MIN-044「細切れの力」
─ぴよぴよぴよぴよぴよぴよ……
「ユキ、どうにかならないのか?」
「あはは……私としても予想外で……」
もう春ど真ん中という暖かい日。
私はアルトさんと一緒に、無数のひよこ精霊に囲まれていた。
黄色や白、ちょっと桃色とカラフルだ。
主に黄色なのが、お約束というのかなんというのか。
「体調は大丈夫なのか?」
「ええ、なんとか。今回は、敢えてちょっとだけにしましたから」
さすがに、少しだるさはあるけどちょっと全力で短距離を走ったぐらい。
前に、うっかり編み籠を魔法の道具にした時とは、大きな違いがある。
明確に、自分が意識してどのぐらい力を使うかを考えたからだ。
「ふむ……小石だが、確かに力を感じるな。それで投げると光るんだったか?」
「はい。大体一週間ぐらいは使えると思います。その後は、魔力が抜けてただの石です」
期間に関しては、なんとなくそんな気がするといったぐらい。
数えてみると、50匹ぐらいの精霊がいるから、小石も50個ぐらい魔法の道具に出来たみたい。
ずばり、使い捨ての魔法の道具という訳だ。
「小石は籠に入れてっと……」
「よし、いくぞ」
ここはプレケースの敷地にある裏庭。
納屋の中へと、アルトさんが小石を投げる。
すぐに、中をまばゆく照らす光があふれた。
事前にわかっていなければ、確実に目がくらむ光だ。
「発動は成功だ。それに、力も消えてる」
「やってから言うのもなんですけど、これって精霊が自然に帰ったってことで良いんですよね?」
精霊に生き死にはないらしいけど、いなくなるのは確かなので少し気になる。
でも、アルトさん曰く、精霊は自然の力が一時的に高まって現れる姿とのこと。
逆に、その力が薄まればまた自然に戻るだけだそうだ。
(あのくじらさんは力が強い例外ってことかな?)
いつぞやの、ドラゴンを退治してくれたくじらの精霊を思い浮かべる。
冬の訪れ、季節の便りのような存在だ。
そう考えると、他の季節にも似たようなのがいるのだろうか。
「問題はないと思う。問題があるとしたら、どう売り出すかだな」
「うっ、確かに。ユリウス様に話を通した方がいいですよね」
一度プレケースに戻り、駐在している兵士さんに伝言を依頼する。
こういう時のためにいるのだと、妙に張り切った兵士さんが駆け出した。
結果、感覚的に何時間もしないうちに馬車がやってきた。
ここの領主様、フットワーク軽すぎではなかろうか?
「店は任せて、いってらっしゃい」
「いってきます!」
ウィルくんを抱きかかえるベリーナさんに見送られ、アルトさんとで領主様の館へ。
たどり着いたと思ったら、なぜか館の中ではなく、庭先へと案内された。
そこでは、ユリウス様が兵士に混ざって、訓練中だったのだ。
「珍しいな、アルトから訪ねてくるとは。今回はユキからの話とのことだが」
「兵士もいるのなら、ちょうどいい。実は……」
説明が進むごとに、ユリウス様の表情も真剣な物になっていく。
布袋に入った小石たちを見せると、驚きから笑顔へ。
面白い物を見つけた、っていう表情だ。
「一週間ということなら、輸出もできんな。逆に言えば、ちょっかいも少ないということだ。さっそく試すか」
目がつぶれるといけないから、先に兵士さんたちへも光ると伝えてからの投擲。
実験通り、小石は眩しさを残し、ただの小石へと変化した。
「なるほどな……うむ。さすがに使い捨てと言っても、もう少し見た目を気にしておくといいだろう。ユキ、定期的に納品してほしい。巡回に使う」
「体調を見ながらということで、徐々にでお願いします」
まだ実験を始めたばかりだから、無理はしないようにしないとだ。
だから、下手に約束はせずに試しに使ってみてといった扱いにする。
ちなみに、こうしてる間にも小石からはひよこの精霊が好き勝手に歩いていて……。
「その、なんだ。このうるささはどうにかならないのか?」
「もうちょっと頑張ります」
魔物が、精霊の声を聞けるとは思えないけど、ゼロとは言えない。
もう少し、別の精霊なら……そう思ってしまうのも無理はない。
また後日とその場を去り、プレケースへ。
店番を再開しつつ、色々弄っては見るけど、結局ひよこじゃないと思った効果は出なさそう。
ただ、数個までならぴよぴよは言わないことは判明した。
「これで……妥協しようかな」
肝心の魔法の道具になるものは、投げやすいようにと小石のような鉄片にした。
平らな部分には刻みを入れて、いつ魔法の道具にしたかがわかるようにしたのだ。
傷が1つなら、週の最初に作ったもの、みたいな感じ。
─ひよこ印の閃光玉
プレケースに新しい商品が産まれるのだった。




