樹形図
第一幕、第二幕と揃えて片が付いた……まあ、初代【緑繋のジェハテグリエ】が一幕にて〝盟約〟を果たし、二代目こと『鍵樹』が新たな〝盟約〟を結んだ。
それを一旦の了と見るのであれば、片が付いたと思しき『緑繋』攻略。
斯くして、世界が一体どのように変わったか。そこについては多くのメディアで連日取り沙汰されているらしい外の景色を含めて、各所が現在鋭意調査中。
では仮想世界を文字通り覆った極大規模の変遷を、一旦は無理解に置いといて。遍くプレイヤーの手が届く位置……というか────
プレイヤー自身に転がり込んできた変遷とは、一体どのようなものであるか。
「んでは……────『竝枝界拓』」
今現在。主にアルカディア界隈を沸き立たせているコレが、答えだ。
満を持しての一発目ということで、ウィンドウの手動操作でも思考操作でもなく期待を籠めての発声操作。音による申請を世界が受理するまでの時差はゼロ。
然らば眼前。とりあえず俺が試してみるよと常の如く相棒に先んじて踏み出し、多少の前提知識と共に覚えた新要素の名を呼べば……現れたのは、
「……〝芽〟だな」
「〝芽〟ですね……」
重なり合うシステムウィンドウの最前。二人して零した言葉の通り、緑色の〝芽〟がポツンと描かれている、手のひらサイズの小さな窓。
勿論、これだけでは何のこっちゃわからない。
────ならば、とりあえず触れてみろがゲーム的お約束ということで。
「じゃ、もう一回……んでは」
小さな窓に描かれた〝芽〟を、そっと撫でるようにタップした瞬間。耳を賑やかすは柔らかなサウンドエフェクト、目を賑やかすは仄かなライトエフェクト。
そして、
「おー……」
「わぁ……」
ともすれば、部屋の天井を突き破る勢い。いまだ小さな〝芽〟は姿そのまま、しかし先の可能性を示す大樹の影と共に……展開したのは、高みへ昇る樹形図。
プレイヤーに与えられた、新たなステータスウィンドウ。より正確には、
これまでにないアバターの拡張性を示す、新たなガイドライン。
基底となる〝芽〟に重なる位置。樹形図の最下段に並ぶ枠が数えて六つ。刻まれている文字は揃えて三文字、大文字アルファベットの連なりにて統一。
『STR』『AGI』『DEX』『VIT』『MID』『LUC』……即ちプレイヤーの能力をゲーム的に可視化するため存在する、ステータス六種それぞれの名だ。
新たなアバター〝成長〟機能『竝枝界拓』────レベルシステムのアップデートにより上限突破されたカンストライン。それによりレベルを積み上げる度に獲得可能となった、エクステンドポイントを用いる新機軸の強化要素。
連動するステータスシステムのアップデートにより可能となった……個々人の好みに応じて自由に己が超常を開拓できる、自己強化の次なるステージである。
そんなものが、見ての通り────
「もう『鍵樹』じゃん……」
「上の方、見切れてますね……」
見えないほどの高みが長大なウィンドウを限界突破、つまりスクロールして無限に追い掛けられるほど実装されているため途方もないとしか言いようがない。
ちなみに、ウィンドウの端などにスクロールバーの存在はナシ。
不親切なのではなく、おそらく実装したところでツマミが極小化して不可視となり物理的に使用不能となるためだろう。などと冗談めかして言われている。
この窓、無限にスクロールできるらしいから。
これまでも散々アルカディアのビルドメイキングは『青天井』だの『無限のエンドコンテンツ』だのと言われていたが、ここに来てシステム側からも目に見える形でソレを肯定するかの如く見せ付けてきた形。全くもって笑うしかない。
そして当然、この無限スクロール=どこまでも強化要素が続いていますよ案件を、バグかハッタリなどと舐めた目で見ている者は……まあ存在しないだろう。
少なくとも、既存のアルカディアプレイヤーの中には存在しないはずだ。
その辺、もう嫌というほど教育されているからな、と────
「え、と……どうするんです?」
「んー……どうしよっかねぇ」
新たな要素に触れる直前という、遍くゲームにおいて共通するであろう至高の瞬間。こういう時は基本、ポカンより立ち直るのが早いのはソラさんだ。
然して声を掛けられ、至高から思考へとシフト。
重ねて、ある程度の前情報は仕入れている。実装より数日が経って多少は精度も上がって来た頃合いであろう、最新のアレソレからチラホラちょちょっとな。
ゆえに、どう進めていくものかくらいは把握済みなわけだが……。
「ソラさん、概要は?」
「ごめんなさい、あんまり……」
相棒に話を振ってみれば、返ってきたのは横向きの首振り。ははーん、そんな些細な調べものさえ手に付かないくらい俺のことばかり考え痛いッ。
「ハルはもっと、顔に考えが出ないよう頑張った方がいいですよ」
「いいのかなぁ頑張っちゃって」
「頑張って、丁度いいくらいになりそうですから」
「マジかよ……」
でもそこまで読めるの君くらいだよねとか、今のは敢えて読ませて涙の記憶を笑いの記憶に上書きしようと画策したんだよとか、まあ諸々置いといて。
知らぬというなら教えて進ぜよう、この相棒が。
「まあ簡単な話、見ての通りの樹形図だよ。STRやらAGIやら、それぞれのステータス種別からスタート。それに応じた特殊な追加能力を順に獲得してく感じ?」
「……木登り、です?」
「そ、木登り。下から順にね」
ということで、膝上特等席にて抱えた相棒への解説開始。いや別に俺とて熟知しているわけじゃないというか今現在コレについては誰もが初心者なわけだが……。
「これまでも武器適性に連なるスキルのことを『直剣ツリー』とか呼んでたけど、これぞ正しくって形のツリー形式だな。近道不可で順に進んでいくタイプ」
流石に多少のゲーム知識があれば、仕様を理解する程度は難しくないってね。
「そんで、登り始める『樹』を選ぶところから始まり、伸ばす枝を変えたり花を咲かすところを決めたり、逆に剪定する枝を選んだりとか……まあ、アレだ」
「個性を出しやすい成長要素、ということですか?」
「その通り」
なお結局は全プレイヤーが最適解に収束して無個性になるゲームばかり、なんて夢のない補足まで付ける必要はないだろう。二重の意味で。
アルカディアのコレは、そもそも最適解を探すことが可能とは思えないから。
ただでさえ千差万別といって差し支えない個々人のプレイヤービルドに、更なる馬鹿げた可能性の塊と言える無限の枝葉が加わることになるのだ。
勿論、一つ一つのレビュー程度なら可能だろう。可能だろうが……そこからさらに先、誰が「これが最強これが最適」なんて堂々断言できるものかと。
「現状ではエクステンドポイント……『EP』が誰も彼も乏しくて碌な検証ができてないらしいけど、それでも結構いろいろ楽しいことになってるみたいだぞ」
「楽しいこと……」
「例えば、そうだな……」
楽しいことを脳内検索。中でも、一番ソラが……俺のパートナーが、わかりやすく驚いてくれそうな『例えば』を選び抜いて────
「DEX樹の《思操》とか。誰でも《クイックチェンジ》が運用可能になるらしい」
「………………ぇ、……えっ?」
伝えた結果、予想通りの期待通り。
振り向き目を丸くして驚くソラさんの様子は、それは可愛らしいものであった。
まあ専用適性と比べて劣化も甚だしい各補正値やらアクティブスキル基本絶無やらで、結局《複数武器適性》の未来には器用貧乏の絶望が待ってるんですけどね。
極一部の変態を除く。




