MIN-106「新しい景色、ブリタンデの名」
「確かに親戚になるのを歓迎したけどっ! これは、ないんじゃないの!?」
「フフフ。逃がさないわよー、ユキっ!」
女3人集まれば、というけれど2人でも十分だった。
部屋に私とルーナの声がこだまする。
私は今、大量の報告書と戦っている。
「そりゃ、見ても大丈夫な書類が増えるのはわかるけどさあ」
「ユキ様の能力が高いのがいけないのですよ。ああ、こちらも確認お願いします」
文句を言おうにも、追加を持ってくる文官さんも同じように忙殺されてるのは知っている。
ここ最近、私も無関係ではないことで、そういうのが増えているそうなのだ。
例えば、トレント討伐による素材の売買や納品、その許可であるとか。
つい先日、精霊なサンショウウオを大地に還したこともある。
今も、あの場所は力に溢れたいい冒険ポイントになっているそうだ。
素材もいいけど、怪物もちょいちょい集まってるのだとか。
「ユリウス様は、町長や来客と歓談中、と。うーん、忙しそうだね?」
「そうね。ようやく、避難民の帰還回りが動き始めたのよ。向こうでも復興が始まったらしくて、迎えの使者が来たの」
火山が噴火することを、予期したように避難して来た人たち。
聞いたところによると、昔から伝承として伝わっていたからだとか。
一部の人は、こっちに移住することになり、帰る人もいる。
「火山の近くかぁ。あっちならではの作物とかありそうだよね」
「ああ、確かに。向こうには、こういう大きさのイモが多いですよ。野菜も、独特です」
「運ぶ……のは難しいだろうから、こっちでも試せるといいわね」
向こうの事を知っていたらしい文官さんとも話しつつ、書類作業を進める。
と言っても、多くは数字を見てそろばんをはじくだけだ。
税収になるのだから、しっかりとやらないとね。
「結構、冒険者からの税金の類は大きいね……」
「このあたりは、ダンジョンがちょうどいいから、かしらね。余所だと、こうはいかないのよ」
確か、誰かが言ってたな。
駆け出しからベテランまで潜る場所があるって。
それでも、戻ってこない人は確実にいる。
書類の1つ、お葬式の件数を見てそんなことを思うのだ。
「ダンジョン……ダンジョン……うーん」
プレケースで接客もしている私。
確かに、お店としては色々売っていて、道具のレンタルもしてる、してるけど。
結局は、一店舗のお話だ。
(魔法の道具を、存在だけは知ってるけどって人もいたなあ)
この世界では、冒険者・探索者は職業の1つ。
でも、どちらかというと目指す物ではないらしい。
そりゃ、命の危険があるし、報酬となるものも確定してない。
特別な資格のいらない、セーフティー的な職業、それが冒険者たち。
「街やこっち側で、訓練施設とか作れたらいいね。有料でさ、地上の土地や駆け出し用のダンジョンとか使ったりして、経験を積んでもらうの」
「まあ、碌に武器も使えず、つっこんでいく人がいるのも確かね……」
言葉は渋いけど、ルーナも気にする話題のようだ。
となると、考える価値はあるのかな?
アルトさんや、そのお知り合いみたいにダンジョンを回るのもその1つだと思う。
ボランティア任せみたいな状況を、税金として徴収して権力側が行う。
最初は赤字かもしれないけど、結果として領内の冒険者が安定したら、どうだろう。
「細かい話は皆で詰めましょう。ユキは思いつくままに、書き出してちょうだい」
「今回、土地に戻る者の護衛も、こちらから依頼という形で出してはどうでしょう」
横合いからの提案に、私もルーナもその手が!と反応した。
まるで姉妹だなと思いつつ、自分が避難民だったらどうかと考える。
自分達だけで戻るのは、確かに怖い。
「それもそうね。個別に任せていたのでは、護衛も雇えない人もいるでしょうし、ばらつきが出そうだわ」
方向性のようなものが決まり、みんなが動き出す。
私もその一人で、ユリウス様に提案する話をまとめていくのだ。
なんだか、OLに戻ったような気がして少し、戸惑う。
触る紙や、机なんかが明らかに違うから、劇でもしてるみたいだけどね。
数時間後、どうにか形になった書類を手に、部屋を出る。
「そうそう、ユキにもお給料、出るから」
「そうなの? こういうの、権力側の義務だからないのかと思ってた」
言うほど自分に権力はないと思うけど、一員は一員だもんね。
だから、そんなことを言ったけど、どうも違うようだ。
「私もちゃんともらってるわよ? 気にしないで受け取りなさい」
「じゃあ何かお菓子でも作ろうかなー」
忙しくも、平和な時間を過ごしていく。




