MIN-121「釘刺しという名のお話」
ダンジョンと自然とが共存する街、セレスティア。
山や森が近くにあり、海に通じる湖を抱える雰囲気の良い場所だ。
今年は税収が増えたらしく、お祭りとして領民に還元するのだとか。
その1つとして、屋台の売り上げは無課税、だそうだ。
珍しい魚を使ってうどんもどきの屋台を出していた私。
そんなところに、地方をめぐっているプラナ様がやってきたのだった。
「ユキはあまり儲けるつもりがないのね?」
「まあ、そんなに困ってなかったですから」
思わず、丁寧に返事をすると微笑むような、寂しそうな表情のプラナ様。
楽しいのがお好きな人だ……つまりは。
「みんなが喜んでくれれば、それでいいかなって。お祭りですし」
「ええ、そうね。笑顔が一番」
にこりと笑顔が戻る。
やっぱり、少し砕けた口調の方がいいようだ。
騒がしいお祭りの夜、そのままプラナ様に誘われて領主の館に。
道中の馬車の中で、少しの間だけど雑談というシーン。
ふと見ると、プラナ様の格好は前に見たときより、綺麗だ。
もっと言うと、そのまま夜会みたいなのに出られるような?
「ふふ。気になる? 答えは2人に会ってからね」
「は、はぁ……」
疑問で一杯だけど、もう着いてしまう。
館に着いたと思うと、先に連絡がいっていたのかユリウス様とルーナも出てきている。
「はーい、2人とも元気だった?」
「お元気そうで何よりです」
「予想通り、ユキも一緒ね……」
どうやら、先に私のところに顔を出すのは予想通りだったらしい。
前もそうだったけど、ユリウス様はどちらというと丁寧な年上への対応。
ルーナは逆に、仲の良い従姉のお姉さん相手という感じだろうか。
「誘われたから、来ちゃった」
本当は、相応に丁寧に接しなければいけない相手だとは思う。
けれど、本人がそれをあまり望んでおらず、寂しそうな顔をするのだ。
「来ちゃったって……まあ、いいわ。中に行きましょ」
そのままルーナの先導で、応接間へと向かう。
夜になって、灯りが油と魔法の道具だからか、どこか不思議な雰囲気だ。
「この灯り……贅沢ね。でも根元にあるのは力の交換用かしら」
「そのままでも、数か月は大丈夫だと思うんですけどね」
通りすがりながらも、鋭く考察するプラナ様。
やっぱり、実家とかで良い道具を見てるからだろうか?
魔法の道具である灯りは、前よりも改良を重ねている。
調整がいらない場所は、オンオフだけだけど、その効率はかなりあげられた。
点けっぱなしでも、一月は持つと思う。
「なるほどね。ユキだけのせいではないけれど、最近中央で少し噂が出てるの」
「噂? あまりよくはなさそうですね」
部屋に入り、片方にユリウス様とルーナ、なぜか反対側に私とプラナ様だ。
こういう時、プラナ様が上座みたいな場所に座るんじゃ……寂しいんですね、わかります。
「そこまでではないわね。ここだけではないけど、最近魔法の道具の産出が増えたの。その中でも、この街はその量が確実に多め、というところかしら」
「使いやすかったり、わかりやすい道具は良いお金になるから……高いところで売ってるってことですか?」
ふと思いついたことを口にすると、頷かれた。
確かに、プレケースでは在庫が多くなってきたものは買取は安くなる。
ダンジョンそばの街では、在庫は偏るのだ。
(使い捨てだけど、確かな価値……ってことだよね)
日本的にいうと、戦闘用のプリペイドカードみたいな? 少し違うかな。
でも、そのぐらいあれば便利で、つい使っちゃうぐらいの存在だ。
「道具の販売はそのぐらいかしら……後は、ユキ……貴女ね。以前よりは、明確に話になってるわ。とはいえ、ブリタンデの一員になったことも伝わると思うからしばらくは大丈夫ね」
「しばらくとは? ああ、いや……そういうことですか」
「まったく、女は血の道具じゃないのよ?」
よくわからないけど、ユリウス様たちは答えにたどり着いた様子。
私もじっくり考えてみると……1つ、仮定だけどあまり気分が良くない話にたどり着く。
「血筋を残す……お見合いとかですか」
「貴族は、それが頭だろうが末端だろうが、家を残すのが使命みたいなところがあるのよね。私だって……まあ、それは置いておいて。ユキの力が、血に宿っている可能性があるという話ね」
つまりは、子供を作り、その子供に同じような力が目覚めることを期待されている。
理屈はわかったけど、ちょっとね。
「未婚のままでいるのは、男はともかく女は周囲がうるさいからね」
「ユキには、自分で選んでほしいと思うわ……お姉様」
「ふふ、そうね」
こちらの世界でも、晩婚はあまり良しとされていないようだ。
どうしたものか、と考え込んでしまう私。
「1つ、方法はあるのよね」
「お聞きしても?」
ユリウス様の問いかけに、なぜかプラナ様はじっと彼を見つめる。
「簡単よ。貴方が取り込む予定だ、と匂わせればいい」
静かな部屋に、プラナ様の声が妙に響いた気がした。




