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魔法の道具、治します!~小物好きOL、異世界でもふもふライフを過ごす~  作者: ユーリアル


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MIN-079「欲望の種・後」



「で、どのぐらいのダンジョンかわからないから、お前は潜るなだってよ!?」


「あー……そうなったかぁ……」


 翌日、朝からビエラはカウンターに愚痴を吐出し中。

 悔しさが全身からあふれ出て、まあ仕方ないのかなあ?


「一番乗りは大事だけれど、それで命を落としては元の子もないでしょう?」


「そりゃあ……そうなんだけど……」


 ウィルくんを抱えながらの、優しいベリーナさんの声。

 実際に冒険に出ていない私ですら、説得される声色だ。


 見る間に、ビエラの勢いが治まっていくいく。

 と、こんな時でもお客さんは来る。


「いらっしゃいませー。え? はい……ユキお姉さん、お客さんです!」


「お客はお客……あれ? 酒場のおじさんじゃないですか」


「ははは、そう、おじさんさ。こっちに……おおいたいた、ビエラ」


 珍しいことに、酒場のマスターが私服でやってきたのだ。

 目的は、プレケースや私じゃなくて……ビエラ。


「あ? なんだよ。腐ってないで仕事しろとか言いたいのか?」


「ご不満そうだな。無理もないか…潜るのはベテランに任せろとなったわけだからな」


 そうなのだ。入り口からして、私とビエラが見つけたのはダンジョン。

 中に、魔法の気配も感じるから間違いない。

 さすがにここで潜るという選択は無く、報告の上で改めてということだったのだけど……。


「わたしもさ、わかってるんだよ。手に負えない奴らがいて、そいつらが出てくるようなダンジョンだったら、やばいってさ」


「ああ、そうだな。多くのダンジョンは、中から怪物が出てこられない。そういう仕組みだ」


 出ました。ファンタジーだなあと思う不思議設定。

 なんでも、ダンジョンコアに精霊が宿っていて、その力が外に出さないのだとか。

 正確には、ダンジョンの中でしかそのダンジョンの怪物は生きられないらしい。


 でも、例外がある。


「元々、そこを根城にしていたやつらは自由に出入りできる。そいつらがいなくなれば、後は自己責任だ」


「わかってるって……」


 新発見のダンジョンは、危険も多いけど大当たりがあることもあるらしい。

 誰もまだ漁っていない宝の部屋ってことなんだろうね。

 命との天秤、それが重要なんだ。


「っとと、それだけを言いに来たんじゃなかったんだ。ほらよ」


「なんだよ……金ぇ?」


 ふてくされるように突っ伏すビエラの横に、布袋。

 音からして結構な中身だ……これは?


「もしかして、発見報酬みたいな?」


「お、カンがいいな。その通り。と言っても今回からだ。領主様がよ、つい先日そう決めたんだ」


(ユリウス様が……って、なんかそんなことを言った覚えがある!?)


 雑談交じりの話の時、冒険者の死亡、行方不明率を下げたいという相談があった。

 その時、無理をしないでも損をしない仕組みがあればいいですねと言ったような気がする。

 例えばそう、何か新発見の場合は、秘匿せずに報告すると……。


「これだけじゃねえ。大きな発見があって儲かったら、追加がある。まずはダンジョン発見への報酬というわけだ」


「ダンジョン発見への……へええ!!」


 途端、元気を取り戻すビエラ。

 ちらっと見えた感じでいうと、ボーナスが満額出ました、みたいな感じだ。


「よかったね、ビエラ」


「ああ、これもユキが来てくれたおかげだ! 礼がしたい!」


 がっちり握手のビエラ。

 とてもにこにこと笑顔な姿に、私も笑みを返す。


「ふーん……アンナ! 青い棚の籠を中身ごと持ってきて!」


「はーい! よいしょ……」


「このあたりでいいわよ」


「このあたりって……」


 籠から取り出したのは、魔法の道具。

 駆け出しは、手に入らないようなそこそこいいものだ。

 組み合わせ的に、便利そうだなというものをセット販売するために用意していたのだ。


「私は―、ビエラがいい装備と十分な道具をそろえて、また冒険して生き残ってくれるといいな」


「はっはっは! そいつはいい! おう、ビエラ。わかってんだろうな?」


「く~っ! わかったよ、わかった! ユキ、女将さん! これで一番いい装備を頼む!」


 まいどあり~と、私たちの声が響き渡る。

 ちょっとだけ、ビエラは悔しそうだけど、絶対間違いじゃない。


「任せて! 他にも腕によりをかけて、良いもの選ぶから!」


「お、おい? 財布に手加減してくれよ?」


 笑いながら、酒場のマスターともあれこれと物を選ぶ。

 彼女にあいそうな武具、道具、そして命をつなぎそうな道具。


 結局、予算の8割ぐらいを使ってしまった形だ。

 ふふっ、お金を受け取ったアンナの目が白黒してる。


「人の金だからって好き勝手まぁ……」


「はははは……後悔は、できるのが幸せだと思うよ」


 短い時間だけど、一緒に過ごした私たちはもう友達みたいなもの。

 お店の外で、ぐっと拳を突き出す。

 握手みたいな、拳のぶつけ合いだ。


「へへっ。また、来るよ」


「ええ、また」


 手を振りながら帰る彼女の肩には、彼女には見えない精霊。

 選んだ道具の1つに宿る、フェレットみたいな精霊だ。


 強い力を持つ相手が近くに来ると、蚊よけみたいな高音を出す力がある。

 イヤリングだから、邪魔にならないと思う。


「さてっと、また明日は領主様のところにいかないとかな」


「ユキお姉さんがすごいです。あっちでもこっちでも」


「忙しいだけよ……アンナがいてくれるから助かってるんだよね」


 褒められたのが嬉しいのか、くすぐったそうにするアンナ。

 妹がいたらこんな感じかなと、気持ちを切り替えて、店番に戻る私だった。



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