MIN-102「名前を教えて」
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「君は何ができるのかなー」
朝、これまで通りに起きて顔を洗う。
週の半分はいないのに、部屋が掃除されてるのはとても嬉しい。
申し訳ないと告げた時、家族が働きに出たのなら、普通でしょう?と言われた。
(こうやって、少しでも返していかないとね)
私にできることは、店番と魔法の道具を治すことだ。
今もまた、買取や預かった道具を確認している。
立派な宝石のついた、腕輪。
この世界には、人工宝石を作るような技術はないから、全部天然物だ……と思う。
理屈さえわかれば、魔法使いは再現できそうではあるのだけどね。
「青い瞳、素敵だね」
腕輪から浮かんできたのは、羊さん。
サファイアのような青い瞳が、うるるんって感じ。
半分ぐらいのところで割れていた腕輪も、今はばっちりだ。
「魔力消費で障壁、か。うんうん、役に立てると思うよ」
「おはようございます! あ、お姉さん。お直しですか?」
元気一番。いつものように、アンナが飛び込んできた。
まだ寝ていたいだろう時間なのに、本当に元気だ。
「おはよう、アンナ。まずはパンを出してもらってもいいかな?」
「はーい! 良い匂いですっ!」
つまみぐいは駄目だよなんて言いながら、パンを並べていくのを見守る。
ダンジョンに行く前に食べる物、途中で食べる物、と種類が色々ある。
人気は、すぐ力になるとか言われてる奴と、保存タイプ。
(砂糖は貴重だから、消化しやすいようにって考えたのがよかったかな?)
正直、パンだけでも時代を一気に進めたような気がする。
お惣菜なパンは、パン屋のミッシェルさんのお店でも人気みたいだからね。
「さてっと……こっちもやらないと」
セレスティアの周辺には、色んなダンジョン、遺跡がある。
遺跡の方は、正直怪物退治ぐらいしか用がない。
実際にあるものに、怪物が住み着いただけだからだ。
でも、ダンジョンは違う。
私は見たことがないけど、ダンジョンの核は徐々に地下に沈むらしい。
すると、ダンジョンもだんだんと広くなるのだとか。
(探索されて、攻略されるほどその動きは鈍くなるっていうけど……)
つまり、駆け出しにちょうどいい場所は、常に駆け出しが攻略するから安定。
ハイリスクハイリターンな場所は、出入りする冒険者の数次第。
その意味では、セレスティアは奇跡的に安定してる土地らしい。
「ご飯の種が、尽きること無し、と。ん、うちわ? こんなのも魔法の道具なんだなあ」
正直、雑貨扱いで捨てられてもおかしくない状態だ。
破れたうちわ、なんてのが魔法の道具だと誰も思わない。
このお店の事を知っている冒険者を除いて、ね。
みんなまとめて持ってくるものだから、結構ゴミもたまっている。
持ち込んだ側もわかってるのか、お代が一番安い買取による引き取りを選んでいる。
「鳥……かな?」
安くはない植物紙を1枚使って、治す。
瞬きの間に、溶けるように紙が一体化し、精霊が出て来た。
オウムみたいな大き目の鳥で、羽ばたいている。
「おお、おおお! 涼しぃ―!」
「わわっ」
意外と力強い羽ばたきで、お店の中が急に冷えて来た。
冷房というよりは、送風って感じだけどね。
ということは……あれと組み合わせれば……。
すぐに、氷を出せる網を持ってきて、実験。
上手く台を作って、溶けた水が庭とかに出るようにすればOKだ。
ちょっと、魔力を使うのが問題だけど。
「ふわー、涼しいですねえ」
「おいおい、店から出られなくなるじゃないか、ユキちゃん」
「あははは。また寄ってくださいよ」
顔なじみの冒険者さんに笑われつつ、冷房装置の完成と言えば完成だ。
後は、同じような道具を作れたらいいんだけどねえ。
お店に来て、その涼しさに驚くお客さんの相手をしつつ、道具を治す。
時に買い取り、あるいは治した物を受け渡し。
意外とやることは多く、時間はあっという間だ。
「ユキ、体を冷やしすぎないようにするのよ?」
「そうですよね……風邪、引いちゃいます」
夕暮れが近づくと、さすがに冷房が寒くなってきた。
お礼を言って、風も氷も止めてもらう。
たまった水で、外の掃除でもしようと出たときだ。
「なんじゃ、もう上がりかの?」
「あ、長老さん……ですよね?」
暑さ対策なのか、ラフな姿に、驚いた。
とても偉い人には見えない、田舎のお爺ちゃんって格好である。
「いかにも。ユキが街の名前を付けたと聞いてな。顔を出しに来たんじゃよ」
「わざわざありがとうございます。でも、それだけじゃないですよね?」
最近、こういう時のカンみたいなのが鋭くなってきた気がする。
精霊が教えてくれるんだろうか? 便利だからいいけどね。
「ほっほ。その通り。ユリウス坊にも伝えてからになるが……守護宝珠を作ってみんか?」
夕暮れに赤く染まる長老は、なんでもないようにそんなことを言いだしたのだった。




