表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の道具、治します!~小物好きOL、異世界でもふもふライフを過ごす~  作者: ユーリアル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/126

MIN-059「焼いてなんぼの世界です」



「改めて、お礼を言わせてちょうだい。ありがとう」


「いえ、当然のことをしたまでですよ」


 容体の落ち着いた兵士さんを寝かせ、プラナ様たちをお部屋に案内。

 一息ついたところで、お茶会だ。


(なんで貴族とかってお茶会が多いんだろうって思ったけど、こういうことか……)


 変なところで、長年の疑問の1つに答えを得た私。

 要は、身分などを考えると、おおっぴらに出歩いて会いに行く、が難しいわけだ。

 お茶会という名目で、顔を合わせるしかない。


 そんなお偉い人なはずなのに、律儀に頭を下げてくるプラナ様に恐縮してしまうのだった。


「ふふふ。その辺にしておいてくれないかな?」


「あら、そうね。お二人も、前倒しになったのに快く受け入れてくださって、感謝いたしますわ」


 微笑むユリウス様に、プラナ様も同じように微笑み返した。

 その横で、ルーナは静かにしている。

 こういう、探りあいみたいな空間は少し、苦手だ。


(少し、肌寒いかな……)


 よく見ると、暖炉の炎が小さい。

 急だったし、まだ火がつききっていないんだろうか。


 こっそりと、腰の後ろに身に着けたままの赤熱のナイフに意識を向ける。

 ひょこんと、私やルーナには見える精霊、もふもふな狼姿のローズが飛び出てくる。


 そのまま、暖炉に行ってもらって気合一発。

 ぽわっと、少し音を立てて暖炉の炎が一回り強くなった。


「ああ、ありがとう、ユキ」


「わかっちゃいました?」


「ユキちゃんにわかりやすく言うと、大体の領主や、貴族はわかるように訓練を積む決まりがあるのよ」


 どうやらそういうことらしい。

 プラナ様にも微笑まれ、逆になんだか恥ずかしくなってしまった。

 ルーナには、またうかつに、なんて目で見られてしまう。


「プラナ様、わざわざ来られたということは、何か問題でも?」


「ルーナ、小さいの時のように、お姉様でもいいのよ? そうね……少し、噂にはなっているわね」


「噂……私が、ですか」


 じっと見つめられ、震えそうになるのを我慢してそう言葉を紡ぐ。

 私の、魔法の道具を治す力(最近はそれだけじゃなさそうだけど)は、使いようによっては戦争になる。

 そのことは以前、よほどそこまでにはならなそうという結論だったけど……。


「まあ、そこまでの物ではないわ。少しばかり、若い領主の土地が順調そうだなというぐらいよ」


「そうなると、自分が領主としては若すぎるのも、問題になったわけか。ユキ、すまない」


「い、いえっ。ユリウス様たちのせいというわけじゃ……」


 慌てて立ち上がりそうになる私の肩に、小さな手。

 隣に来ていた、ルーナの物だった。

 力が強いわけじゃないのに、なぜか安心した気持ちが広がってくる。


「ユキはよく考えて、特訓もしているわ。少し、勢いなところもあるけど……普通なら、どんどんお金儲けしようとか考えて、とっくに話が大きくなってるだろうし」


「ええ、間違いないわね。さて、難しい話はこれぐらいかしら」


 そういって、急にだらけた様子を全身にまとうプラナ様。

 壁に待機している兵士さんたちも、どこか普通の雰囲気に変わった。


「本当なら、地方に出てくるのは別の人間でしょうから……中央は面倒ですか」


「面倒なんてものじゃないわ。ほんっと、アナタもルーナも、それこそユキも連れていきたいぐらい。頭の固い連中ばかりで……」


「だいぶお疲れみたいね……ユキ、出せる?」


 おっと、出番のようだ。

 事前に料理長に相談の上、今回のおもてなしを考えてある。

 まずは甘味、胃袋をということで……。


「行けますよ。ちょっと呼んできますね」


 楽しみにしてくださいねと告げ、料理人たちを呼びに行く。

 そうしてカートに乗せて運び込むのは、様々な材料と……丸い石板。


 本当は、火のある場所で作る物だけど、今回は特別だ。


「何かを……焼くのかしら?」


「ええ、本来は調理場か、外で火を起こす物なんですけど、精霊に頑張ってもらいます」


 ローズを呼び出し、岩すら溶かすという熱をうまく石板に伝えてもらう。

 プラナ様ら3人を前に、緊張した様子の料理長たちが、調理を始めた。

 と言っても、卵とか牛乳で溶かしたそれを薄く焼くだけなんだけどね。


 そう、今回はクレープである。


「あっという間にこんな薄い生地が綺麗に……いい香り」


「はちみつを砂糖の代わりに混ぜてあります」


 少しずつ軌道に乗ってるらしい養蜂、その献上された形のはちみつを利用である。

 部屋中に広がる香りに、自然と私もお腹が空いてきた気がした。

 ユリウス様は……甘いものは嫌いじゃなかったはず。


「こうやって、色々巻いてかぶりつきます。ナイフで切ってもいいですけどね」


「余興としては、ありね。ありありだわ。ん~~!! 柔らかい暖かさ、甘さもいいわね。合格よ、ユキ!」


 何がどう合格かわからないけど、問題はなかったらしい。

 おかわりが欲しそうだけど、そこでさらに別のもの。


 同じように焼く物と言えば、わかるだろうか?

 個人的には、こっちが結構好きだ。

 材料は、小麦粉じゃなく、そば粉。


(さすがにそば打ちはできないし、つゆが……ね)


 日本人としては懐かしい蕎麦だけど、今回は粉として使う……ガレットを焼くのだ。

 順番が逆のような気もするけど、まあいいかな?


「こっちは香ばしさと、食事って感じね。旅の途中でも、適当に焼けていいかも」


「プラナ様は、旅がお好きですものね」


 聞きようによっては、小ばかにしてそうに聞こえかねないルーナのセリフ。

 でも、言われた本人も気にしてないし、ルーナ自身も羨ましさからきていそう。


 その後は、護衛の兵士さんも巻き込んでクレープとガレット、両方を焼き続けた。

 ちょっと焼きすぎて、夜になってもそれらしい香りが廊下まで漂っていたのは、失敗だったかも。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ