MIN-043「力は使いよう」
「よしよし、良い子ですねー」
「あー……」
腕の中の、温かさ。
そのぬくもりと、可愛らしさに思わず笑みが浮かぶ。
例え、勝手にどこかにいかないようにと、ベリーナさんにウィルくんの子守を頼まれたとしてもだ。
罰というほどじゃないし、私としても反省するところではある。
「前も思ったけど、手慣れてるわね」
「あっちじゃ、親戚はそこそこ近い付き合いだったんですよね。結構面倒見てましたよ」
大人になってからは疎遠気味だけど、と心でつぶやく。
ただでさえ、普段会わない親戚なのに、今となっては顔がしっかり思い出せない。
まだ半年ぐらいなのに、劇的過ぎるのだ。
「そうなの……私が悲しむから、駄目よ」
「はい。ありがとうございます」
多くは語らない……そのことが、なんだか嬉しい。
命の危険に飛び込むようなことは、できるだけしないでという心配の声だ。
湧きあがる気持ちに微笑を浮かべつつ、ウィルくんを揺らしてあやす。
あんなことがあったばかりだけど、今日もアルトさんはおでかけだ。
「頑丈というべきか、少し位休んでもいいと思うんですけどね」
「この前も言ったけど、アルトがああだから私は選んだのよ」
「ごちそうさまです。あ、いらっしゃいませー」
扉のベルが鳴り、お客さんが……お?
やってきたのは、つい先日アルトさんたちに助けられていた冒険者たちだ。
あっちも私に気が付いたらしく、笑顔で手をふって……固まった。
「お姉さん、結婚してたの?」
「え? ああ、違う違う。こちらのベリーナさんのお子さんですよ」
よろしくねーなんてウィルくんの手を振ると、わかっているのかいないのか、赤ちゃんスマイルだ。
全員が全員、そういうわけじゃないだろうけど、目の前の冒険者たちは笑顔になった。
彼らも彼らで、だいぶタフみたい。
というのも、新たな冒険のために買い出しにきたようだからだ。
「2人は療養中、だから潜らずに採取とかで過ごそうと思って」
「じゃあこっちの籠とかね。背負ってみて」
ウィルくんを抱えた私の代わりに、ベリーナさんが彼らに背負い籠をお勧めする。
町の人の内職品でもあり、雑貨好きの血が騒ぐ一品だ。
新品以外にも、この店には色々と置いてある。
これが、案外売れていくのだ。
最初は、雑貨屋ってどうやって生計を立ててるんだろうって思ったけどね。
「後、お金があるならこれはオススメよ」
「これ、魔法の道具? さすがに買えないよ」
提案しておきながら、自分でもそう思う。
安いものでも、金貨なのだ。
地球の感覚でいうと、10万円から、みたいな?
(それで命が買えるなら安いような、高いような……)
なかなか悩ましいところだけど、実際便利なはずなのだ。
オススメしたのは、魔力をこめると強い光を発する棒。
そう、目つぶし用だ。
「へー……それで目くらましで逃げるもよし、倒すもよし、かあ。借りられるならいいんだけど」
「そこは難しいわよね。町の人や、兵士相手ならともかく、いついなくなるかわからない冒険者相手だと……」
やはり、そうそううまくはいかないらしい。
レンタルにするには、信用だとかそういう問題が……うん。
これも、魔法の道具が良いお値段するのがいけないのだ。
もっと安く、返却の必要がないようなものだったら……。
「ここは鎌とかはあるかい?」
「そっちの棚にあるわよ。手を切らないようにね」
畑仕事をしたことがあれば、慣れているだろうけど彼らはどうだろうか?
薬草を採取するのに、結構使う機会は多いらしいけど、ね。
そのまま冒険者たちを見送り、店内をウィルくんをあやしつつ歩く。
その振動が心地よいのか、ウィルくんは小さく声をあげつつうとうとと。
本当は、居住区側で寝かせたほうがいいような気もするけれど、慣れておいた方がいいとのこと。
今のところ、接客の騒がしさも気にせずによく寝るから、さすがというところかな?
カウンター裏にある赤ちゃんベッドに寝かしつけ、なくなった温もりにちょっと寂しさだ。
「ユキが来て驚くことも多いけど、助かってるわ」
「こちらこそです。色々やれてますし、楽しいですよ」
コンビニとか、デパートはないけど……うん。
100均みたいなお店があれば、使い捨て気味に色々試せるんだけどね。
「あ……」
そうだ……この手があるかもしれない。
何も高級品だけじゃなくていいじゃないか。
「どうしたの、ユキ」
「アルトさんが帰って来てからになりますけど……精霊を宿らせる力、旨く使えないかなって」
わざと弱く力を込めて、使い捨ての魔法の道具。
口にしたのは、そんな提案だった。




