MIN-097「鬼さんこちら」
「天気は上々、雲1つなし……と」
町から徒歩で1時間ほど。
以前、トレントを迎え撃つのに候補にあがった場所の1つだ。
いつからそこにあるのか、わからない巨大な岩が目印である。
「始めるのかい、ユキ」
「うん。その間、護衛をよろしくね」
何人もの冒険者が、よくわからないだろうこの作戦に付き合ってくれた。
たまたま聞いた話によると、前も儲けたから今回も儲かったらいいな、だそうだ。
正直な話で、ある意味好感が持てる。
そんな中に、何度か一緒になった女性冒険者のビエラがいたのだ。
鳥を飛ばす間の護衛を、彼女にお願いしたわけ。
「任せておきなよ。いざとなったらアンタ1人ぐらい、抱えて逃げてやるさ」
「ありがと。よしっと……」
椅子代わりの木箱に座り、手には魔法の道具である瓶。
意識を集中し、海鳥な精霊を呼び出して……飛べっ!
最初はふわりと風船が浮き上がるように。
そして、すぐに放たれた矢のように飛んでいく。
その視界を共有しながら、火山へと向かう。
何度か通ったルートだからか、非常にスムーズだ。
見えてきた火山、感じる気配。
今も、大トカゲとサンショウウオな精霊が戦っている。
(どちらかというと、あしらってるって感じかな?)
大トカゲは強いようで、今のところは優勢。
それもいつひっくり返るかという怖さはあるので、作戦は続行だ。
なんとか大トカゲに近づき……海鳥を衝突させる。
その際、こっちの言い分を感情にして伝えるのだ。
不思議と、海鳥は燃えなかった。
(溶岩だけど溶岩じゃない? まあいいや、今はこっちこっち)
精霊、魔力を通して大トカゲに気持ちを伝える。
半ば賭けだったけど、私は賭けに勝ったようだ。
(サンショウウオを掴んで……投げたああ!?)
大トカゲは、文字通りサンショウウオを掴んだと思うと、ぶん投げたのだ。
ちょうど、私たちが待機してる方向へ。
「っとと……」
「ユキ、大丈夫かい?」
聞こえるビエラの声に頷きつつ、用意された場所へと歩く。
魔法の道具たちを並べた簡易的なテーブル。
一財産だけど、こんな状況で持って行こうという人はいない。
「みんな、よろしくっ!」
いつかのように、周囲の魔力をつかみ取るように同期していく。
力をくみ取り、一体化して……ぐるっと回す!
すると、周囲の魔法使いの力も、魔法の道具たちも大きく反応しだした。
「来た来たぁ! これの後は力が増すんだよね、ありがたい!」
1人の魔法使いの叫びに、そんな効力があったんだ?なんて思う。
言われてみれば、普段出してない力を引っ張り出すわけだから、効率の良い修行なのかな?
(やってほしいって人が集まってきたら、ちょっと面倒だな)
力を巡らせながら、そんなことを考えてしまう。
そうこうしているうちに、周囲には精霊があふれて来た。
「もふもふいっぱい……やった! よーし、もうちょっと頑張ろう!」
「あの子、とんでもないよ……? あれだけの精霊の呼びかけに、耐えてる」
何か聞こえた気がしたけど、精霊たちの声みたいなのがうるさくて聞こえない。
犬、猫、鳥、狼、蛇や亀、牛っぽいのと、色んな動物の姿の精霊たち。
みんな、半透明でちょっと光ってるのがいい感じ。
(今日は、よろしくね)
そのうちの1匹、気高さすら感じる猫の精霊を撫でると、鳴き声が聞こえた気がした。
その精霊は、槍の精霊。くじらに刺さっていた、特別な槍。
そばにミニ甲冑がいくつもあるから、集団で1つの精霊ってことみたい。
「ユキっ! あいつ、来てるよ!」
「本当!? すごい、まっしぐらだ」
遠くにあった赤いサンショウウオは、この距離でもわかるほど真っすぐこっちだ。
倒せない大トカゲより、力を付けようとしてるんだと思う。
でも、走るほど徐々にその力は失われていく。
「ちょっとかわいそうだけど……」
「自然との闘いと共存は、昔からの話じゃないか? 爺ちゃんも婆ちゃんもみんなそうして来た」
ビエラに頷き、私も槍を手にする。
どう考えても、普通なら届かない距離。
まだ何kmもありそうな距離だ。
でも……行ける!
「力を自分の流れに……よしっ!」
周囲に渦巻き始めた魔力、呼びかけに応えてくれた精霊たち。
みんなの力を、しっかりと自分に集めていく。
その集まる先は、槍。
私にはできるって、精霊が教えてくれる。
随分軽い槍を手に、助走をつけて……投げるっ!
槍の上に、猫がちょこんと乗っていたのがちょっとシュール。
そのまま槍は突き進み、さらに近づいてきたサンショウウオに突撃。
「力が弾けた……?」
「まだアイツの気配はある。でも行けそうだ」
「あんなのがいたのか……ようやく見えたな」
魔法使いの1人の言葉通り、サンショウウオはまだ存在していた。
でも、近づいてきたその額には、深々と槍が刺さっている。
そのせいか、みんなにも姿が丸見えみたい。
「後は私たちに任せておきな!」
誰かの号令を聞きながら、私は突撃する冒険者や兵士達を見守る。
飛び交う魔法が、サンショウウオへと殺到していくのが見えた。
「あっ……」
どれだけ続くかと思われた戦いは、結構あっさりと終わりを告げる。
サンショウウオが、はじけ飛んだのだ。
後には、魔力の残滓が雪のように舞い散るのみ。
周囲に、勝ったことに叫ぶ声が響き渡ったところで、私も終わったことを実感するのだった。




