MIN-124「ここにいる私」
次回更新分で一度区切り完結とさせていただきます。
中央への納税ならぬ納品。
その目録と、中身の準備は順調に進んでいた。
真夏の暑い時期が、過ぎていく。
「ミネウスの干物、そんなに役立つんですか?」
「私はそうでもないけれど、酒飲みには良いそうだよ」
巨大魚とのバトルの後、私のやり方は他の人でもやれることがわかった。
魔力のこもった仕掛けは普通の魔法使いでも、効果が発揮できたのだ。
免許制とし、釣る数を制限しようと告げた私に、ユリウス様は同意してくれた。
そんなことがあって、目録に追加、と。
「乾燥させると、ひどい顔ね」
「あははは……」
確かに、干物にしたミネウスはまるで宇宙怪物のようだ。
旨みが圧縮されてるから、使い道は意外とありそうだけどね。
「地方領主としては、破格の内容でしょう……お兄様、逆に大丈夫なの?」
「心配いらないさ、妹よ。これでも肝心な物は除外してるんだ。トレントとかね」
自分も気にしていたことを、ルーナが指摘してくれた。
けど、帰ってきたのはそんな答え。
(確かに、もっと高いのは入っていない!)
「ユキも覚えておくといいよ。妹が心配したように、こういうのはおかわりが来る。その時の余力がないと、逆に統治を疑われるのさ」
「大人ってやーよねー。あの手この手で」
横で聞いていたプラナ様も飽き飽きといった様子だ。
それでいいのかなあ?と思いつつ、積み込まれていく荷物を見守る。
「問題なければ明日、私が中央に行くときに一緒に運ぶわ」
はっきりと、プラナ様が断言する。
言外に、誰もついてこなくていいと言っているようだった。
そのことがわかっているのか、ユリウス様もルーナも頭だけを下げる。
私は……軽く頷きながらも、もやもやした気持ちを抱えていた。
旅立ちを祝福するのだと、夜はやや豪勢な食事となった。
「ふう……」
夜。湯あみを終えて、贅沢に魔法の道具で体を冷やした私。
後は寝るだけ……だというのに、妙に目が冴えていた。
(最近、星を見ることが増えた気がする)
記憶がはっきりしてるここ1週間だけでも、ほぼ毎日だ。
じっと、空を見上げて時間を過ごし……ようやく寝るのだ。
「見回りの人かな……」
廊下から見える敷地の境界には、松明だろう灯りが揺れる。
防犯装置なんてない世界、人の手による見回りが一番の防犯だ。
まあ、私の場合は魔法の道具で何かできるのかもしれないけど。
「魔法の道具、か」
なんとなく、悩みながら空を見上げる理由はわかっている。
少し前に、師匠と呼べる魔法使いの老人と出会った。
彼に教えられたのは、自分の事。
この世界に転移して来たのではなく、現身、コピーされた存在の可能性を教えられた。
(ニセモノでも、本物でもない……)
大丈夫と、その時は口にした。
そして、大丈夫だと自分でも思った。
この世界で、私という存在で生きていくのだと。
けれど、私は私でいられるのだろうか?
精霊と会話するように触れ合う私。
魔法の道具を、生み出すことだってできる。
「いつか、消えちゃうのかな……」
「それは困る」
突然の声に、悲鳴をあげなかっただけ褒めてほしい。
思わず飛び上がってしまったのは、仕方ないと思う。
「ユ、ユリウス様!?」
小声で驚きながら、声をかけてきた相手の正体を口にする。
彼も寝間着で、昼間よりもややゆったりとした印象だ。
「見えないけども、守りの指輪が何か訴えてる気がしてね」
ユリウス様の先祖か祖父母かが家に残したらしい、守りの指輪。
修復した時には、なんだか人形みたいなのが宿っていたはず。
その精霊は今、私の前に来て何やら叱っているような、怒っているような。
「何が言いたいのかな? イタッ! え、一人で抱えるな? 一族となったからには、気合を入れろ?」
「はははは! 本当にそう言ってるなら、らしい話だよ。祖父母、特に祖父方の親族は、勝気な人が多い。理不尽など、ねじ伏せろ、そういう人たちばかりさ」
「聞いてらしたんですか?」
じっと見つめられ、恥ずかしくなってきた。
視線を外して、空を見る。
星は、綺麗に瞬いている……知っている星座は1つもないけれど。
「偶然、ね。私は私、ユキはユキ、これはどうしようもない話だ。しかし、ここがキミの帰る家の1つ、居場所になれたらいいなとは考えている」
「どう……して?」
どうして、そんなことを言えるのだろう。
長い付き合いというわけでもないし、私が特別美人という訳でもない。
なのに、どうして、そんな風にとろける様な視線と声で手を差し伸べてくれるのか。
「ユキだって、プレケースの2人、いや3人か……と、もう家族のようなものじゃないか」
「あっ……」
言われて、ストンと腑に落ちた。
誰かと、心を通わせるのに長いも短いも、無い。
「答えを、そのうちに聞きたいな」
「お……」
「お?」
「おやすみなさいっ!!」
頭のてっぺんまで恥ずかしさが満ちた私は、ユリウス様をそれ以上見れず、逃げ出した。
答えを出すには、あまりにも急すぎた。
追ってくる気配はなく、そのままベッドにダイブ。
毛布をかぶり、なんだか呻きながら暗闇の中、目を閉じてしまうのだった。




