MIN-062「新しい何か」
まだ朝日の昇り始めた早い時間。
私は既に着替えて、外でプラナ様と対面していた。
「もう行かないといけないなんて……寂しいわ」
「また、お手紙書きますね」
そう、プラナ様が戻る日だ。
数日だけど、やっぱり楽しい時間だなと思う。
食料なんかを積み込む兵士さんたちも、ようやく顔を覚えたところだけど、仕方ない。
随分ばたばたした旅立ちだけど、色々お土産を持たせたからそれで我慢してもらおう。
「ユリウスも、ルーナも。また元気な顔を見に来るわ」
「それまでには、もう少し発展させておきますよ」
「気を付けてね……お姉様」
私が知らないだけで、3人は思ったより近い付き合いらしい。
まるで、親戚同士のような会話が続き、ルーナのつぶやきに微笑むプラナ様は綺麗だった。
最後に握手でお別れの挨拶、というところで私は小指に指輪があるのを見た。
この世界だと、指輪をはめる場所とかで特別な意味はないらしい。
前に、魔法の道具の指環を買い取った時にそんな話をした覚えがある。
となると、ただのファッションか、普段使いの物ってことだろう。
(こっそりと、うん)
「また、新しいもの用意しておきますね」
「楽しみにしてるわ」
きゅっとプラナ様の手を握り、こっそりと祈りを捧げる。
魔法というほどではない、精霊へのお願い。
自分の足先から、体を通して手のひらに力が集まるのを感じた。
ぽんって音を立てるように、プラナ様の方に小さなウサギが飛び出て来た。
生まれたての精霊であることに満足し、そっと微笑む。
「何もなければいいですけど、いざという時は逃げてくださいよ?」
「さすがに、来た時みたいに襲われたくはないわね……」
笑いながら、離れていくプラナ様。
ユリウス様とルーナ、そして私の3人はそんな彼女の乗った馬車を見送る。
「ユキ、おまけしすぎじゃない?」
「良い人だもの……駄目?」
「あの人は、正しく恩を感じてくれるとは思うがね……私は仕事に戻る。ルーナ、後は頼んだ」
忙しそうに立ち去るユリウス様を見送りつつ、私もそろそろ戻る準備だ。
ここで働いているのも楽しいけど、プレケースの店員なんだしね。
「送らせるわ。1人で徒歩というのも物騒だし」
「大丈夫だけど、ありがと」
自分一人のために、小さいながらも馬車が出るというのは、やはり緊張する。
馬に乗れるようになれば違うんだろうけど、また練習しようかな?
馬車で町に戻り、プレケースが見えてきたころ、通りには冒険者がたくさんいるのがわかる。
暖かくなって、旅も冒険もしやすくなったからだと思う。
「ただいま戻りましたー! わっ」
元気に挨拶、と思いきや、お店は大盛況だ。
すぐにカウンターに入り、接客を始める。
ついでに聞けた話をまとめると、ある意味プラナ様のせいらしい。
問題なしというお墨付きが出たのと同じというわけだ。
「ちょうどいいところに。買い忘れがあったとか、細かい話が多いのよね」
「駆け出しが増えてるってことですかね……」
そんなことを話しているとタイミングよく、ウィルくんが多分空腹だから泣きだした。
衝立の向こうでお乳をあげるベリーナさんの代わりに、接客を続ける。
確かに、普段なら朝一でもそんなには売れないのも売れている。
「毒消しみたいなのはないのかな?」
「あるにはありますけど、速攻性は少し高いです。別のを飲んで安静にして、回復をさせるのが一般的ですね」
こういう話をするほどに、地球の医療がすごいことを感じる。
こっちじゃ、例えば盲腸の手術なんてないから……考えないことにしよう。
さすがに、お医者さんの真似事は怖くてできない。
「んー、そっかあ。でも、安全が買えるなら安いもんだっていうよね。1本貰う」
「ありがとうございます。そうですね、生きて帰ってきたら、また稼げますよ」
実際、こうして物を売った人で、それ以降顔を見かけない人は……何人もいる。
わかっていても、悲しい話だ。
そんなやり取りもしつつ、朝のラッシュを捌ききる。
大体お昼前にもなれば、お客さんは落ち着くのだ。
「改めて、お帰りなさい。どうだった?」
「楽しかったですよ。今回も、色々やれました」
作った物を簡単に説明すると、こっちでも作れるのか?なんて聞かれる。
食べ物の話は、どこでも一緒だなあなんて思いつつ、再現できるものは作ろうと思う。
(そば粉はあるから、さっそくお昼にガレットかな)
そんなことを考えつつの在庫の整理や、棚出しの時間は、私の好きな時間だ。
小物がたくさん見れるし、実際に手に取ってみることもできる。
売り物を理解することは、よく売れる未来へつながるしね。
季節が変わってくることで、売り物も少しずつ変わるのを感じる。
このあたりは、アルトさんとベリーナさんに当然お任せ。
でもそろそろ、私らしいものも仕入れてみたい気持ちもある。
それは、魔法の道具以外で、だ。
「何がいいかなあ……」
はたきをかけつつ、考えるのは何を売ろうかということ。
あまり大げさな物は難しいし、元にお金がかかりすぎるのも、難しい。
雑貨屋にあって面白いもの……うーん。
「おっと、誰だろう。こんな羽根を落としたのは」
冒険者のマントにでもついていたのだろうか?
鳥の羽毛みたいなのが、ふわりと落ちてくる。
それを手にした時、ひらめいた。
釣りの、疑似餌だ。
アンティーク小物には、色んな家具があるわけで。
それらの売り場には、どちらかというと民芸品だよね?というのも含まれることがある。
例えばそう、魚を取る罠だったり、手作りの道具だったり。
「ベリーナさん、魚釣りの針って鍛冶屋さんが作ってますかね?」
「針? ええ、そうね。頼めば作ってもらえると思うわよ」
簡単に、アイデアを告げると、面白そうと乗ってくれた。
釣りを楽しむ、疑似餌としての毛針。
思い立ったが吉日とばかりに、私は考えをまとめて鍛冶屋に走る。
最初は何を言ってるんだという顔だったけど、作ってもらう約束は取り付けた。
出来上がりを楽しみにしつつ、久しぶりのプレケースでの生活に浸る私だった。




