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魔法の道具、治します!~小物好きOL、異世界でもふもふライフを過ごす~  作者: ユーリアル


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MIN-028「不穏の足音」



 冬、それはどうあがいても寒い季節。

 雪深く、湖からの風も時折吹くこの土地は、かなり寒い。


「まるで実家みたい……」


 ぽつりと、窓越しの景色に言葉が漏れた。

 まだ1年もたっていないのに、随分濃厚な時間を過ごしてるな、と思う。


 見知らぬ世界に放り出され、居候しながらの暮らし。

 普通なら、明日があるかわからない状況に、震えたっておかしくない。

 私は、運がよかったのだ。


「本当に幸運なら、こうはなってないだろうなってのは置いておいて、幸運よね」


 雑貨屋プレケース。


 私が居候させてもらっている人たちの、お店。

 今日は、私は一人店番だ。


「さて、アルトさんとベリーナさんはお披露目でまだ戻ってこないだろうし、在庫の整頓ぐらいはしようかな?」


 産後の調子がようやく戻ってきたベリーナさん。

 そして、外も赤ちゃんが出歩いても大丈夫なぐらいになってきた。

 そう、真冬の時期は過ぎたのだ。


「雪かきはまだ必要だろうし、ロープは多めにしておかないとな……」


 町にそれなりにいる冒険者も、遺跡への探索には必須なのがロープだ。

 色々と使えると聞いているから、丈夫なのが求められている。

 職人以外にも、各家庭で冬の内職の1つがこのロープ作りだ。


 買いやすいよう、太さがわかるように並べておけば後は欲しい長さを言われたら切るだけ。


「もし戻ったら、そういう地方に行こうかな」


 言いながら、戻るのはかなり難しいだろうことを感じている自分に気が付いた。

 それに、すごく戻りたいという訳でもないということも。


「不思議な体験だし、それに……」


 アルトさんたちや、ルーナ、それにユリウス様。

 彼ら以外の、町の人たちを見ていても思う。


 みんな、日々を輝いて生きている、と。

 なんとなく学校に行って、なんとなく働いていた自分とは何かが違うなと思うのだ。

 そりゃあ、私だって雑貨が好きで真剣に働いていたけれども。


「剣と魔法の世界で生きるなんて、向こうじゃできないもんね」


 なんのことはない。

 今のところ、私の中ではこの世界への好奇心、そういった物が勝っているのだ。


「あ、また降ってきた……」


 窓から見ていた景色に、白いものが混じってきたことに気が付いた。

 玄関前ぐらいは掃除をしておこうと、箒を手に外に出る。


 この箒も、ただの箒じゃあない。

 精霊の宿った、特別な物だ。


「じゃあお願いね」


 言葉短く告げると、箒から出てくるのは茶色い天馬。

 箒の先に、少しだけ力……魔力が集まっていく。

 それは、渦巻き状の風となっているのが感じられた。


 後は、落ち葉を飛ばすブロワーのように雪を飛ばしていく。

 ついでに、ご近所の分もだ。


「電源いらずの便利道具。うーん、一家に一台、欲しいな」


「あら、いくらぐらいかしら」


 掃除の成果を眺めていると、背後から声。

 振り返るまでもなく、ベリーナさんだとわかる。


 笑顔で振り返れば、やはりベリーナさんとアルトさん。

 そして、2人の息子である赤ちゃんのウィル。

 まだおくるみの中でじっとしたままだ。


「魔力充填が問題ですから、要相談ですね。お帰りなさい」


 寒いだろうと、お店の扉を開ける。

 本当は家側にも入り口はあるけど、この方が早い。


 少し開けていただけなのに、中からは温かく風が吹く。

 それが無くなる前にと、私も中に入った。


「あまり風がなくてよかったですね」


「ええ、本当に。おかげで何軒も回れたわ」


「ユキのことを気にしている人もいたぞ」


 優しく告げてくる2人の言葉に、自分もどこか温かくなるのを感じた。

 役に立っている、そのことがやはり嬉しいのだ。


「それはよかったです。っと、ウィルくんも温かいのが飲みたいかな?」


 まだお乳だろうけど、白湯を飲むこともあるみたい。

 暖炉の前で温まっている2人と、ウィルくんを見ながら赤熱のナイフを手にする。

 さすがに刃は見えないようにしてるけど、実はずっと専用の台にはめ込んだ形でむき身なのだ。


 力を注いで、精霊であるローズには暖房を行ってもらっている。

 だから、お店も暖炉の大きさと火の割には暖かい。

 そんな力を、今は器に注いだ飲み水に使うのだ。


 ちょっと力を入れれば、冷たい水がぬるく、そしてやや温かく。


「このぐらいですかね?」


「そうね……ちょうどいいかしら」


 元気に飲むウィルくんを見ながら、私も微笑む。

 平和な時間、とても大事な時間だ。


 寝かせるためにと、家の方に戻るベリーナさんを見送る。

 お店には、私とアルトさんが残った。

 今日は、お客さんこないな……。


「ユキ、少し話がある」


「なんでしょう? 良い話……とも限らなさそうですね」


 いつもどちらかというと、真面目な顔をしているアルトさん。

 今日は、いつにもまして真面目な顔だ。


「ああ。春になったら、どこからか勧誘が来るかもしれない。いや、勧誘ならまだマシだな……」


「あー……」


 言わんとすることは、よくわかった。

 私の持つ力、魔法の道具を治す力。言い換えれば精霊を癒す力だ。

 過去には、色んな土地で冒険をしていたというアルトさんでも、まず聞かない能力だと言っていた。


 いないことは、ないらしいのだが……。


「使い方、たくさんありますもんね」


「そうなる、な」


 単純に、戦争に使える魔法の道具をひたすら治し、再供給できるわけで。

 それ以外にも、使い捨てだった形の魔法の道具をまた売ればいい。

 今も、同じことをしてるわけだけど、規模と方向性が変わってくる。


「出来れば、戦争のきっかけとかにはなりたくないです」


「俺たちも同意見だ。出来るだけ、目立たないようにしないとな」


 頷きつつも、難しいだろうなあという気持ちもあった。

 その理由が、どこからか聞こえてくる。


「今日も、鳴いてますね」


「よほど湖が気に入ったか。吹雪にならないようにできただけ、正直ありがたいよ」


 聞こえてきたのは、湖に住み着いたくじら型の精霊。

 怪我は治ったはずなのに、海に出ていかずに湖を泳いでいるようなのだ。


「ま、なるようにしかなりませんよ、きっと」


 諦めとは違う、どうにかするしかないという覚悟を決めて、そんなことを呟く私だった。




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