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魔法の道具、治します!~小物好きOL、異世界でもふもふライフを過ごす~  作者: ユーリアル


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MIN-021「無鉄砲な時もある」



「もうすぐ……あの谷を越えたら……」


 吐く息は白く、足元は冷たい。

 それでも、だいぶマシだろうことは私にもわかる。


 真冬の雪山、そこに踏み込んでいるのだから。


「ベリーナさん、頑張って」


 つぶやくけど、私一人。

 アルトさんはベリーナさんについているし、何より……内緒で出て来た。


 出産予定日が近づいてきた時の事。

 ベリーナさんは、私からすると原因不明の病に倒れた。


 アルトさんや産婆さん曰く、妊婦独特の風土病みたいなものらしい。

 特効薬みたいなのもは、なくはないけどなくても何とかなる。

 そう言われた……けど。


「あの変な靄は、よくない」


 寝込むベリーナさんに、私だけはそれを見た。

 気分転換と称してでかけた私は、ルーナにそれを相談し……準備をしたのだ。


 とある山の泉に咲く、特別な花を使ったポーションが、色んな病に効くと。

 話をしてくれたルーナも、私がしようとしていることには気が付いてると思う。

 それでも止めることはしなかった。


「もう……少しっ」


 お店の在庫から、色んなものを選び、私は店を飛び出したのだ。

 向かう先は、ルーナに聞いた山。


 そして今、かなりのところまで来ている。


「ローズがいなかったら、凍えてるかな」


 余り温かくしすぎると、雪が溶けて雪崩みたいになりそう。

 そう考えた私は、最低限の暖房だけを機能させて進んでいる。


「うん、みんなもありがとう」


 他にも持ち出した魔法の道具たち。

 あまり売れてないけど、雪山には良いなと思って選んできた。

 戻ったら、怒られるかもだけど……うん。


 ちなみに、足裏に魔力っぽい楔を産み出す物とか、そんな感じ。


 結果として、私は精霊の獣たちに囲まれている状態。

 安全なところで、こうしたかったなあという気分で一杯だ。


「よしっと……あった」


 真冬でも、なぜか凍らない泉。

 そのほとりに生えるという花が、見えた。


「これを持ち帰れば!」


 しっかりと布袋に土ごと入れて、封をする。

 そうとなればすぐに戻らないと。


 来た時とは逆に、出来るだけ急いで駆け上がる。

 そうして、半分ぐらいまで来たところで……声が聞こえた。


「!? 鳴き声……」


 どちらかというと、遠吠えかもしれない。

 周りは森……雪と木ばかりで、何も見えない。


「気配を探る……無理。走ろう」


 相手が何であれ、掴まるわけにはいかない。

 気合を入れて、走り出した。


 振り返ることはしないけど、何か後ろにいる気がする。


「誰か雇えばっ、よかったかなっ」


 勇み足、そんな言葉が浮かぶけどまさに後の祭り。

 後ろに相手の吐息が聞こえた時点で、ちらっと振り返りながら横っ飛び。


 さっきまで私がいた場所に顔を突っ込んだのは、狼っぽい相手だ。


「やあ、久しぶり」


 軽口が漏れるけど、相手は唸り声をあげるのみ。

 じりりと、向き合いながら構えを取る私。


 手には、赤熱のナイフ。


「四の五の言ってられないか……赤き力よ、集え!」


 白と黒だけの世界に、赤が産まれる。

 奇襲となったらしい火球が狼に当たり、熱風が吹き荒れた。


「わぷっ。いまのうちにっ」


 当たった相手がどうなったかは確認しない。

 その間に、少しでも逃げるのだ。


 方角だけは間違えないようにと、必死に駆ける。

 そうして、何度目かの雪の丘を越えると、町の姿が見えて来た。


「やった! って、何か来てる……」


 後ろに、複数の音。

 恐る恐る振り返ると、何匹もの狼がいた。

 どうやら、仲間をやられてご立腹の様子。


「もうちょっと、なんだけどな……」


 どれだけ魔法で撃退できるか。

 地球ではしたことのない覚悟を決めて、向かい合う。

 すると、どこからか何かが飛んできたのを感じた。


「何!? 矢?」


 雪原に深々と刺さったのは、矢だった。

 となると……。


「ふむ……当たり、か」


「ユリウス様!?」


 木々の影から出て来た兵士達、その中の1人には思い切り見覚えがあった。

 というか、領主であるユリウス様だ。


「妹から、雪中演習でもしてきたらどうかと言われてね。こういうことか……」


「あっ! ありがとうございます」


 ユリウス様の視線は、私がしっかり握っている布袋に注がれている。

 慌てて駆け寄り、中身を見せながら説明した。

 結果、呆れたような、安心したような表情をされた。


「そのために危険に足を踏み入れては意味があるまい。家族ではないだろうが、失われて何も思わないような夫婦ではないのは、知っているだろう?」


「は、はい。しっかり怒られてきます」


 その答えが正解だったようで、それ以上は何も言われずに私は町に戻れたのだった。


 すぐさま、プレケースへと戻った私は、ベリーナさんたちの元へ行き、怒られた。

 心配をかけ過ぎたというか、心労が逆に良くないことになったかもしれないということを知ったのだ。


 それでも……。


「私が見る限り、変な靄は消えました」


「そうか。何だったのかはわからないが、次は声をかけてからにしてくれ」


「本当よ。心配で先に産んじゃいそうだったわ」


 2人にそう言われ、頭を下げるしかない私。

 途端、ベリーナさんの表情が変わる。

 始まったのだ、陣痛が。


「産婆さんを呼んでくる。ユキ、頼んだぞ」


「わかりました!」


 それからは、お湯を沸かしたり、ベリーナさんに声をかけたり。

 日が暮れる頃には、何人もの人がお店に駆け付けたらしい。


 そして、無事にベリーナさんは男の子を出産した。




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