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魔法の道具、治します!~小物好きOL、異世界でもふもふライフを過ごす~  作者: ユーリアル


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MIN-076「改良は大事」



「なるほど、精霊にも好みがあると」


「ええ、そうみたいなんです。この子なんかは、塩気のある方が好きみたいですね」


 そっと撫でてあげると、日焼けのように赤茶色の体を持つ海鳥が鳴く。

 もちろん、普通の海鳥じゃなく、精霊としての海鳥だ。

 海岸に落ちていたという酒瓶に宿っていた、何も強い力は持たない子。


「酒場なんかで飾ると、面白いかもしれませんね」


「それいいですね!」


 今日は、文官さんの1人と雑談交じりの相談会だ。

 海岸に流れ着いたゴミの処分は、領主側が受け持っているのだとか。

 そんな中に、精霊がいる子があったわけ。


「私が聞いたことのあるお話だと、攻め込んだ先に塩を撒いて、一面を死の大地にしたのだとか」


「それは恐ろしい話です。かかった費用を考えても……それだけ根の深い恨みつらみが……」


 話しながらも、ごみを確認していく。

 これが文官のお仕事なのかな?なんて疑問があるのだけど。


 本当の狙いは、そこじゃなかったのだ。


「おや、これは……なるほど」


 私からすると、ただのごみ。

 だけど、わかる人はわかるというのだ。

 このごみが、どこの土地の物であるかが。


「潮の流れ、というのがあると学者連中ではもっぱらの話でして。対岸に見える相手に、瓶で手紙を届けるにはどこから流せばいいか、とかあちこちで実験してるそうなのですよ」


「潮の流れ……なるほど」


 なんとなくは知っているけれど、こうして新しく発見されていく様は、なんだか興味深い。

 ふと、川と一緒で狭い場所だと速くなりそうですね、なんてつぶやいてしまう。


「ふむ? やはり、ユリウス様がそばに招こうとするだけはあるわけですね。良い着眼点だと思います」


 鋭く見つめられ、ちょっとドキッとしてしまう。

 本当は、沖に出るとすごい流れもきっとあるんだろうけど……。


(この世界じゃ、そんなの観測できないもんね)


 何より、大きな怪物とかがいそうで、怖すぎる。

 クラーケンとか、ああいうのが絶対にいる。


「お前はそう言うの、知ってるのかな?」


 小声で、手にした空き瓶、その上にのっている海鳥にささやく。

 文官さんは、見つけた物の記録に忙しそうで気が付かない。


「? やっぱり、いるんだ」


 鳴き声1つ、頭にイメージが注がれた。

 どうやら、海鳥の力は、見た物を共有するといった物らしい。


 広い広い海、何もないように見えて、命溢れる水の中。

 無数の命が生き、そして争い……。

 巨体が巻き起こす波に、木の葉のように揺れる空き瓶。


「風が出てきましたね、冷えますか?」


「そうかもしれません。暖かいからって油断してた感じです」


 本当は、海鳥の見た巨体に、少し怯えたのだ。

 船ごと飲み込みそうな、大きな相手。


 出来れば出会うことの一生ないよう、祈りながら室内へ移動だ。


「午後には、収穫の報告が上がってくるかと思いますが、どうしますか?」


「お手伝いしてよければ、ぜひ」


 ユリウス様からは、呼ばれてるとき以外は好きにしていいと言われている。

 ある意味、フリーハンドで自由に動けってことなんだろうなあと思う。

 こう、どこでどう私の持ってる知識とかが役に立つかわからないからだ。


「あのそろばんのおかげで、夜の油も少なくて済みます。本当にありがたい」


「灯り用の魔法の道具が、もっと気楽に使えると良いんですけどね」


 道具自体は、無いわけじゃない。

 でも、光量の調整が効かないのがほとんどなのだとか。


 便利な物ほど、レアで高い、道理と言えば道理。


「使う人間によって、強弱が違うものばかりで……安定する油灯りをよく使ってしまうのですよね」


「なるほど……。そうか、精霊とお話とまでいかなくても……」


 実際のところ、理由は私にはわかっている。

 けど、これまでどうしようもないことだったのだ。


 単純に、道具に宿っている精霊が、どのぐらいの明るさがいいのかとかをうまくわかってないのだ。

 これが、魔法使いとかで精霊が見えて、触ったりできると違ってくる。

 ちょうどいい具合を、伝えるのはなかなか技術がいるわけだ。


 逆に考えると、技術で埋めることができる溝。


「灯りの道具、1つお借りしても?」


「あははは。どうぞどうぞ。ユリウス様からは、持ち帰る以外は好きにさせるようにと言われてますから」


 なんともありがたい重圧に顔を引きつらせつつ、文官さんから灯りの道具を借りた。

 ついでに、タイルみたいになってる石を何枚か。

 不思議そうに見られたけど、大事なことなのだ。


 与えられている部屋に戻ると、さっそく机の上に灯りの道具と石を置く。

 石は、適当に色を分けてしるしをつけた。


「よろしくね。ちょっと色々試そう」


 今日の灯りの道具に宿っているのは、蛍を大きくしたような虫の精霊だった。

 喋ったり鳴いたりするようには見えないけど、意志疎通は出来る。


 例えばそう、赤いしるしをつついたときには、一番明るく、だ。

 何度かしるしで明るさを変えることを、お願いのような形で調整していく。

 時間にして30分もたってないだろうなあ。


「よし、どうかな!」


 最終的に、灯りの道具をつつき、しるしをつつくとそれに関連付けた明るさに変わることまで行えた。

 実験は成功……のはずだ。でもこれを、他の人も試さないとうまく行ってるかはわからない。


「さてさて……あ、ルーナ、ちょうどいいわ!」


「ユキ、どうしたのかしら。そんなに慌てて……今度は何をするの?」


「えっとね。実は……」


 ルーナに試してもらった結果がどうだったかは……。

 私がそれから受けたお仕事の量で察してほしい、うん。


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