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魔法の道具、治します!~小物好きOL、異世界でもふもふライフを過ごす~  作者: ユーリアル


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MIN-098「夏を前に」



 大自然の猛威、もとい素晴らしさ。

 戦いが終わった私たちの前に、そう表現するしかない光景が広がっている。


「これ、向こう側に行けるのかなあ?」


「今は無理だね。どれもこれも、素材になりそうに見えるけどなあ……」


 赤いサンショウウオな精霊が、大地に還った場所。

 最初は赤い光の粒が雪のように舞っているだけだった。

 が、しばらくすると土が見えていた場所が緑に、そして草木が生え……。


「たぶん、そんなに乱獲はされないと思うし、しても儲からないよ」


「どういうことだよ、ユキ」


 本当なら、自分も採取に行きたいだろうビエラ。

 私の護衛という役目を最後まで果たそうとしてくれてるのかな?

 もしかすると、目の前の光景に圧倒されてるだけかもしれない。


「お金にするには、誰かが買い取らないといけないよね。でもさあ、限界があるの。1年分、2年分の薬草ですって言われてもねえ?」


「あー……なるほどなあ」


 報告に兵士さんたちが走ってるから、そのうち誰かが来るはず。

 その間、街道の解放のためという名目で採取や伐採を続ける人たちを見守るのみだ。


(こっちの精霊たちも、お疲れだしね)


 サンショウウオの誘導に使わせてもらった道具の精霊たち。

 なぜか、彼らの力も自然の回復に持っていかれてしまった。

 その結果、半分以上の精霊はまた休眠状態になってしまったのだ。


「ひとまずこれで、復興や帰還の話が進むと思うんだよねえ」


 火山のことが済めば、避難してきた人たちも戻りやすいはず。

 お金も、ある程度はサンショウウオの森?が解決してくれる……と思う!


 街の方を向けば、さっそくやってきたであろう馬車が数台見えて来た。

 あれに乗って帰れるのかな?なんて思っていたのだけど、そうもいかないかも。


「なあ、ユキ。なんだか先頭の馬車に偉い人が乗ってるような気がするんだけど」


「あははは……気のせいじゃないよ。ルーナ、怒ってるなあ、多分」


 到着するなり飛び降りるという、大よそ貴族としてはふさわしくない動きで、ルーナが突進して来た。

 怒られるかなと思いきや、生きてる?なんて言われながら体中をぺたぺた。


「怪我はないみたいね。心配させて……」


「ごめんなさい、でいいのかな? ひとまず、終わったよ」


 指差す方向には、新しくできてしまった森。

 ルーナぐらいの魔法使いなら、そこが他と違うことが感じられるだろうね。

 言ってしまえば、全部上質という判断がされる素材ばかりだ。


「ユキ、戻ったら色々とお話しましょう。貴女が主に前に出る必要はないわ。人にやってもらうというのを、もっと覚えてもらうわ!」


「そ、そう?」


「その方がいいと思うぜ。危なっかしいもん」


 ルーナに早口に言われてしまい、どもってしまう私。

 さらにはビエラにまで言われてしまい、どこかぶぜんとした気持ちを抱えながら馬車で戻ることになった。

 素材で一杯の森は、予想通り互いにけん制し合いながらの採取となるみたいだ。


(持ち込む先、限られるもんね)


 生の草木が多いから、買取のために持ち込む先は限られる。

 火山の方に向かうか、一番近い場所に持ち込むか……そんな感じ。


 数名の兵士を管理に残していくようで、テントが設営され始めた。

 こんな場所で大変だなあと思った私は、ルーナにお願いをする。

 いくつかの魔法の道具を、置いて行っていいか、と。


「火種や水に関する道具を置いていく? なるほど……大丈夫だと思うわ」


「よかった。ほら、暑くなるからさ、水ぐらいはね」


 煮炊きをするにも、ライターみたいに使えれば、色々便利なはずなのだ。

 その気持ちが伝わったのか、残る兵士さんたちには随分と感謝された。

 ちょっと軽い気持ちになりながら、ルーナと一緒に町へと戻る。


 領主の館へ直行した私を待っていたのは、ユリウス様とアルトさんだった。


「ユリウス様は当然として、アルトさんはどうして?」


「このところ、立て続けに精霊がらみの事件が起きているだろう? 調査依頼を受けていた」


「現役は引退したっていうけど、逆に動きやすい立場なのさ」


 息の合った会話に、昔は色々ヤンチャもしたのかな?なんて考える。

 でもそうすると、ベリーナさんたちや、ダンジョンの見回りの問題はどうなるんだろう?

 思わずそれを口にすると、2人して頷かれる。


「旅に出るわけじゃないさ。見回りは知り合いにも頼むし、いつも通り帰ってくる」


「そうなんですね、よかった。あ、そうだ。この槍、眠っちゃったみたいです」


 ビエラによって、背中にくくられた槍。

 長さも、なぜかバットぐらいに縮まってしまっている。

 一番の問題は、眠ってることだ。


「確かに姿も違えば、力も感じないね」


「一応、時が来た時に、みたいな声っぽいのは聞こえたんですけど……」


「ふむ……宿っている精霊が、判断してるのかもしれん。稀に、そういうのもあるようだからな」


 ますますゲームみたいだけど、そういうのもありらしい。

 持ち歩くのもなんなので、領主の館で預かってもらうことにした。

 呼ばれてやってきた兵士さんが、重そうに持って行ったのが印象的である。


「さて、ユキにもやってほしいことがある。と言っても、簡単なことなんだけど」


「えっと、どんな?」


 こういう時、簡単ではないことは世の中が証明している。

 大体、無理難題や変なことを言われるのだ。


「実はね、避難民の一部を受け入れるついでに、町を拡張する予定なんだ。そこで、改名もする」


─キミには、その名付けを主導してほしい


 耳が幸せになるボイスで、ユリウス様はそんな難題を私に投げてきたのだった。






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