MIN-118「お祭り準備」
「それで、屋台のこととお見合いの可能性で、そんなにぐるぐるしてしまってるの?」
「はい、お恥ずかしながら……」
プレケースでの店番中、ぼんやりしているのをベリーナさんに指摘された。
幸いにも、そこまで忙しくないから問題は起きなかったのだけど、反省だ。
ちなみにそろばんを覚えたアンナは、立派な店員さんとして接客中。
子供に仕事をさせるなんて!と地球なら言われそうだけど、ここは別世界。
「お姉さんはじっくり考えててください! アンナ、頑張ります」
「ありがたいけど、そうもいかないからね」
接客の合間に、そんな声をかけてくれるアンナ。
その成長ぶりに内心感動しつつも、大人としてはちょっと反省。
改めて店内を見渡し、腕組み思案だ。
(手編みの籠や木皿、縄や毛糸のあれこれ、後は家具類が主なんだよね)
プレケースは、雑貨屋だ。
町の人たちが作った物や、不要な物を修理して並べている。
その中に、冒険向けの小道具だったり、保存食だったりが混ざってくる。
今は、魔法の道具もしっかりとラインナップに入っているのだ。
「やっぱり、みんななんだかんだと器用ですよね」
「まあ、そうね。冬の間は何か手慰みにやっているし、アンナぐらいの年でも手伝いの1つはするわ」
「薪拾いとか―、草刈りだってしますよ」
偉い、偉すぎる。なんていい子なんだろうか?
ここの給料でお母さんに、髪飾りを買っていったことだってあるアンナ。
私が彼女ぐらいの時なんて、友達と遊んでるか、部屋に引きこもってるかだ。
「すごいなー。そうなると、やっぱり物を何か作るのは難しいなー」
「お菓子か、料理あたりがいいんじゃないのかしら?」
あうあう言い出したウィルくんに、お乳をあげ始めたベリーナさん。
彼女の言うように、自分にできて他と違う物、となると料理方面だろうか。
(普通にお菓子を作ると、砂糖が高いし……うーん)
ふと、売り物である釣り竿が目に入る。
どこかの釣りが趣味の人が作ったらしい竿だ。
(お魚……焼くか煮るか、出汁取りとかいいかもね)
屋台としては、魚介ベースのうどんもどきにしようか。
パスタは作れるから、太さを変えて……うんうん。
「魚を使うの? この時期、深いところにいいのがいるのよ。なかなか釣れないけど」
「そうなんですね。深いところかぁ……あ」
夜釣りや暗いところでの釣りには、コツがいると聞いたことはある。
匂い、動き、そして……光。
精霊が宿る前、魔法の道具とは言い難いぐらいのものが、使えそうだ。
小さいビーズみたいなのに力を込めて、糸に通せば水中でも光るだろう。
蛍ぐらい淡い光だけど、多分十分。
「やることが決まった顔ね。お祭りのときは、店は閉める予定だから手伝うわよ」
「アンナもよかったら参加したいです!」
「じゃあまずはアンナのお母さんに、ご挨拶かな」
面白くなってきたぞというところでお客さん。
年季を感じさせる武具に、治りきっていない傷。
ダンジョン帰りか……な?
「いらっしゃいませー」
「ああ。ここで買取もしてると聞いたんだが」
店内をぐるりと見て、私に視線が戻ってきた。
おじさん手前の、青年。
仲間だろう人たちが3名ほど、かな。
(そこそこのところに潜ってたんだろうか?)
少なくとも、駆け出しには見えない姿だ。
物によりますけど、見るだけは見ますよと言うと、頷かれる。
「これなのだが……」
「杖……金属杖?」
カウンターに置かれたのは、眠っている様子の金属杖。
先端に石が使われてるのは結構あるけど、全部金属は珍しい。
大体が、近接戦闘も意識したもので、魔法使いの杖としてはマイナーだ。
「ああ、魔力の通りが悪すぎると言ってな。いくらかになればと思ってるんだが」
なるほど、不良品扱いらしい。
確かに、武器としてだったら他の物を持つよね。
魔法使いの近接用になら、どちらかというと魔法で木を強化して使うのが一般的だ。
そっとタオル越しに掴むと、そこそこ重い。
(んん? でも金属にしては……軽い)
見た目からすると、もっと重くてもよさそうだ。
この点も、武器として使うには微妙な重さなんだろう。
壊れそうで、怖いということもある。
魔法の道具の可能性は十分に……おおっと。
理由が1つ判明した。ヒビが入っている。
このせいで底が抜けるように、魔力を通してもほとんど抜け落ちてる様子。
「精霊はいますね。だいぶ元気がないようですが。ちょっと今だとどういうものかは」
「そうか。俺たちは武器戦闘が中心で、魔法は補助だ。買い取ってもらえるか」
戦闘スタイル的に、気軽に確かな魔法の道具の方がいいらしい。
それはそれで正しいと思うので、買取金額を提示。
驚かれたけど、こういうのは投資みたいなものだ。
(どう使い道が出るか、わからないしね)
案外、予想外の便利な結果になることもある。
と言っても、どうにも使いこなせずに眠ってる道具も結構あるのだけど。
「道楽か? いや、人それぞれか」
「あははは、たまに言われます。大丈夫ですよ、他で取り戻しますから」
帰っていく人たちを見送りつつ、修理に取り掛かる。
ガラクタとして放置されている武具の中から、よさそうな金属片を手に。
アンナの視線を感じつつ、魔法の道具を治していく。
「キミは……随分大きなリスだねえ……」
出て来た精霊は見るからに頬袋の大きな、リスだった。
何でも入りそうな頬袋がなんだか面白い。
「魔力の通りが悪くて、この精霊……んん?」
試しに魔力を流し続けると、いくらでも入りそう。
でも、魔法の道具として、何か魔法が起動する様子はない。
「ユキ、なんだか杖が少し光ってないかしら」
「え? あ、本当だ。ということは……」
その後も色々試した結果、蓄光ならぬ、蓄魔の力が判明。
そのうえで、溜めたのを手にした人に戻すこともできるみたい。
「作れたら面白いなあ……」
後々、騒動になりそうな気もしつつ、今はそう考えるぐらいしかなかった。




