MIN-024「食生活も、治します?・後」
領主であるユリウス様に呼び出され、珍しい料理はないかと相談された私。
一応、一人暮らしはしていたし、雑貨に似合う料理はどんなもの?なんて調べ物もしていた。
とはいえ……だ。
「私自身は料理人ってわけじゃないので、色々お任せしてしまいそうです」
「それは問題ない。新しい調理法が見つかれば幸運、ぐらいに思っている」
当然だけど、厨房を預かっているコックさんがいるわけで。
仕事にケチをつけるようなことにならないよう、注意しないとだ。
しっかりと手洗いし、服も借りて厨房へ。
まずは材料の確認を……ん?
「これ、なんですか?」
「ん? ああ、見ての通りの卵だよ。このあたりにはあまりいないドゲラという大きな鳥でね。裏庭で飼育している」
テレビで見たぐらいな、ダチョウの卵ぐらいの大きさのソレ。
殻も分厚いせいか、かなり長持ちするらしい。
卵料理は、なんだかんだと便利だと思うので、ありがたい。
「調理器具はこれで……よし!」
普段の料理のことも聞きだして、大体の方針は決まった。
地球で言うジャンクフードにあたるけど、見せ方は色々あるよね。
まずは薄揚げなポテトを作ってみる。
ちなみに、油は貴重な方とそうでない方があるらしい。
「なるほど。小腹を満たすにはいいな。油と塩で汚れやすいのが改善箇所か」
「元は庶民向けですから。どうしてもなら手袋か、専用のつまむものを使うとか?」
まさか、異世界でポ〇チなトングを提案することになるとは……。
が、予想外なことにトングは存在していなかったようで、急遽鍛冶屋さんが呼ばれた。
そりゃ、兵士の武装を直したりするのに常駐してるよね……。
町にいる人とは仲がいいのか悪いのか、わからなかった。
けど、あっちと相談してみるって言われたから悪くはないみたい。
「他にはどんなものを作ってみる?」
「ええっと……」
思いつく限りの料理を口にし、大体のレシピを書き留めてもらった。
グラムだとかの数字は上手く伝わらないので、たくさんあるカップの類で表現した。
そのあたりの調整は、プロに任せれば問題はないと思う。
調理を手伝いつつ、ずっと気になってたことを聞く。
「それで、どんな人が来るからなんですかね?」
「詳しくはまだ知らされていないが、毎年雪解けの頃に視察があるからそのためじゃないだろうか?」
視察、なるほどである。
ユリウス様は王様ではない、その意味ではただの一地方の領主だ。
私にこうして聞いてきたぐらいだから、そこまで格式高いみたいなお話ではないのだろう。
(意外と、ユリウス様が王族と知り合いだから様子を見に来る、ぐらいかな?)
「ちなみに、去年はたぶん王族だろう少年と少女だった。これは私の勝手な予想だけど、お子様たちの練習台になってるんじゃないだろうか?」
「それは良い情報です。なら、もう少し増やしましょう」
大人相手と、子供(まだ子供かは知らない)相手では、受けの良いだろう料理は違う。
例えばそう、どちらかというとデザート系で攻める。
ここは領主のお家。となれば普段あまり使えない物も使えるし、試すこともできる。
そう……砂糖とか!
さすがに純白なものは無かったけど、使う分には問題ないようだ。
「この味だと量は……」
異世界の動物な卵、そして砂糖。
その他もろもろを使って、デザート試作である。
焼く、煮る、炒める、なんてのはやってるみたい。
蒸す……も雪国だからか、ないわけじゃないのが助かった。
今回は、蒸すというより焼く、かな?
火の入った窯に入れてっと……仕上げに取り出したところでお客さんだ。
「見た目はなんとも……つるつるとしていそうだが」
「いきなりでいいんですか? その、毒見とか」
試作品が出来上がったころ、突然ユリウス様がやってきた。
気になってとのことだけど、タイミングがいいのか悪いのか。
少し冷やして、ナイフで器に沿うようにして切り込み。
お皿にひっくり返せば、そう……焼きプリンである。
「害する理由は、無いだろう? 失敗してるというのなら別だが……」
「ごもっともです。ではせめて、私が先に食べますね」
ユリウス様が手にしようとした器を、半ば奪い取るようにして一口ぱくり。
うん、ちょっと雑味があるような気がするけど、どっちかというとコクがある感じ。
均一な工場生産じゃ出てこない、味わいだ。
「予想よりうまく行きました」
「ほほう? ……おお、なんだこの舌触りは……これならあの方も……」
満足そうに頷いているユリウス様。
どうやら、視察だったかに来るらしい人は、気にするぐらいには気難しいようだ。
「調理法なんかは書き残しますので」
「それに関しては、別途代金を支払おう。知識は、財産だ。それと……出来れば、本番の時には来てもらえるだろうか?」
「え? 領主様に呼ばれるのであれば、喜んで」
お屋敷に勤めるとか、中央に招かれるとかは回避したい。
でも、色々と知るためには知り合いは多い方がいい。
デザートを遠慮なく作れそうだから、というのもないわけじゃ……ないよ?
お土産に砂糖を壺1つ貰い、戻ることになった。
道すがら聞いた話によると、ユリウス様も甘いものは好きなんだって。
きっとこれから、試作品の試食と称して……うーん?
食生活を改善、したほうがいいのかな?
「ユキ、私にもプリンとやらを作ってちょうだい」
数日後、プレケースにルーナがやってきたのは、当然と言えば当然だろうか?
きっと、ユリウス様は自分の取り分が減るのを嫌がったんだろう。
だからって、材料持参でなくても……うん。
女の子の甘味への行動力を、すっかり忘れていた私が悪いのだった。
その日、プレケースには甘い香りが漂っていたのは言うまでもない。




