MIN-094「悩ましい未来」
「これに触っちゃだめですからね?」
「見た目は頼りないんじゃがのう……」
領主の館から少し歩いた先。
町のすぐそばに、大きな畑がある。
農家の人たちが、固まって運営している畑だ。
「見回りが減るんなら、ありがたい」
「そうなるつもり、なんですけどね……」
私としても、効力を発揮することを期待している。
畑をぐるっと囲んだ、木枠。
それだけなら、獣や怪物には心もとない木枠だ。
でも……。
「じゃあ、起動! 入っちゃだめよ君!」
木枠の所々に、お椀をひっくり返したようなものが乗っている。
その1つに、手を乗せて魔力を注ぐ。
ででーんと合図をしながらスイッチオンって感じだ。
「ん、何か動きましたかな?」
「爺さんには見えないけど、精霊様が走ってるよ」
「あ、見える人なんですね」
若い農家の人が言ったように、さっきの魔力は精霊への呼びかけだ。
今回の秘策の1つ、電気柵もどきである。
木枠の所々に、精霊の宿る道具を配置、その間を行き来してもらう。
そこに、何かが邪魔したら力をばちんとしてもらうのだ。
(走るの、好きそうだもんねえ……)
電気の精霊はネズミ……じゃなく、フェレットだ。
籠の中で走るように、柵を延々走って往復している。
大体燃費は2か月に1回ぐらいの補充で済みそう。
「じゃあ後は、みんなで共同でこれを買って、時々置いてあげてください」
上手くいくといいなと思いつつ、畑を後にする。
すぐそばに、兵士さんが待ち構えてるのは、いまだに慣れないなあ。
「ユキ様」
「様は……あー、まあいいや。次、行きましょう」
そう、設置する畑は一か所じゃないのだ。
他の畑にも、同じようにやってもらっている。
私が行って、起動して完成なのだ。
そんな感じで、4か所ほど畑をめぐる。
後は、安全な場所にあったり、理由があって対策は特にしない。
「これで最後かな?」
「そうなりますね。しかし、贅沢なことです。魔法の道具を……」
色んな事情を分かっている兵士さんとしても、苦笑でいっぱいだ。
たぶん、地球でいうと一か所で何万円もかかるって感じかなあ?
「ちょっと便利な魔法使いがいると思ってください。ほら、強い人がいるときって何かと頼るでしょう? 似たようなものですよ」
「そう考えておくことにします。主に私の財布と胃袋のために……」
道すがら、そんなことをしゃべりながら報告をしに領主の館へ。
忙しそうに出入りする兵士さん達を横に、私も執務室へとゴーだ。
ノック……というところで気配に気が付いた。
中に何人もいる……おやあ?
「コホン……失礼します」
「ああ、ユキ」
感じた通り、室内にはユリウス様と、知らない男性が2人。
服装からして、この町の住人じゃなさそう……かな?
「ユキ? ではこちらが?」
「ああ……貴女のおかげで我らは生き残れます!」
「ちょっと、何のことです?」
突然、男性2人に握手を求められ、驚きでいっぱいだ。
話の流れからすると、これは……。
「彼らは、先日の川攫い等へのお礼に来ているのさ。硬い話は無しでね」
「わかりました。でも、お仕事でしたから大丈夫ですよ」
自分では謙遜したつもりはないのだけど、それが変にウケたみたい。
より感激した様子の2人と握手をしつつ、お話を聞いてみた。
事前に予想した通り、移住かどうかで悩んでるみたい。
「暮らせていけるのなら、こちらのほうが……」
「いや、だが慣れた土地を離れるのか?」
「難しいですよねえ……」
私はそんなに土地への執着はないけど、他の人は違う。
噴火もそろそろ収まるだろうし、どうにかなると良いんだけど……。
「こちらとしては、住民が増えるのは歓迎だが、あの土地で暮らす者がいなくなるのは……」
「でも、また噴火したら、ですか」
頷きが、答え。
大自然の恵みに、被害。
果たしてどちらが正しいのかは、今はわからない。
自然のままで、収まるのを待つだけ……だけなんだけど。
何か、胸騒ぎがする。
「ユリウス様、火山の方からの報告は何か?」
「キミも見ているだろう? 特には変化は……」
途端、扉が開かれる。
普段なら絶対にされない、ノック無しの解放。
扉から入ってきたのは、息も絶え絶えという様子の兵士さんだった。
「報告します! か、火山の様子がっ!」
報告の中身は、火山に新たな噴火の兆候ありという何とも言えない物だった。




