MIN-068「平和の一時」
春も終わりそうな頃、町は賑わっていた。
それは私がお世話になっている雑貨屋プレケースも例外じゃなく、お客がいっぱいだ。
いつもと違うのは、普段の冒険者たちが半分というところかな。
残りは、外で倒した形のトレント、その伐採のための人員だ。
討伐から時間はたっているけれど、まだまだ回収素材は数多いみたい。
なにせ、無断で持って行かないようにと常に警備の兵士達が常駐してるぐらいなのだから。
「今回のトレント、記録にあるよりも素材としては上質らしいわよ」
「へ、へぇ……そうなんですね」
からかうようなベリーナさんの声。
どう考えても、わかってる。
まあ、私もちゃんと何をしたかを報告したのだから当然だけども。
魔法の道具ではなく、地面や自然そのものに力を使った私。
結果として、一時的にだけど魔法使いたちの力は増幅された。
トレントの興味をこちらに向けるぐらいには、増えたのだ。
場所が違えば、聖女だとか変な呼び方をされていてもおかしくなさそうだ。
「葉や根っこは薬に、胴体や枝はそれぞれ魔法の道具や杖になるのがトレントの相場。騒ぎになるな」
「お帰り、アナタ。話し合いは区切りが……一応はついたのね」
疲れた様子で帰ってきたアルトさん。
私が出したお茶を、一気に飲み干すあたり、相当だ。
いつもなら、味わってくれるもんね。
空っぽになった湯飲みに、おかわりを注ごうとして止められた。
「いや、トイレが近くなるからな……。ひとまず、ほとんどはユリウスのほうで買い上げて、それから中央へと流す形になる。上手く売りさばかないと、予算が無くなりそうだと笑っていたよ」
「あてがあるのね? アルト、中央へ行くのだけは、駄目よ」
はっきりとしたベリーナさんの言葉に、アルトさんも頷き返している。
色々ありそうだけど、あまり深くは聞かないのも大事だ。
それに、なんとなくわかる。
トレントは良いお金になる。
でも、それを使う先がなければお金にならない。
たくさんの魔法の道具、杖の材料の消費先……それは。
(戦争……嫌だなあ)
自衛のための戦力増強だとしても、喜ばしくはない。
平和が一番ではあるけど、これは地球の日本で暮らしていた私ならではだと思う。
「怪物だけが相手なら、良いんですけどね」
「ええ、本当にそう。あら、お客さんがまた来たわ」
一度波が引いたと思ったけど、またお客さんがやってきた。
今度の人は、冒険者風だ。
買い物だけじゃなく、修復も依頼される。
「わかりました。ええっと……あれ? 魔法使いのお姉さんじゃないですか」
「見たことあると思ったら。店員さんなのね。あなたが治すんだ?」
トレントの戦いのとき、そばにいた1人の魔法使いだったのだ。
道理で、渡された魔法の道具である杖に見覚えがあるわけである。
「消耗してるだけですね。これなら基本料金で治りますよ」
「よかったわ。なじむ杖はなかなか見つからないから……良いお店ね。かゆいところに手が届くわ」
褒められて嫌な気はしない。
笑顔で接客しつつ、引き渡しだ。
代金を貰い、その成果を出す。
当たり前だけど、それができるのはなんだか嬉しいと感じる。
でも、そんな気持ちも帰り際の一言で少し冷めてしまう。
「怪物との戦いが去年より多い、か」
「年によって違うから、何とも言えないのだけどね……」
アルトさんが先に休み、店番は私とベリーナさんだ。
ウィルくんも、カウンター裏にいたりする。
もう何年もそうやって過ごしているような、優しい時間だ。
時折のお客さんの相手をしつつ、お店の掃除も常に行う。
狼型の精霊であるローズも、大体一緒だ。
今日もまた、そのもこもこした体を元気に跳ねさせている。
「あまり暴れたらだめだよ? あれ……ちょっと大きくなった?」
編み籠の中に飛び込んだローズ。
でも、前に飛び込んだときと比べると明らかに隙間が少ない。
持ち上げてみると、重くはないけどなんだか大きさ的な重量感。
「ベリーナさん、精霊って成長するんですか?」
「え? どうなのかしら……しない、とは言い切れないけど……」
改めてローズを見ると……うん、少し違う。
可愛い顔に、もこっとした白いラインが増えている。
また今度、ルーナにでも聞いてみることにしよう。
「あ、いらっしゃいませー」
その後も、途切れずやってくるお客さんを相手に、接客を続ける私だった。




