並ぶ円環
──────……
────……
──……
「────よし、わかった。それじゃ、こうしよう」
「うん」
「リアル側での音声通話解禁。んで三日間」
「一週間」
「…………一週間、モーニングコール。俺から」
「うん」
「プラス、三月の引退ライブ現地入り観戦の確約」
「VIP席を用意しておく」
「それから……オマケにソラさんの膝枕30分コース券を進呈する、とかで何卒」
「……………………ん」
斯くして、自称妹エンカウントから二十分少々。
「…………? ……ぇっ、ぇあ、あの、最後。最後、どうして私まで巻き込ま」
とかなんとか、いつもいつとて可愛らしい反応で場を和ませてくれる我が相棒は置いといてだ。こっちもこっちで可愛いは可愛いに違いないのだが……。
「────仕方ない。許してあげる」
不機嫌時は普通に取扱注意。ちみっこいナリして俺などを優に超える人間レベルを持つ様々な意味合いでの大先輩(妹)から、ようやくの赦しを頂戴した頃合い。
費やした気遣いの労は計測不能。尽くした謝罪や言い訳などなど、丸め込むために口から連射した言葉の数々は八丁どころか八十丁くらい。
然して、最終的にはアレやコレや幾つもの代償を捧げたことにより────
「チケット。電子で送る、ね」
「はいはい……」
膨れっ面ツンケンからの、だるだるベッタリ早変わり。
人目……というか、他の客がいないとはいえ流石に公共の場だぞと常ならば秒で影糸グルグル巻きの刑に処している距離感。……ではあるのだが、
「……ハル?」
「ごめんて。ゆるして。たすけて」
「全くもう……──別に、いいですけどね。膝枕」
俺もソラも、閑古鳥をいいことに咎めはしない。
この二十分少々。マジギレまではいかないがマジ寄りで怒ってはいたリィナの様子に晒され二人して慄くと同時、その心配の程も正確に伝えられてしまったから。
「まあ……うん。心配かけたな、悪かった」
「……ん、許した」
どうも予想の数倍ほどは、気に掛けてくれていたらしく。勿論のこと俺だけを対象にした心配ではないだろうが、悪い気がしないのは当然だ。
ベッタリピッタリ胸元に引っ付いてきた小さな頭を、感謝を以って。優しく撫でてやるのが『兄』というものだろう────いや別に兄ではないけれどもさ。
あくまで、自称妹の求めに応じて兄っぽい何かを演じているだけだけどもさ。
そしたらまあ取り急ぎ、おソラさん膝枕券の作成を忘れずに……と、
「────待たせたな」
和解を経て一幕。ご機嫌取りが無事に済んだゆえ舞い戻った平和に浸る間もなく、じゃれ合いが始まりかけた俺たちの耳に低い声音が転がり込む。
さて、そんなこんなで現在地。他の客がいない、閑古鳥が鳴き放題の空間。
何処かといえば────
「あざっす旦那」
イスティア街区のNPC魔工師。我が親愛なるハルゼン旦那の鍛冶工房なり。
いざ挨拶回り……と意気込みはしたものの。挨拶とは相手がいなけりゃできないもので、然らば挨拶するためには相手側の時間を頂戴しなけりゃならない。
であればってなことで。とりあえず最優先挨拶先こと同陣営序列持ち一同を呼び集めるべく、我らが大将に連絡したのが二十分ほど前。そして三十分後に集合との号が放たれ、隙間時間を有意義に埋めるべく足を運んだのが此処という流れだ。
如何なる目的か、それは勿論……。
「受け取れ」
「うっす」
「はいっ」
一つずつ、俺とソラの手に受け渡された〝指輪〟のため。
今回、同時に進化可能と相成った『魂依器』を、第四階梯へと進めるためだ。
なお、いろいろと警戒して【早緑月】および【倶利伽羅】は部屋に置いてきた。
当たり前である。前のように〝色〟を求めて喰われたら堪らないからな、と。まあ幸いというか、今回は追加の素材を要求されたりはしなかったが……。
ともあれ、
「今回は名前、変わらずか。ソラさん?」
「えと……こちらも変わらず、ですね」
NPC専属職人様より返還された指輪をタップして、ポップアップした詳細ウィンドウを軽く確認。からのアイコンタクト&一言、二言を交わしつつ────
「……うん。成程な」
「ん……」
共に、それぞれの右手中指へリングを嵌め戻す。さすれば仮想脳を駆け巡った理解と納得に、俺たちは隣同士で頷き……改めて。
「サンキュー旦那。ありがたく〝次〟を目指させていただきます」
「ありがとうございましたっ……!」
並んで礼を。然らば、控え目に言って筋肉達磨の屈強が過ぎる職人様は、
「あぁ。また来い」
極限まで端的。それは果たして笑んだのか否か、口の端をミリ単位でピクリとだけ動かすと、のっしのっしと再び店奥の工房へ引っ込んでいった。
相も変わらず、いいキャラしていらっしゃる────ってことで、
「……デビューから一年未満で、魂依器が第四階梯?」
「いろんな意味で果てしなく今更だろ」
「あ、はは……」
とりあえずはサッパリ。祝、第四階梯ってな。
◇◆◇◆◇
────そして、
「この空である、と」
目的は達したし店主は奥に引っ込んだしで居座る理由もなく、本当にサッパリとハルゼン旦那の工房を後にしてから早一秒ってか一瞬。
此処へ来るまでの道すがらを合わせて目にするのは二度目。ファンタジー世界ことアルカディアにおいても異常を極める『空』を見上げて、ぽつり。
「【青点のグァナリゼライ】……ねぇ」
空ってか宇宙じゃんと言わざるを得ない、真っ暗な天蓋。その中心で……どこが空の中心とか知る由もないが、とにかく蒼々と輝く〝青〟の点。
おそらくは途方もなく巨大なのだろうが、果てなき空の只中に在って『点』と称す他ない真球の青色……数日前に現れたという、極大の異常。
◇【青点のグァナリゼライ】との邂逅を果たしました◇
『色持ち』との遭遇時、初見に限り共通して通達されるシステムアナウンス。そのお約束を、有無も言わせぬ名乗りと成して劇的に現れたアレは……。
「なんもわかんねぇなら、手出しのしようもないよなぁ……」
「手出しどころか、考えようすらない」
現状、全くの意味不明および意図不明。
呟いた俺。それを拾ったリィナ。そして間違いなく幻想的ではある光景に目を奪われるまま、静かに空を見上げているソラ────そんな、俺たちのみならず。
今回に限っては仮想世界の住人たちですら『何一つ理解が及ばない』と明言しているのだから、今は真実どうこうしようもないといったところだ。
既に、何処かで何かが起きているのか。
あるいは、これから何かが起きようとしているのか。
今の俺たちには、なにもわからない。良い状況なのか、悪い状況なのか、そういったことすら何一つ……────であるからこそ、裏を返せば。
「………………ま、なるようになるんだろうな」
「うん」
気にしても仕方ないのだから気にすまい、というのが大多数の現状総意。
勿論のこと一部……例えば南陣営が誇る情報集積部隊などは、そりゃもう血反吐を吐く勢いで仮想世界中を駆けずり回っているのだろうが、それはそれ。
裏を返さずとも、究極これはゲームで俺たちはプレイヤー。
「……また、大変なことが起きますよね。きっと」
「ま、それはそれで大歓迎」
「何か起きてから考えればいい」
謎を暴きたきゃ謎を暴くべく走ればヨシ、来たる何かを待ち受けたくば備えればヨシ、異常にあっても平常を貫きたくば和めばヨシ。
各々のゲームプレイで以って、受け止めればいいだけだ。それ即ち────
「……時間?」
「っと。んじゃ、そろそろ行きますか」
「ぁ、はいっ」
これから友人たちへの無事報告を遂行すべく、円卓へ向かう俺のように。
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◇Status◇
Title:星架
Name:Haru
Lv:121【0】
STR(筋力):300
AGI(敏捷):300
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+100)
MID(精神):350(+450)⇒400(+450)
LUC(幸運):300
Lv.1《速考》
Lv.1《感識》Lv.1《顕幻》Lv.1《現界》Lv.1《幻操》Lv.3《属醒》
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◇Status◇
Name:Sora
Lv:108【0】
STR(筋力):50
AGI(敏捷):150⇒100
DEX(器用):50
VIT(頑強):100
MID(精神):700(+200)⇒800(+200)
LUC(幸運):100
Lv.1《速考》
Lv.1《感識》Lv.1《無幻》Lv.1《謀律》Lv.2《泉誓》Lv.1《環架》
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『青点』との邂逅ボーナスポイント+50振りステータス。
ソラさんは月に一度のステリセを消費してAGI⇒MIDへの数値調節も重ねた模様。




