竝枝界拓
「とまあ、そんなことは置いといて」
「ぇ、置いと……えっ」
あらゆる思考操作の難易度を緩和するDEXツリー初期枠もとい初期枝……第一段階の拡張センスこと《思操》は遍くプレイヤーにとって有用なものだろうが、元よりアレやコレやの思考操作に困っていなかった者にとっては恩恵が薄い。
無用の長物とは言わないし、あったらあったで負担軽減に繋がり有用であることは間違いないだろう。けれども、やはり一も二もなく飛び付くほどの魅力はない。
俺も、そして俺以上に思考操作に長けたソラさんも、だ。
まあそもそもの話、前提として────
「これ、対応ステータス数値が100以上ないと枝を伸ばせないらしいんだよ」
「ぁ、あー……」
──────────────────
◇Status◇
Title:星架
Name:Haru
Lv:121【11】
STR(筋力):300
AGI(敏捷):300
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+100)
MID(精神):350(+450)
LUC(幸運):300
──────────────────
──────────────────
◇Status◇
Name:Sora
Lv:108【8】
STR(筋力):50
AGI(敏捷):150
DEX(器用):50
VIT(頑強):100
MID(精神):700(+200)
LUC(幸運):100
──────────────────
とまあ、そういうわけで。そもそも俺たち二人とも、現状のままのステータスだと揃ってDEXツリーに触れることすら叶わないというね。
DEXに加えて俺はVIT、ソラはSTRもタッチ不能。成長可否は本体ステータスのみを参照して決定されるらしく、外部補強での誤魔化しも効かないようだ。
「成程…………ちなみに、これって転身体のほうは……」
「あぁ、二枚になるっぽい」
「わぁ……」
「ただし、これに関しては『転身』だけじゃなく『纏身』も二枚になるらしい」
「え、ぁ、そうなんですか……? それは、でも……」
と、不意な思い付きによる質問から広がった話。正しく「わぁ……」といったソラの表情が全てというか、これは正直かなりデカい〝差〟に成り得る点。
即ち、流石に『ズルい』という声が噴出しそうなものだが────
「トランスシステム、そろそろ本実装される頃合いなのではってな具合で」
「ぁ、そっか……もう半年以上は経ってるんですもんね」
【白座のツァルクアルヴ】討滅および葬送により、件の『トランスシステムα』が攻略達成者たちへの先行報酬として仮実装されたのが、昨年五月末のこと。
それから時を経て現在は一月末、つまるところ七ヶ月程度が経過していることになる今。クランシステムやら結婚システムやらが『赤円』討滅から約半年後に本実装された前例に倣うと、流石に「そろそろなんじゃね?」といった感じなのだ。
「本当のところは、わかんないけどな。来るかもって噂が立ってるから不満まではいってない感じなだけで……まあ、アルカディアなら大丈夫だと思うけど」
「あ、はは……見計らってる、までありそうですね」
おそらく、俺たちの予想もとい理想に違わぬ運びとなるのだろう。この理想郷には、いつだって俺たちの思考など底の底まで筒抜けに違いないのだから。
────などと、脱線したが改めて『置いといて』と。
「とりあえず、まず一つ。ソラさんも取得推奨なやつを始めに取っとこうか」
言いつつ、DEXツリーから動かした指先が捉えるは隣。
【曲芸師】……もとい【星架】と言えばで真っ先に挙げられるであろう、しかし実のところ俺の最優先ステータスではない『AGI』ツリーの上へ。
第一段階目の枠を、迷わずタップ。表示されたセンスの名は────
「《速考》……」
「どんな効果なのかは、言うまでもないよな?」
表示された取得是非を問う『YES/NO』のボタンウィンドウ、その左を迷わず再タップ。現在11あるEPの内から1点が消費され、枠の縁に光が灯った。
そして僅かに、背景に描かれた〝芽〟が背を伸ばす。
「えと、これで……?」
「あぁ、取得完了」
加えて、次なる枝。
つまるところ《速考》から二股に別れる第二段階の選択肢がアクティベートされると共に、それぞれの枠内へ《轟息》と《静息》のセンス名が表示された。
これを無限に繰り返して、上へ上へと登っていく形になるわけだ。
「思考加速……ですよね」
「正解。《速考》は常時発動型の思考加速効果。まあ倍率はハッキリ言って雀の涙らしいけど、常に雀の涙が貯まり続けるって考えればトータルはデカいよな」
雨垂れ岩を何とやら。たとえ誤差程度であれど、その誤差がコンマ一秒の拍を争う仮想戦闘において如何ほど作用するかは言わずもがな。
上へ行けば上へ行くほど、僅かな思考の余裕に救われる場面は多いだろう。
……ちなみに、
「《速考》の枠。端の方に三本線が出たろ? 一本だけ光ってるやつ」
「ぁ、はい。これですね」
声で示せば、頷いたソラさんが指で示す。これまた「その通り」と呟いて、このセンス取得において肝となるであろう補足事項解説を忘れずに。
「それが各センスのレベル。つまり1ポイント消費で取得した段階はLv.1《速考》ってなことで、更にポイントを注ぎ込むと最大でLv.3《速考》になるわけだ」
「はぁー…………えと、レベルを上げるためのポイントは……?」
「Lv.2で2ポイント。Lv.3で3ポイント」
「……わぁ。それは」
「そ。重いんだよなぁ」
聞くに、この《速考》に関してもLv.3まで上げると雀の涙から鳩の涙くらいには確かな変化が感じられるらしい。注ぎ込む分だけのリターンは約束されている。
しかしまあ、悩ましいところで……。
「仮に一つのセンスをLv.3に上げるとして、必要ポイントは全部で6……そりゃバラけさせて新規能力を六つ獲得するのと、どっちが強いんだって話になるわな」
現状一部の廃プレイヤーもといハイエンドプレイヤーを除いて、誰も彼もがEP不足に嘆き悶え苦しんでいる状況。一点集中で6ポイントは重い。
まだ見ぬ〝上〟に、ぶっ壊れセンスが眠っている可能性も考えれば猶更だ。
────とはいえ、無限に悩み続ける必要があるかといえば否。
「あのこれ、振り直しとかは……」
「できるよ。勿論」
この仮想世界で真に後戻り不能な要素は、いまだ『パートナーシステム』の解消不可くらいなもの。こういった部分に救済措置を忘れないのがアルカディアだ。
「『鍵樹』の節目階層にあるモノリスショップ。あれから『竝枝界拓』ツリーのリセットアイテムが買えるようになってるらしい。……バカ高いっぽいけど」
「ぁー……ま、まあ、買えるだけ優しい、んでしょうか」
優しいね、うん。────プレイヤー間での取引が可能なアイテムである点まで含めて。それはそれは、市場が賑わっていることだろうよ。喜ばしいね。
さておき、そういうことで。
「そしたら、ぶっちゃけ俺は取るやつ決めておいたからサクッと取っちゃうぞ」
「ぇっ」
解放された『AGI』ツリー二段階目。スタミナの任意追加消費によって最大速力に上昇補正を掛けられるようになる《轟息》および、同じくスタミナ追加消費により速度負荷低減&静音性の向上を齎す《静息》────は、申し訳ないがスルー。
即ち『AGI』ツリーはLv.1《速考》のみで現状保留とし、俺が浮かせた指を移すのは……触れることも叶わぬ『DEX』と『VIT』を通り過ぎた位置。
表でも裏でも敏捷を上回る我が根底こと『MID』ツリーへと、迷うことなく。
「さて……ソラさん」
「はい?」
そうして、そのまま────
「正直に言う。俺のはネタ全振りになる可能性が高いから真似しない方がいい」
「はい???」
第一段階《感識》をLv.1取得。
更に第二段階《顕幻》をLv.1取得。
更に更に《顕幻》派生の第三段階《現界》および《幻操》をLv.1取得。
更に更に更に……────《現界》派生第四段階《属醒》をLv.3取得。
──────────────────
◇Status◇
Title:星架
Name:Haru
Lv:121【0】
STR(筋力):300
AGI(敏捷):300
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+100)
MID(精神):350(+450)
LUC(幸運):300
Lv.1《速考》
Lv.1《感識》Lv.1《顕幻》Lv.1《現界》Lv.1《幻操》Lv.3《属醒》
──────────────────
「え、ぁ、えっ……」
「ハイおしまいっと」
締めてEP11ポイント。これにて綺麗に全消費、ってな。
何が何なのかは、まあすぐにわかるんじゃないですかね。
コイツ男の子なんですぐ見せびらかすと思うんで。




