MIN-064「怪物も生きている」
「町長やユリウス様への報告の結果、戦えるものでしばらく見回りをすることになった」
「備蓄から、必要な物資を買い入れる、ということにもね」
プレケースになんとか戻った私の報告に、2人はすぐに動き出した。
町に駐在している兵士さんからはユリウス様に、アルトさんたちはそのまま町の集まりに。
そうして半日後、結論は出たという訳だ。
「畑に、街道に……広いですね」
「ああ。だが、一時的な物だと思う。そう思いたい、という部分もあるが」
常に最悪を考えて行動するのは、正しいけど色々疲れるし、コストもかかる。
危なそうだから、護衛を常に増やそう、なんてやってたら干上がってしまうよね。
私にできることは……。
「私の場合は、あまり変わりませんかね? 治して、支えるぐらいです」
「店は忙しくなるわね。みんなにも、縄とか多めに編むようにお願いしないと……」
ベリーナさんの経験からくる予言通り、すぐに買い出しの人で店は賑わい始める。
討伐報酬みたいなものはほとんど出ないのだけど、みんな自分の事だ。
普段はダンジョンや遺跡に潜ってるだろう人たちも、一部は町の周囲にでかけてるみたい。
そうして、数日が過ぎていく。
「ありがとうございました!」
お客さんを見送り、疲労を吐き出すように一息。
今の人で、長い木の棒が例えば売り切れだ。
普通の木の棒で、殴るというより突くという感じ。
普段は、ダンジョン内での罠確認なんかに使うらしい。
今のところは、茂みをごそごそしたり、スライムに突き入れて、時間稼ぎをするんだとか。
(スライムの頭は良くないのかな? 脳みそもないし)
何か食べられるものがあったら、そっちを優先という本能っぽい。
これが生きてる人間だったら……いや、やめておこう。
「邪魔するよ」
「いらっしゃいませ。あ、修理ですか?」
次のお客さんは、顔なじみになった若い魔法使いの女性。
私と同じぐらいか、少し下ってとこかな?
あまり強くないけど、火の玉を撃ちだす魔法の道具を持っていて、何度も治している。
生きて帰ってきてくれてるのはとてもうれしい。逆に言うと……。
「まだ外には多いですか」
「近くはほとんど終わったと思うわ。追加がありそうな感じはないし……」
そういって、買い物を済ませる魔法使いさんの顔色は良くない。
心配事もあるだろうし、疲れてるんだろうな。
「ちょっと待ってくださいね……これ、よかったら」
「あら、焼き菓子? ありがと」
おやつ代わりに、ちょこちょこ作っているクッキーもどき。
同じ女性だから、このぐらいでもなんだか嬉しいのは、たぶん一緒。
修理を終えて、帰っていく魔法使いさんを見送りつつ、腕組み。
私にできることは、このぐらい……なんだけど。
「プラナ様は別の町についたって手紙が来たし……街道封鎖ってわけじゃないんだよね」
特には、怪物について書いてないし、手紙が届いたということは、怪物があふれてるわけじゃないみたい。
前みたいに、遺跡が半端に潰されたという話も聞かない。
抜け出しする人がいないみたいで、みんなそれぞれに稼いでるらしいし……。
「なんだろうねえ……ローズ、わかる? なんてね……」
カウンターに登ってきて、ごろんと転がるローズ。
その相変わらずな毛並みを撫でていると、癒される気がする。
このまま、少しずつ怪物が減っていけばいい、そう強く思う。
でも、世の中そうそううまく行かないわけで。
その状況に備えておくのが、大事といえば大事。
「今のうちに特訓でもしよっと……」
カウンター裏の引き出しから取り出すのは、ひよこ印の閃光玉の材料。
こまめに力を込めて、量産しているのだ。
そうして、10個目の作成を終えた時。
「ただいま。ユキ、大丈夫か」
アルトさんが帰ってくるなり、そんなことを言って来た。
私の心配をするなんて急にどうしたんだろうか?
ちなみにベリーナさんは、ウィルくんを寝かしつけにいっている。
「ええっと、店番はいつも通りですけど? 多少お客さんは多いですが」
「そうか……それならいいんだ。どうも、大物が来ている気配がする。恐らく、怪物たちの住処が動いてるんだ」
元冒険者、探索者としてのカン、らしい。
物語でも、現実でも、こういうのって馬鹿にできないと思うんだよね。
それぐらい、人間の力ってすごいんだと思う。
(どこかに移動するのを待つのかな? 討伐するのかな?)
思い浮かべるのは、真冬のドラゴン。
あの時は、くじらの精霊がいたからなんとかなったけど……。
お店に戻ってきたベリーナさんと、アルトさんがあれこれ話を始めるのを見守る私。
「ユリウス様に相談して、切り札を考えたほうが良さそうですか?」
「無理しないでいいのよ、ユキ」
「ああ、そうだな。ユキがやりたいなら、としておきたい」
そんな優しい言葉で、私を気遣ってくれる2人。
そのことが嬉しくもあり、出来れば守られるだけはなあとも思ったりもする。
「大丈夫ですよ。私だって……その、家族みたいなものだと思ってますから、色々やらせてください」
ちょっと勇気を振り絞って告げると、2人はキョトンとした後、笑顔になってくれた。
ベリーナさんに抱き寄せられ、アルトさんにはわしゃりと頭を撫でられ……うーん。
微妙に未成年扱いされてるような気がする。
(年齢的には、ベリーナさんとそう変わらないと思うんだけどなあ……)
2人が喜んでるなら、まあいいか……。
そんなことを考えるぐらいには、心地よく感じている私がいる。
騒ぎが大きくなる前の、ちょっとした優しい時間だった。




