意味で、一番なんというか心配だった御方が仮想世界へ来訪。
そりゃ皆と同じく心配を掛けたのは違いないだろうが、皆と違うのは彼女の、どう言うべきか……その、ここ最近は特に? 皆とは違う俺へのスタンス。
いや別にソレは割かし最初からか。仮想世界『至高』の剣こと【剣聖】様うい様お師匠様は、恥を忍んでハッキリ申し上げれば、こう、ある種────
常々どこか、保護者のような目で俺を見守ってくれているものだから。
然して、通知から数えて十秒弱。
「────ハル君っ……!」
転移の光。
鍵を用いて空間を裂き、声音と共に小柄なアバターが円卓の間へ飛び込んだ。
「あ、ういさ────」
「大丈夫、と聞きはしましたが……! 本当に大丈夫なのですね……!?」
そして始まる、五分五分くらいかなぁと予想していた内の恥ずい方。
なんかもう完全に母親か何かの様。ガバリ飛び付くように接近してきた師に刹那で捕縛された俺は、挨拶も遮られながら頭の天辺から爪先までを検め尽くされる。
いや、仮想世界のアバターを検めても俺の健康状態を把握するのは無理かと思われますが……なんて物言いも、彼女の様子を見れば出てくるはずもなく。
それどころか、今すぐは何を言っても聞く余裕がなさそうと判断して────
かれこれ、数分後のこと。
「────いやぁ、見せ付けてくれんなぁ師弟愛」
「うふふ……愛されてるわね、お弟子君」
「見ての通りだ。これ以上の心労、お掛けするんじゃないぞ」
「……暫くは、身体を労われ」
「はぁ、ハハ………………そ、ソラさん。なに、痛い。脇腹やめて抓らないで」
「抓ってません」
全ての果てに、再び至る団欒。
視界の端では相変わらず、哀れ「ちょ、リィナちゃ、そろそろ許して……」とかなんとか小さく鳴いているアホ一匹&その相方は放置するとして……。
とりあえず、
「…………………………………………こんな、はずでは……」
数分を経た後、顧みて撃沈。今は己が序列一位席にて静かに縮こまり中。
おそらく、そこまで取り乱す予定ではなかったのだろう。俺を構い倒した挙句に珍しく深々と恥の沼底に沈んでしまった、我が師のサルベージを始めるとしよう。
かわいい。




