MIN-036「妹想い兄想い」
「そっかそっかー……妹さんの将来のために稼ぎたい……偉いね!」
「そ、そうかな? 結局、この町……田舎だから」
個人的には、素朴で落ち着くけど、暮らしている若者にはそういう感覚みたい。
その考え自体は、わからないでもない。
(お金を得る手段が限られてるもんね)
規模がぎりぎり町というだけで、村に等しいこの町。
刺激を求めて飛び出す若者、なんてのはどの世界でも一緒なのかな?
一番の違いは、遠くない場所にとんでもない刺激があることだろうか。
「魔法は覚えても、遺跡やダンジョンに行っちゃだめだよ?」
「っ! それは……」
図星の顔。悔しそうな、恥ずかしそうな表情だ。
私でもわかるぐらいだ……きっと周囲の人も反対してるんだろう。
元々、教えるつもりもないし、教えられるとも思ってない。
自分の力が、魔法になるのかどうかもわからないんだからね。
「ねえ。例えば、お父さんやお母さんが家のためだって、ずっとおでかけしたりしたらどう思う?」
「寂しいし、大変かな。妹だって……あっ」
簡単に例えただけで、それにたどり着くあたり、いい子なんだと思う。
自分が稼ぐために何かをしにいくということは、家族に寂しい思いをさせることになるのだと。
と言っても、このまま何も無しで帰るのも問題と言えば問題。
ここは、頼れる人に相談しよう。
「それで私に何かないかって? ユキにようやく頼られたと思ったら……優しいのね」
「私じゃ、町のことはあまりわかりませんし」
ウィルくんを赤ちゃん籠であやしながらのベリーナさん。
窓からの日差しに照らされる親子は、絵画のようである。
ともあれ、私が町に詳しくないのはまぎれもない事実なので、こだわったりはしないのだ。
私の知り合いと言えば、領主兄妹関係と、お店の関係者、おば様方ぐらいだ。
まだ知らない人、行ったことのない区画だって多い。
「そうよね……君、お家のお手伝いはしてるの?」
「う、うん。掃除と、ご飯のお手伝いは」
立派な物だと思う。
比べる物でもないけど、私なんかこのぐらいの歳だと……いや、止めておきましょう。
「じゃあミッシェルのところや……そういった手伝いで入れるかもねえ」
「食べ物系はいいですよね。勉強にもなりますし、やっぱり手に職ですよ」
まかないや持ち帰りの考えがあるかは別にして、ありだと思う。
もちろん、物運びの手伝いなんかも役に立つけどね。
そんな感じの事を言えば、少年も頷いてくれた。
「店は私がこのまま見ておくから、ユキ、先に話を通して来たら?」
「いいんですか? じゃあ、いこっか」
「ありがとうございます!」
礼儀正しい声に2人で微笑みつつ、再び町へ。
生活スタイルもわからないけど、朝早くは忙しそうだ。
夕方には、店じまいをしていることは知っているパン屋さんへ。
ちょうど、外の片づけをしているところだった。
「ミッシェルさん!」
「ん? おお、ユキちゃんじゃないか。どうしたんだい、注文か?」
前に釜の問題を解決して以来、気さくな間柄といったところなのだ。
普段は注文と受け取りぐらいにしかこないから、また注文と思われたみたい。
首を振り、事情を説明すると……少年に近づき、体のあちこちを触り始めた。
「あ、あの?」
「楽な仕事はないからな。まずは体が大丈夫かを気にするのさ。朝早いのは平気か?」
真剣な表情の問いかけに、少年も頷いた。
私は朝弱いのに……それだけですごい気がする。
それからは、まず親御さんに話をしてからとなり、試しに良いと言われたら来てくれとなった。
「ユキお姉さん、ありがとう!」
「私は何もしてないよ。魔法だって教えられてないから……」
少年をお家まで送っていくことにし、案内してもらう。
私も、相談を受けて話を持って行った責任みたいなものがあるはずだしね。
やってきたのは、どこにでもありそうな町の一軒家。
この土地らしく、薪の集められた倉庫に、大きな煙突のついたお家だ。
「ただいまー! うおっ!?」
元気よく扉を開けた少年は、中からの何かにより押し戻されていた。
その正体は、女の子だった。
「にいちゃ、おかえり!!!」
元気一杯、むしろ元気の塊といった少女……たぶん、妹さんだ。
ずっと伸ばしてるだろう髪もなびき、ぐりぐりと兄である少年に頭をこすりつけている。
恥ずかしそうな少年を見つつ、妹さんの後ろからやってきた女性の方を向くって。
「あれ? もしかして……」
「おやまあ。ユキ先生じゃないかい。どうしたんだい?」
他でもない、料理教室の生徒さんでした。
簡単な説明をし、ご納得いただいたところで、私はプレケースに帰ることにしました。
「兄妹……か」
私は一人っ子だった。
寂しい時もあったけど、仕方ない。
こっちと向こう……地球の時間がどうなってるかはわからない。
(いっそのこと、いなかったことになってるほうがいいかな……)
案外、本当の私は向こうでよろしくやってるかもしれない。
ここにいる私は、世界の境界線を越えてコピーされた存在……なんてね。
「そういうお話、あったなあ……」
誰に聞かせるでもない独り言をつぶやきつつ、お店に戻った。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。まだ寒いでしょう?」
こちらを見るなり、出迎えてくれるベリーナさん。
お母さんではないけど、もうお母さんだ。
そっと抱き寄せられ、こちらも軽く抱き返す。
「もう春ですね。夜は寒いでしょうけど」
そんなことをしゃべりつつ、店番をして時間は過ぎていく。
平和、大事なもの……守りたいもの、だ。




