MIN-087「思いを飛ばす」
「というわけで、火山にいる精霊、今回は巨大トカゲ……は、わかってやってますね」
「ユキを疑う訳ではないけど、不思議過ぎる光景だったようだね」
苦笑を浮かべるユリウス様に、私も頷くしかない。
しばらく見ていたけど、休みなく延々と溶岩を吐き出していた。
こう、公園とかの噴水みたいにだ。
「私たちにできることは、あまりなさそうね。精々、火山への信仰をなくさないぐらいかしら」
「元々難しいだろうけど、火山の採掘とかはやめた方がいいと思いますよ」
この世界の技術だと、マグマまでたどり着くなんて不可能だろうけど……。
どこが薄くなってて、すぐそこにマグマが!なんて可能性もある。
(後は、温泉、これが大事!)
「火山のそばには、温泉。えっと、既に温かいお湯が出ることが多いらしいです。温かったり、高温だったりするそうですけど。上手く集落に引っ張れば、お風呂に毎日入れます」
「このぐらい饒舌にユキがなるぐらいには、良いものということね」
指摘され、ちょっと恥ずかしい。
だけど、日本人なら温泉は外せない。
何より、こっちに来てから満足にお風呂に入ってないのだ。
(一応、ローズで湯沸かしは出来るけど、風呂桶自体がね、うん)
「でも、遠いんですよねえ……」
「まあ、そうだね。さすがに向こうに住んでもらっては困る」
「ユキが望むなら風呂桶を作ってもいいのよ?」
雑談がだいぶ横に反れたところで、地揺れの被害状況の話になった。
結果としては、死者はなし、けが人が少々で最終的にまとまった様子。
家屋の損壊は、これから直しつつ、みたい。
「木材で柱あたりは、贅沢なんですよね?」
「ええ、出来なくはないけど、石積みやレンガなんかが中心ね」
怪物がどこにいるかわからない状況だと、おおっぴらに森には入れない。
何より、陶器なんかを作ってた村のように、急な開発は精霊を傷つける。
「寝室や、貴重品を置く場所を補強するぐらいでしょうか……」
「確かに……そのぐらいにしておこう」
気が付けば結構な時間がたっていた。
ユリウス様の合図により、メイドさんたちが軽食を運んできた。
「次は―、冷蔵庫……冷気を入れ物の中に溜めるのを考えてみようかなと」
「それは素敵ね。部屋ごと冷やせるといいのだけど」
クーラーかー、確かに、欲しいよね。
1部屋だけだったら、前に見つけた魚型の精霊が宿る魔法の道具で良いんだよね。
出来れば、方向性を決めて精霊を呼び出したい。
「全て使い捨てなのを、出来れば改善したい。可能であれば、他の何かから力を補充できるような」
「不可能じゃないですよ。魔法使いの手が必要ですけど」
驚きの2人分の視線が突き刺さる。
言ってなかったかな? どうだったかな?
「色々試し過ぎて、数が揃えられるかわからないのが多いんですよね」
「それは自慢するところではないね。それで、どういう?」
説明そのものはそう長くないはず。
要は、私が治す魔法の道具には2パターンあるのだ。
1つは、折れたりして壊れてる奴。これは治さないとだめ。
もう1つは、魔力が抜けきって、精霊が眠っちゃってる奴。
こっちは、他から魔力を引っ張ってくればいいのだ。
「使ってない魔法の道具から移すか、魔石……宝石の類でもいいですけど。それから力が移せます」
「言われてみれば、盲点ね。お兄様?」
「ああ、試してみようじゃないか。ふふっ、ユキはいつも驚きの塊だね」
イケメンなユリウス様にそんな風に言われると、ドキッとしてしまう。
まるでそのまま【いけない子だ】、とか言われそうな雰囲気だったんだよね。
ドキドキしつつ、窓から見える遠くの景色に視線を向ける。
森、草原があり、町があり、湖と海が……んん?
「なんだか船がいっぱい出てますね」
「あら、本当ね。何かあったのかしら」
「報告はないから、何か魚の群れが来たとかではないのかな?」
1つの窓に3人集まると、ちょっと狭い。
近くにルーナとユリウス様、2人の体温を感じてしまう。
作り物なんかじゃない、本物。
(私、この世界で……生きる)
変なところで、変な実感を抱いてしまう。
その後は、こまごまとしたお仕事のお手伝いをすることになった。
そろそろ、私が覚えてる限りの筆記とか、書類の形式とかをまとめるだけまとめておこうかなあ?
正直、そのうち忘れてしまうと思うのだ。
この世界での思い出が増えるほど、地球のことは過去になる。
何がどう、この世界で有効かはわからないけど、もったいない。
そんな気持ちを抱いていたのだけど、植物紙を多めにねだったら、ルーナに怒られたのだった。




