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クロユリよりも真っ黒な因縁(3)

「あった、これやこれ。やっと見つけたでぇ」


 探偵と指名手配犯が手を組んでいるなんて、知る由もなく。真田と別れた後、デスクに張り付いていた堺はようやく、お目当ての事件の捜査調書を探り当てていた。


「……間違いないやね。多田見香織さん……この事件の被害者やないか」


 堺が見つめているのは、旧吹上トンネルで起こったとある事件にまつわる記録。それによれば、被害者・多田見香織(当時15歳)は保護者・来栖川によって性的虐待を受けていたとある。トンネルで行われていたのは、撮影会……と言えば、健全に聞こえるが。しかしながら、中身は無理やり裸にされた少女を複数の大人が囲み、シャッターを切るという悪趣味なものだった。


「ひっどいもんやねぇ……。来栖川って奴っちゃ、本当に救いようもあらへん。……引き取った恩を着せて、女の子をひん剥くなんて。いい歳こいた大人がやる事やないで」


 そこまで呟き、堺は約20年前の事件当時の様子を思い出す。

 直接的な婦女暴行ではないとは、言え。状況や犯人のディテールからしても、センセーショナルな事件として、大々的に報道されていた事件である。多田見自身は未成年だったことと、彼女の精神的苦痛を考慮し、被害者の詳細は非公開が通されていたが。その分、主犯・来栖川湊人は華麗な経歴の持ち主だったこともあり、しばらくその顔を見ない日はない程に、悪い意味でお茶の間を騒がせていた。


(えぇと、その後の多田見さんは……なるほどねぇ。一旦はガッコの先生が面倒見てくれたんか)


 そもそも、来栖川が多田見を引き取っていたのは、彼女が天涯孤独だったからである。そして、彼女は両親を自殺で失っているというのだから、その悲惨さに堺は嘆息せずにはいられない。


(相当に苦労しはったね、多田見さんは。ほんに、可哀想に。しかし……どうして分かったんやろね? こないな事件が、なんで現行犯逮捕になったんや?)


 感傷に浸るのも、そこそこに。警察官としての勘を取り戻すと、堺はフゥムと唸る。

 来栖川が会場に選んでいたのは、廃墟や廃道など、人目につかない場所ばかり。このような隠蔽されがちな事件の場合、目撃情報を元に逮捕に至る事はあるかも知れないが……現行犯逮捕はまずまず、珍しい。それなのに、来栖川とその一味は1人残らず、一網打尽で現行犯逮捕になったと記録されている。


(だとすると……タレコミがあった可能性大やな。それに、妙に出来すぎた逮捕劇やし……カラクリが気になるな)


 しかも、現場への踏み込み・容疑者の逮捕を指揮したのは……現在の警視総監その人と来ている。


(……あぁ、なんとなくやが……この事件に旨味を感じて、警視総監が食いついたん、ちゃうか)


 マスコミの俎上に上がるのは、決まって来栖川の陰険さであったが……一方で、「鮮やかな逮捕劇」を指揮したかつての警視の手腕に対する、賞賛もちらほら聞かれていた。そして、当時の警視……園原英臣は一躍ヒーローとして、警視庁本部でも大きな顔をするようになっていったのだ。


(何かにつけ、奴さんは自己顕示欲旺盛やからねぇ。姪っ子の起用も、キャンペーンの一環やったみたいやし。基本、目立ちたがり屋やね)


 それでなくとも、真田と経歴や成績を争っていた当時の英臣にとって、この手柄は何がなんでも手中に収めたいものだったに違いない。それに実際……英臣が警視総監に任命される決め手となったのは、この事件の功績が大きいと記憶している。


(で、問題は……そのタレコミが誰からあったか、やね。うーんと……)


 しかしながら、密告者の名前は流石に記録されていない。堺は資料を目で追うと同時に、手がかりが切れてしまった事に焦りを覚えるが……ふと、多田見を保護したという担任教諭の名前が、目に留まった。


(関彩音さん? なんやろ。この名前も、なーんかどっかで聞いたことがあるような……)


 ディスプレイから視線を上げて、疲れた目元を揉むついでに……堺はあれこれと記憶を辿る。最近関わった事件で、彼女の名前を耳にした気がするが……。


(あぁ、ちゃうちゃう。あの子は彩華ちゃんやねん。確か、弁護士さんの娘さんやったね……って、うぬ?)


 東家グループ顧問弁護士の娘・関彩華。今の彼女は諸事情があり、上林の元に身を寄せているのだと……犬塚から嘆願があった上林の身辺警護事案のついでに、堺もそれとなく聞かされていたが。だが、堺が問題視しているのは、関彩華の名前が多田見を引き取った担任教諭に似ているからではない。

 ……きっと、多田見の精神的トラウマを考慮してのことだろう。被害者の精神的負担を軽くするため、事件の処理を弁護士が代理で請け負うことは、そう珍しくない。だが……問題は多田見の代理人を、関豊華が対応していると記録されている点だ。

 関彩音、関豊華。そして……関彩華。ここまでの名前の類似性は、ただの偶然だろうか?


(まさか……この関彩音さんて、弁護士さんの親類か?)


 今度は「関彩音」に関する情報がないか、資料に検索をかける堺。そうして、事件に無関係そうでありながら……無視できない記録を見つけ出す。


(……彩音さんは、交通事故で死んどるのか……。なんちゅう、痛ましいこっちゃ。多田見さんは本当に、苦労続きやったんね……と、あぁ。まぁた、なんかキナ臭い感じやね、これは……)


 これまた、多田見の身の上を嘆くのもぼちぼちと。堺はジワジワと広がる、ただならぬ因縁を嗅ぎ取っていた。

 交通事故を起こしたのは、高齢ドライバーとのことだったが……事件発生が深夜ということもあり、加害者はまんまと轢き逃げしたらしい。年々、轢き逃げの検挙率も上がってはいるものの……それでも、70%程である。完全に取り逃がしがないわけではない。

 そんな事情もあり、関彩音を轢き殺した犯人は見つからないと思われていたようだが……なぜか、ここでも英臣がでしゃばったらしく、捜査期間延長を指示している。しかも、捜査・逮捕に当たったのが園原梓のチームであり、加害者を追い詰め、逮捕したのはあの結川となっているではないか。


(……なるほどなぁ。自身の事件に、恩師の仇に……警視総監は多田見さんの事件に、ガッツリ絡んどるんやね)


 少なくとも、英臣と多田見の関係性は見えてきたか……と、もう一度視線を上げて。堺は懐からスマートフォンを取り出し、気の置けない同期へと電話を掛ける。

 資料と睨めっこはどうも苦手だし、退屈だ。ここはしっかりと喋り倒して、真田にも意見を聞かなければ。

 そうして、独り言だけでは到底喋り足りない堺は……今か今かと、真田が電話に応答するのを待つのであった。

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― 新着の感想 ―
ここまで読みました! 警視総監を追い詰める真田と堺、さすが……と思いつつなかなか手強い警視総監。 多田見さんの過去なども明かされて目が離せませんね。 そして車に弱い私は深山さんにシンパシー……笑。 ウ…
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