MIN-046「未来を見る」
私が住み込みで働いている雑貨屋、プレケース。
元々、憩いの場、情報収集の場というか、そんな感じだったらしい。
最近だと、私の担当する魔法の道具や、たまに作ってるプリンが好評だったりする。
町の人や、冒険者さんもやってくる。
人の出入りがあるのは、良い証拠かな?
ある種平和なプレケースに、いつもとは違うお客さんが来ていた。
「だからたまには、息抜きがしたいと」
「ああ、お忍びという奴さ」
隠しきれていないイケメンオーラ。
物腰も柔らかで、アイドルとは別方向のすごさ、かな。
そんなイケメンは、誰かと言えば領主のユリウス様だ。
本当なら、会話ができるような立場じゃないとは思うんだけどね。
「正直、ユキには助かっている。レシピのほうも、私を通してプラナ嬢に送っているが……かなり好評でね」
「あははは……食べ過ぎて太らないといいですけど」
なんとなく、最高のはちみつプリンを求めて、領地中のはちみつを集めていそうだ。
実際、私が知っているお菓子のレシピとかも、小麦粉メインの物が多かったり。
そうすると、寒冷地っぽいこのあたりだと再現が高くつく。
「親はなかなか厳しいらしいからね、太るようなことは許されないだろうさ」
「そうなんですね。あ、そうだ。この前の閃光玉、輸出できるように頑張ったほうがいいんでしょうか?」
いわゆる外貨獲得というのか、町全体を潤すなら、外に売れたほうがいい。
これは私でもわかる理屈だけど、ユリウス様は首を横に振る。
「いや、それはやめておこう。際限が無くなってしまうだろうからな。それより、何か面白いことがあればそのほうがいい」
「面白い事……うーん」
アルトさんはいつも通りお出かけ。
ベリーナさんは、ウィルくんとお買い物ついでに散歩だ。
今、お店には私とユリウス様だけで……おおう。
そういえば、護衛が1人も中にいない。
たぶん、外にさりげなくいるとは思うけど。
「向こうの世界でやってる漁とか、新しい作物とか、出来たらいいですね。ご飯は元気の源です」
「それは確かに。少々生々しい話だが、豊かになれば税収も増える。そうすると、領地全体の都合もよくなる」
なんだか、勉強の時間のような空気になってきた。
それにしても、雑貨屋で窓からの光に照らされるユリウス様は、綺麗だ。
絵画のような、綺麗さだ。
「……ユキ?」
「え? あ、すいません。見とれてしまって」
思わず、本音を答えてしまう私。
顔はたぶん、真っ赤だろう。
地球じゃ、浮いた話は1つもなかった。
それこそ、こっちでいい出会いがあるなら、それはそれで……ん?
なんで私は見つめ返されてるんだろう。
「ユリウス様?」
「ふふ。ユキの髪もいい色だと思ってな」
な、何を言うんでしょうこの領主様。
そんな、王子様めいた発言をされては、元OLはぎゅんぎゅん来てしまいます。
言われてみれば、私の黒髪はこの辺じゃ珍しい。
むしろ、見かけないと言っていいのだ。
(珍しいから、目につくのかな?)
「ありがとうございます。ともあれ、色んな食材で料理もしてみたいですね」
「それがこの土地の名物になれば、人が呼び込める。研究する価値はある。ぜひやってほしい」
普段、そういったことに悩んでいるのか、ユリウス様の言葉には熱がこもっていた。
私みたいな、他所から来た平民(だと思う)に、頭を下げるかのような勢いだ。
「おっと……急すぎたか。言いまわる物でもないが、父が早くに隠居してね……」
「それは……」
亡くなられたのか、それに近いぐらいの状況なのか。
聞き出すのはどうかと思い、言葉を止める。
若くして領主、ということに何か苦労があるだろうことは、容易に想像がつく。
例えば、中央の人に舐められたり。
どこの世界も、若いと色々問題があったりするのだ。
「ルーナにも頼まれてますからね、私でよければ」
「心強いことだ。そろそろいい時間だな……では」
来た時と同じく、ユリウス様はあっさりと帰っていった。
扉を開いたとき、外に兵士さんが見えたからきっと迎えに来ていたんだろうね。
一人になったところで、お店の掃除をしつつ、考える。
「私にできること……できないこと……うん」
何か教科書のようなものを作るのは、難しい。
だって、何を書けばいいのかとかぽんぽんは出てこない。
その時その時、思い出すだけだもんね。
「まずは何があるかの研究かな」
今までも、小麦は少なくて、とか調べてはいた。
でも、本格的にはやっていないのだ。
記憶が薄れないうちに、そういったことを調べて関連のある物をまとめよう。
もしかしたら、一部は時代を進めるようなことになるかもしれない。
(けど、ここは地球じゃない)
別の世界、別の歴史だ。
私の手が届く範囲ぐらい、良くしたいと思う。
「よし、やるぞー!」
一人、声を控えめにポーズをとると、ローズをはじめとした精霊たちもなぜかポーズをとった。
ずっと、お店の中をうろついている精霊たちが、反応したのだ。
「そうだよね、私にはみんなもいる」
ほとんどが売り物の精霊だから、微妙に違うのだけど、それはそれ。
自分が治せるのだから、自分が一時的に使ってもいい……いいよね?
我ながら、都合がいいなあと思いつつ、作戦を練り始めるのだった。




