MIN-112「一緒にお出かけ」
「星空は……やっぱり、向こうと違うなあ」
夏の夜、領主の館で与えられている部屋で外を見る。
虫よけのお香がたかれる中、暗がりに沈んでいると、昔を思い出してしまう。
お爺ちゃんたちの家に遊びにいっていた夏休み。
虫と、田んぼのカエルと……星や月。
(1日は大体24時間みたいな感じだから、ここは星なのかな? それとも……)
ふと、そんなことを考えてしまう。
さすがに精霊も宇宙には出られないから、確認しようがない。
離れるほど、制御が難しいし、魔力も薄くなるからだ。
「……あれ? 何か、動いてる」
満点の星空。今日は月が細く、星の光が良く見える。
その中に、よく見ると動いてるのがある。
人工衛星? そんなはずがない。
「あれだけ光ってたら、昔の人もわかるよね。空を見る人は、結構いるはずだし……」
言いながら、別の可能性も考える。
もし、一定以上力がないと見えないような存在だったら?
私の心配を感じたのか、部屋に置いてある魔法の道具たちが光り出した。
呼んでもいないのに、ローズたちがみんなだ。
あっという間に周囲をもふもふ(してない子もいるけど)に囲まれる私。
「また聞いてみよ……」
なんとなく、みんなと一緒だと安心する。
ついでに部屋を冷やしてもらい、寝苦しいはずの夜を快適に過ごすのだった。
そして翌朝、朝から館は少し騒がしかった。
そこに顔を出した私が見たものは、出かける支度をするユリウス様だった。
そのままこちらへと歩いてきた。
「今日は会議ではなかったですか?」
「ああ、ユキ。少し知らせが届いてね。新しく入った山に、鉱脈がありそうという話なんだ」
食事は着替えてからというつもりだったのだろうか。
勇ましい格好のまま椅子に座り、食事を始めるユリウス様。
鉱脈……鉱山、か。
(確かセレスティア周辺にはほとんどなかったんだっけ)
出会った時のルーナが言っていたように、程よく田舎である。
海につながる湖があり、平地も森も、そして山もある。
他の場所でも常に開拓は進めているらしく、その中の一か所ということかな。
「ユキは私とお留守番予定よ。一応、ね」
「一応?」
背後からのルーナの声に、疑問を口にしながら振り返る。
こっちは、いつもの格好で出かける姿じゃない。
さっきのセリフだと、まるで私が選べるみたいだ。
「もう貴女はウチ、ブリタンデの一員なのよ。それこそ、自分で政策を陳情して、動いてもいい立場なの」
「すぐそうやって無茶振りしようとするー。私、一般人だったんだよ?」
なんとなく言ったけど、メイドさんや兵士さんから、微妙に視線が集まる。
一般人? 冗談でしょ?みたいな空気。失礼である。
ま、まあ……精霊や魔法の道具周りは、普通じゃないけど、けど!
「コホン。鉱脈、鉱山ってことは、魔石、魔晶石の類も出そうなんですか?」
「そのあたりも、掘ってみないとわからないね。ついてくるかい? 数日の距離だ」
前の私なら悩んでいたはず……不思議と、躊躇なく頷いた。
プレケースに戻りが遅くなることを伝えてもらうようにお願いして、準備だ。
着替えとかを詰め込み、魔法の道具も思うままにまとめる。
一部は私付きらしいメイドさん(小動物みたいで可愛い!)に一緒に運んでもらう。
「お待たせしました」
「忘れ物よ、ユキ」
そういって渡されたのは、お化粧道具。
どうせ汗をかいたり、汚れるからどうかとも思うのだが……。
一応、最小限のものは持っている。
(でもなんだか本格的におめかし用だなあ?)
「いいから、持って行きなさい」
「? うん、ありがとう」
よくわからないけど、ルーナがそういうなら持って行こう。
そのまま馬車に荷物は積みこまれ、昼過ぎには出発だ。
兵士さんの数はそこそこ。みんな馬に乗っている。
さすがに、往復徒歩は、厳しいもんね。
「今さらですけど、わざわざユリウス様が行く理由って?」
「まだ未開拓の土地は多くてね。領主が宣言して、初めて領地と認められることが多いのさ。もちろん、代理より本人の方が説得力が増す。鉱山となれば、利権も問題が……ね」
思ったより生々しい話だった。
確かに怪物も出てくる世界じゃ、簡単にはいかないんだろう。
きっと、兵士さんもいくらかは防衛のために残ることになるんだろうな。
(なんだか、ゲームの防衛線みたいだ)
塀の上から弓矢を使う映画のようなシーンが浮かぶ。
この世界だと、魔法もあるし……怪物がその分、怖いけど。
「なるほど……んー、なんだか私たちだけこの中で申し訳ない気分です」
「ははは。役目は役目、それでもいい目は見れるよ。この時期、冷えた水を飲めることなんてなかなかないからね」
視線が集まるのは、馬車の中を冷やしている道具たち。
試作した物を、持ち込んでいるのだ。ついでに氷は水樽に入れている。
「この氷を溶かした水、魔法使いには有益らしい気配がある。また研究を頼むよ」
「わかりました! 役に立てるように頑張りますね」
正面からお願いされ、嫌とは言えない。
気になってることではあるし、ちょうどいい。
話が途切れ、外を見る私。
何かの虫の殻らしい窓枠から見える光景は、平和だ。
時折の気配も、すぐに逃げていく。
(世界は、広いなあ……)
そんなことを考えながら、旅は続く。




