MIN-091「道具に歴史あり」
私はもふもふしたものが好きだ。
良く買い物に出歩くぐらいには、小物、雑貨も好きだ。
「とはいえ、買取の経験はまだまだ、だねえ……」
プレケースのカウンター内、預かった買取希望品を鑑定中だ。
忙しいというか、依頼人である冒険者さんが後で来ると置いていったのだ。
信用されてると思うべきか、大した価格じゃないと思っているか……うーん?
「お姉さん、難しいのですか?」
「え? ううん。それは大丈夫。心配なのは、お値段なんだよ」
店番途中、手元を覗き込んでくるアンナ。
彼女も随分と、お店での生活に慣れたと思う。
可愛らしく、窓からの陽光にブラウンの髪が光る。
「遺跡やダンジョンから出る物って、同じのはたくさんないんだよね。だから、お店で売る値段も相場……決まった金額がないの」
「余所のお母さんのご飯に値段が付けられないみたいなことです?」
「くすっ、そうそう。そんな感じ」
ある意味完璧な答えに、思わず頭を撫でてあげる。
くすぐったそうにする姿に、私にも妹がいたらこんな感じかなあと思うのだ。
鑑定に気持ちを戻すと、コインが何枚も出て来た。
布袋に入ってたから、小銭入れも一緒に渡されたのかなと思ったけど、違う。
「だいぶ古いような……ふむむ」
古銭、というものが地球にもあった。
いわゆる骨とう品みたいなやつだね。
民芸品な小物を売る場所には、たまにあったりする。
(ちょっと力を感じるなあ……だいぶ前のかな、これ)
特に割れてるとかはないけど、コインも魔法の道具みたいだ。
お掃除をするような感じで、ちょっとだけ魔力を指先に集めてこする。
ちょっとだけ曇りが取れたなと思うと、何かが出て来た。
「人形、かな」
私の手のひらには、1枚のコイン。
そこに、小指ぐらいの小さな人影……たぶん精霊、がいる。
前にユリウス様のところで指輪から出て来たのとは違う、普通の人の感じだ。
「お人形さんですか? んー? 何かいます?」
コインをじーっと見つめるアンナ。
大して特訓もしていないけど、アンナの力が目覚めかけてるのかもしれない。
「お爺ちゃんのお爺ちゃん、みたいな精霊さんかも」
「え? じゃあ、昔話してほしいです!」
できるかなー?なんて私が答えようとした時。
コインが少し光って、頭に何かが飛び込んできた。
それは一瞬のことで、すぐに視界も戻ってきたのだけど……。
「お爺ちゃん、頑張ったんですね」
「そうだね。すごい頑張ったんだ」
何が起きたかと言えば、人型の精霊が、私たちにたぶん記憶を見せた。
とある男の人の、一生。
ドキュメンタリー映画みたいな、そんな感覚だった。
どうやら、長い間世の中で使われてる間に、持ってる人のことを記録する魔法の道具になったみたい。
戦いの役には立たないけど、ユリウス様とか、昔のことを知りたい人にはいいんじゃないかな?
「条件付きでいいお値段ですよってことにしよっと」
「猫さんとかいないですか?」
「どうかなー。精霊は、勝手に形になってるのも多いからなー」
残念なことに、他に鑑定物に魔法の道具は無かった。
ほとんどが普通の武具や道具で、中古品だ。
もっとも、駆け出しとかが日帰りで帰ってこられる場所じゃこんな具合である。
「ユキ、アンナ、ご飯食べてらっしゃい」
「わかりました! ウィルくんも食べたかなー?」
お店に入ってきた2人に微笑み、ベリーナさんに抱っこされたウィルくんを見る。
だんだん大きくなってきてるのがわかって、面白い。
こっちを見て、差し出した指をぎゅーって握るところなんか特に。
預かり品の値段を伝え、アンナと一緒に食事へと向かう。
彼女の髪の色が奇抜ではないからか、こうしてると本当に妹みたいだ。
「えへへっ」
「どうしたの、急に」
黒パンを煮込みと一緒に食べるという、この地方じゃありがちな食事。
だというのに微笑むアンナに問いかける。
「ユキお姉さんが、本当にお姉さんみたいだなって」
「アンナ……ありがとう」
気持ちがぎゅーってなって、それが魔力になったみたい。
机の上にいた精霊、ローズが急に立ち上がったと思うとちょっと輝きだす。
驚いてみてると、毛並みが綺麗になって、ちょっと大きくなった。
「あれ、私にもワンコ見えます!」
「本当? 精霊として何か変わったのかな……」
もこもこ具合が、ふわふわもこもこに進化したローズを撫でつつ、食事を進める私だった。




