MIN-110「一人の選択、家族の人生」
馴染みの女冒険者、ビエラ。
いつも勝気で、どちからというと突進してから考える、みたいな。
そんな彼女が、助けてくれと来たのが……。
「その人とは、冒険や探索はしたことあるの?」
「ないわけじゃないな。まだ数回だ」
まずは状況の整理と作戦会議だ。
ビエラが親に言われて、冒険者の人と結婚をという話。
ビエラの方の親としては、冒険者を辞めて家に入ってほしい、と。
「そっかぁ。でも、相手は冒険しててもいいけど、ビエラはするなってのもちょっと勝手だよね」
「ああ、そうなんだ。命がけなのはお互い様だろう? 何かあったら、速攻未亡人だぜ」
もっともなことを言う彼女は、随分と薄着だ。
目の毒、とまでは言わないでも、男の視線を集めやすいのは間違いない。
日焼けもしっかりしちゃいそうだねえ、うん。
「冒険者はまだ続けたい、別に結婚自体は嫌じゃないってことでいい?」
「あー、そうだな。誰かと一緒ってのは別に嫌ってわけじゃない。ただ、自分にそんな魅力があるかなあ?と」
「元気なのは、魅力の一つよ。ユキはユキ、ビエラはビエラだと思うもの」
既婚者であるベリーナさんの言葉は説得力がある。
そういえば、お相手はどのぐらいの実力なのだろうか?
「自分は待つ女じゃない、一緒に未来を切り開く!ってところかなあ?」
「だな! そりゃあさ、子供が出来たら考えるけど……それまでは」
恥ずかしそうに揺れるビエラ。
年下のはずの彼女が、そうしている姿はなんだか置いて行かれた気分だったりする。
「そのあたりは今後次第だよね。一度会ってみないとなんともねえ」
「よし、じゃあついてきてくれ!」
「え、ちょっと!?」
早速とばかりに、連れ出されてしまう私。
外に出ると、むわっと熱気。
日本の夏程じゃないけど、暑い物は暑いのだ。
結局、作戦会議らしいことはほとんどできなかった。
他人のことに、勢いでっていうのは難しいんだけど……しょうがないか。
「うーん、いつも冒険者としてお世話になってる友人として……これでいこう」
「なーにいってるんだよ。ほら、あそこが家だ」
しばらくして、普段私が出歩かない区画へ。
その中の、ごく普通のお宅にお邪魔します、だ。
「ただいまー」
「ビエラ、来てるわよ」
家族に声をかけたビエラだが、帰ってきた答えに硬直する。
そばで聞いていた私も、驚きだ。
そんな中、家の奥から出てきたのは、一人の男性。
「ななな、なんでもういるんだよ!? 明後日の約束だろう!?」
「たまたま、誘われてしまって……それに、ご挨拶は早めにと思ってね」
慌てるビエラに対し、落ち着いた様子の青年。
私に気が付いて、会釈するあたり、こういってはなんだけど……真面目だ。
薄着な分、見える体はしっかりしている。
兵士さんたちとそん色ないね。
鞘には留め具がしてあるけど、装備を持ち歩いてるのも個人的にはグッドだ。
(オフだからって全部の装備を手放してるのは、まだ未熟とかアルトさん言ってたもんね)
「はじめまして。ビエラにはいつも依頼でお世話になっています。女性で冒険者の方はなかなか貴重なので」
「これは丁寧に。そうですか、娘も人様の役に……」
優しそうなご両親だ。
そのまま勧められるままに、お茶を頂くことに。
ビエラは居心地が悪そうだ。
「率直に言いますと、相談を受けまして。ビエラは、まだ冒険を続けたいと。もちろん、危険なのは私も十分知っていますけれど、出来れば友人としても、同性としても頼りにしたいなと考えています」
「お願いだっ! お金を稼ぎたいっていうんじゃなく、この道をまだ逸れたくないんだっ!」
予想外の展開に、もう少し準備をしたかったなあという思いが強い。
ひとまず、隠さずに話して見たけど……おや?
「親としては、子供に危険な目にあってほしくない、そう思うのはわかってくれるね?」
「それは……ああ。でも、帰ってこないかもしれないのを待ち続けるのは嫌だ」
ビエラは顔をあげていないからわからなそうだけど、うん。
ご両親の表情は、とても優しい。
お見合い相手の青年も、だ。
(これは……なるほど)
「ビエラさん、それは……私との結婚には異論はないってことかな?」
「へっ!? あ、そ、そうなるのか?」
「そうなるのかじゃないよ……もう。差し出がましいようですけど、その方向でまずは依頼を何度かご一緒されてはどうでしょう?」
岡目八目とはよく言った物で……少し違うかな?
人の事ばかりは、良く見えるんだなあと思う。
私の提案に、ご両親も青年も頷いた。
そして、気が付いていないのはビエラ1人。
「ちゃんと帰ってくるのよ」
「お、おう。ちゃんと考えるよ!」
それからは話が早く、急遽お見合い代わりの食事会に。
私はさすがに辞退して、プレケースへと戻ることにした。
「またな、ユキ!」
「うん。またね」
見送りに来てくれたビエラに手を振りつつ、街を歩く。
さすがに真昼間だと、人通りは少し少ないように思う。
それでも、前よりも賑わう街中は騒がしい。
「冷えたエールとか、売れたら儲かるかな……」
賑わう酒場の前を通りすぎつつ、そんなことを考える私だった。




