MIN-083「自然の咆哮」
「ベリーナさん! アンナ!」
「ああ、ユキ! 無事だったのね」
「うわああん、お姉さあんっ!!」
地震が起きてすぐ。町の様子を確認する名目で、私は兵士さんたちと町へ。
そして、外に出ているベリーナさんとウィルくんを見つけたのだ。
店番中だったのか、アンナも一緒。
アルトさんは……いた、近くの瓦礫を撤去し始めている。
町中が、どうしても大騒ぎだ。
「なんとか、ですね。それより、火事に気をつけさせてください。竈とか、そのままじゃないですか?」
焦った気持ちをなんとか抑えつつ、地球で学んだことを口にしていく。
電機はないから、火が起こされていればそこが危険だ。
(ああ、あっちも崩れてる! こっちはけが人かな?)
「ええ、そうね。すぐにアルトに知らせるわ……ユキ?」
「他には……他には。そうだ、いっそのこと呼びかけて瓦礫を動かして……」
「お姉さん?」
自分でも、今何を言ってるんだろうとどこかふわふわした気持ち。
そこに、鋭い痛みが走った。
「ユキ! 落ち着いて。貴女は神様じゃないの」
「ベリーナさん……はいっ! アンナも、ごめんね」
「えへへ、ちょっと心配しちゃいました」
私の頬を叩いたのは、当然ベリーナさん。
少しの痛みと、励ましを感じることで気持ちがすっきりしてきた。
あのまま、力を解放していったら、もしかしたら私はそこらじゅうの力と混ざったかもしれない。
精霊を産み出す、というのはそのぐらいの力だと長老は教えてくれた。
「地揺れは、何回も、日を分けて起きることがあるんです。一週間ぐらいは危ないかも」
「そうなのね……精霊を怒らせたとか、そういうのじゃないなら、きっと大丈夫」
可能性は否定できないけど、私もそれに関しては感じてないから大丈夫だと思いたい。
私は、自分にできることをしよう……!
「アンナも親御さんのところに送らないといけないし……。とりあえず、お腹がすくとろくなことになりません! 炊き出しとかどうですかね」
「確かに調理できない家もあるわよね……そうしましょう。先にアンナを送ってくれる?」
「わかりました!」
まだ怖いだろうに、気丈に振る舞うアンナを送り届ける。
家の外で心配そうに待っていたお母さんに飛びつくアンナ。
「来てくれれば、食事ぐらいは出しますので」
「ええ、ええ。ありがとうございます」
そばにいてほしい気持ちも、家の片付けとかを優先したい気持ちも、どちらもわかる。
こちらとしても、私がいない間人手があるのはありがたい。
戻りながらの見学で、だんだんと町の被害状況がわかってくる。
男手や力のある人は、がれき撤去や救出に、そうでなければできるだけ集まる。
そうして、ひとまずの避難所も出来上がってきた。
「ローズ、お願いね」
そんな中で、煮炊きのために精霊を使うのは私ぐらいな物だろう。
魔法使いの魔法は、ここまでの手加減はしにくいと聞いている。
「けが人が少しと、家が壊れたぐらいだな……なんとか、か」
「耐震、揺れに対してなんて考えてませんもんね」
アルトさんの表情も、あまりすぐれない。
やっぱり、地球というか日本がおかしいのだ。
私も、地震そのものに対してはあまり驚いていない。
みんなの被害がどうなっているかがわからないのが、怖かったのだ。
逆に、大したことないと判断し、逃げ出せなかったような事例もあるわけで。
そう考えると、災害に慣れてるというのも良し悪し、かな?
「今、建物は崩れやすくなってると思います。しっかり確認するまで、出来るだけ外の方が。後、塀とかには近づかないようにしてください」
「もっともな話だ。伝えておこう。ユキなら、この後どうする? いや、どうしたい?」
難しい話だ。個人としてか、それとも思いつくままか……。
悩んだところに、ローズが肩に乗って顔をこすりつけてくる。
相変わらずのふわもこで、感触が心地いい。
なんとなく、自由だと言われた気がした。
「必要なら、魔法の道具で治療を。後、これの影響で怪物が森から出てくるかもしれないですし、何よりダンジョンへの影響も心配です。そっちに人を使うかなと思います」
「そうかっ! それがあった!」
アルトさんが弾かれたように走り出す。
私も、赤熱のナイフに手をやりながら、立ち上がった。
町の外、湖の方はあまり動きを感じない。
波が来ることも、なさそうだ。
「ベリーナさん、私……」
「おっと、出歩くなら1人は本職を連れていくもんだよ、ユキ」
出かけようとした私を、ベリーナさんが引き留める気配がした。
そこに飛び込んできたのは、ビエラだ。
何かを手伝って来たのか、あちこち埃だらけだ。
手にした手斧をぐっと構え、元気そうなアピールである。
「行くにしても、町の柵までだぞ?」
「ユキを、お願いね」
ベリーナさんやその場にいた何人かの視線を感じつつ、ビエラと2人で動き出す。
領主様のすぐ近くの町でこれなんだ。
離れた村とかは……どうなってるんだろう?
「そんなことは考えても仕方がないね。上の人が考えることさ。それより、何か感じるかい?」
「えっと……なんだか騒がしいなとは……」
気配が、あふれている。
正確には、森も驚いている、みたいな?
これじゃ、例えば怪物や獣が動いていてもわからない。
テレビもラジオもないから、どこがどういう震度なのかもわからない。
「心配しても仕方ないと思う。やれることを、やろう」
「そう……だね。うん、そうしよう」
他の場所に被害が出ていないことを祈りつつ、体の向きを変えたときだ。
視界に入ったのは、広い景色。
草木の広がる大地と、遠くの赤い山……赤い?
「あれ……噴火してる?」
「おいおい、そういうことかよ」
遠くの山、中央とは別の方角の、恐らく別の国の方角。
そんな山の1つのてっぺんが、赤く染まっていた。
煙が噴き出し、雲に混じっている。
さっきまで、曇り空だったからよくわからなかったのだろうか?
地震があったから噴火したのか。
噴火のために地揺れが起きたのか。
地震の原因はわからないけど、問題はこれからも起きそう。
そのことを痛感しながら、町に戻るのだった。




