MIN-057「館にて」
歓迎できるお客が来るとわかれば、やることは1つ、おもてなしだ。
時々、レシピはユリウス様経由で送ってもらっていたけど……。
久しぶりというには、前の出会いからまだ日にちも経っていない。
「向こうにしてみれば、待ち遠しいのだろうさ」
「そんなものですかねえ? あ、このぐらいでいいかも」
何度もご一緒したことがある料理長と一緒に、今日も新作を試作だ。
ちなみに、白パン用の酵母は料理長に研究をしてもらっている。
理屈さえ伝われば、こういうのは本職の方が早いもんね。
「具を乗せて焼く、か。立食形式でないと、マナー的にも出してる時間がないな」
「そうですね……テーブルに並んで座って、だと切り分けをどうするか悩みますね」
今回作るのは、ピザもどき。
領主の館には、当然のようにパンの焼き釜がある。
そこをお借りしてというわけ。
(普通の料理用の焼き釜でもいけるけど……練習しないと)
「それに、これは手づかみでなくちゃ、美味しくない、そうだろう?」
「ええ、ええ。そうなんですよ」
ピザをナイフとフォークで食べるとか、考えたくない。
でも、ユリウス様やプラナ様なら優雅に……食べていそうだ。
話によれば、プラナ様は数日で到着予定とのこと。
それまでに、感じは掴んでおかないとね。
「お味噌や醤油はないから……でもお味噌は受けが悪いだろうなあ……」
焼きあがるまでの間、使った道具を片付ける。
小さなつぶやきが、料理長たちに聞こえたかどうかはわからないけど、ただの独り言。
仮に、醤油とかが手に入ったとしても、美味しくなるとは限らないもんね。
その土地では、その土地に合った調理法みたいなのがあるというしね。
(小物を集めてると、こっそり地方の調理のことを知る機会も増えるのよね)
「せっかくですし、魚料理も増やしたいですね」
「まあ、なあ。とはいえ、焼くか煮るか……」
日本人としては、お刺身が浮かぶけど、あれは結構高度な鮮度管理が必要だ。
一番怖いのは、寄生虫だよね。
こればっかりは、すぐにどうこうできることじゃないので、あきらめよう。
今は、手を付けられる奴からなんとかしていきたい。
「うーん、スープ……ちょっと贅沢にいきましょうか。出汁とりをやりましょう」
「色々聞かせてくれ」
結局、それから日が暮れても料理長とあーだこーだとしてしまう。
プレケースには、泊っていかせようという知らせが行っていると聞かされた。
夕食を共にするように誘われて、初めてそのことを知るのだった。
「なんだか、すいません。夢中になって」
「いや、問題はない。こちらとしても、打ち合わせが早くできる。なあ、妹よ」
「ええ、お兄様」
一応、正体を知らない中央へは、二人の親戚として扱われる予定の私。
貴族となれば、家系とかたどるんじゃないかと思ってたけど、地方だとそのあたりは緩いらしい。
昔、たまたま味わったことのあるコース料理を思い出しながら、慣れない食事だ。
ものすごく豪華という訳じゃないけど、それでもプレケースの物とは違う。
「ユキ、よかったらベッドでお話しない?」
「ええっと……」
ちらりと、ユリウス様を見れば頷き。
問題はないらしいので、そう答えるとルーナの表情も明るくなる。
お人形さんみたいなのは相変わらずだけど、なんというか、綺麗さが増したかな。
「まだ夜は冷える。気を付けるといい」
「ありがとうございます。ちょっとこういうのには慣れませんけど」
どうやら、着替えもこっちに合わせた物にするらしいと聞いて、戸惑う私。
それがわかっているのか、ユリウス様もどこか面倒見のいい近所のお兄さんのようだ。
ルーナに手を引っ張られ、部屋へと向かうことに。
「ほら、こっちよ。急な話だったから、この部屋になってしまったわ」
普段できないことができる、そのことが嬉しいんだろうか?
妙にはしゃぐルーナを見ていると、こちらも楽しくなってきた。
案内された先は、多分客間……より1つ上。
十分広く感じるけど、狭い方でごめんなさいねなんて言われてしまう。
「十分十分。じゃ、お話する?」
「ええ、そのうちお茶が来るわ」
まるで女子会、いや……お泊り会兼用か。独特の雰囲気は地球でも異世界でも一緒なのかも。
高校時代を懐かしく思い出す空気に、自然と私の気持ちも地球のそれに少し戻った気がした。
灯りを考えると、なかなか夜更かしは出来ないけど今日は特別だ。
どこからか、灯りの道具が運ばれ、優しく部屋が照らされる。
「普段だと、もったいないから使えないわ。ユキがいるなら、ね?」
「もう、便利に使っちゃって……いいけど」
それから、お茶を運んできてくれたメイドさんや、女性騎士まで巻き込んでの女子会だ。
長い付き合いらしく、メイドさんもかしこまりすぎず、会話に参加してくれた。
ちなみに、ひざ下まであるロングな感じだった。
デザインを参考に、地球で作れたら受けそうだなと思う私。
しばらく、女性陣だけの会話を楽しみ、時間が過ぎていった。
「うそ、ユキそんな歳なの?」
「本当は、ね。幻滅した?」
2人きりになって、私の本当の身分、落とし子であることを踏まえたお話になった。
日本人は若く見られるというけど、想像以上の差だったみたい。
「ううん。そんなことないわ。でも、プラナ様には言わない方がいいわね……お肌を気にしてるから」
「あはは……了解。あ、いい時間じゃないかな……」
楽しい時間はあっという間で、時計はないけれど夜更けなのはわかる。
ルーナもその自覚はあったみたいで、楽しい夜はひとまず終わりとなるのだった。




