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141.悪役令嬢の側室選び

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスと小さな小さな家族との生活としては、18歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


「反論はする。当然だ!

エリーが南部の民をどれだけ思ってるか、帝都邸(タウンハウス)の皆がどれだけ帝室の命に従ってると思ってるんだ!」


 ルイスの怒りは収まらない。朝食の場でも続いていた。

 クレーオス先生が見かねて(たしな)める。


「ルイス様。お声はもう少し控えめがよかろう。

(わし)とて気持ちは同じじゃが、姫君のお腹には“ユグラン”様がおいでじゃ。

もう5ヶ月。そろそろ音も聞こえ始めるとされておる。

意味は分からなくとも、怒り声の振動は伝わるものじゃ。

お静まりなされ」


「…………申し訳ありません。そうでした。“ユグラン”に聞かせるべきではなかった」


「ルイス閣下。女性を前にしても、大声はマナー違反ですわよ。ただお気持ちはわかりますわ。

私に考えがありますの。反論は当然載せますが、恥をかかせておあげになればよろしいかと」


「恥を?」


「はい」



 ここでソフィア様から説明された内容に、ルイスはさらに不機嫌となる。

 私はルイスとの間に大切なものがあり、両国関係的にもまずいから、と止める。


 しかし、クレーオス先生だけは大賛成だ。



「姫君もルイス様もお心強く持たれよ。

ほんの数日の忍耐で、姫君の懐妊中に不快な話題を持ち込む不埒(ふらち)者が消えるのですぞ」


 ルイスはクレーオス先生の言葉に考え込んだ後、渋々了承する。

 残るは私だけで、迷いに迷う。


 結局、こういう駆け引きの名手で、ちょうど訪問予定だった、タンド公爵夫人である伯母様の判断を仰ぐこととした。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



「まあ、面白そうではなくて。一石数鳥ですわ」


 ソフィア様と伯母様は挨拶し終わった後、ことの経緯を聞くと、すぐに意気投合した。


「エリーに手を出すと、痛い目に遭うと思い知らせればよいのです。駄犬に調教は必要よ。

エリー。ほんの数日で、あなたとルイス様の関係を決して汚せるものでもないでしょう?」


「ね、エリー様。

ルイス様も数日間、我慢してくだされば、それ以降、悩まれなくなりますもの。

早速、実行いたしましょう」


 ルイスが一番苦手な分野だ。

 ただ二人の言う通り、効果的ではあった。


 ルイスが手配し、あの記事への反論は取材記事ということで、他の数社から事実とは異なると指摘される予定だが、ある程度は広まるだろう。


 人の不幸は蜜の味だし、貴族階級は大なり小なり、穀類を自分達“まで”食べる事に抵抗があった。



「……えぇ、わかったわ」


「エリー様の体調が一番よ。めまいやふらつきはありませんの?」


 ソフィア様は実行に移す前、私の体調を確認される。


「起き抜けにあるけど、今は大丈夫よ。

クレーオス先生からも、あったらすぐに休むよう、厳命されてるの。

縦の上下運動はゆっくり動くように指示されてるわ。

おかげで筋肉を鍛えられてるのよ」


「こむら返りはございません?」


「マーサが毎晩マッサージしてくれるから、ほぼないわ。

1度だけあったけれど、ルイスが温めてマッサージしてくれたから、助かったの」


 ここで伯母様が慈愛の眼差しを向けてくださる。


「エリー。“ユグラン”はまだ動いたりしない?」


「えぇ。楽しみにしてるのですけど、まだなんです。

きっと恥ずかしがり屋なんですわ」


「ほほっ、どちらに似たのやら」



 伯母様とは、“中立七家”が関わる事案、マルガレーテ第一皇女殿下の教育係や、“学遊玩具(がくゆうがんぐ)”のお試し店『フォンス』、妊婦のためのメニューや衣服の計画進捗について話し合う。


「そろそろ、妊婦のためのお店『テルース』の開店準備にも取り掛かろうと思っているの。

次の社交シーズンが始まる12月までを、準備期間にして、12月にオープンを考えてるのよ」


 テルースは古代帝国語で“大地”を意味する。“中立七家”の当主夫人の話合いで決められた。



「よろしいかと存じます。私にもお仕事の配分をもう少し増やしてください」


「あとちょっと回復されたらね。食欲はあるのに、量が入らないのは困るでしょう」


「体重も順調に戻ってきてます。クレーオス先生は、回数を分けて食べれば、元通りになると仰せです」


「でしたら、このぶどうも食べること。ソフィア様もどうぞ。

我が家の特産なのよ」


 紅茶に合わせて出してくださった瑞々しい葡萄は美味だった。悪阻(つわり)が終わった今も、果物を我が家にも届けてくださっている。


「美味しくいただいております。

うっかりしてましたわ。私、タンド公爵夫人にお願いがございましたの?」


「まあ、なんでございましょう?」


「エリー様のお母様、アンジェラ様の肖像画があると、メアリー様がこっそり教えてくださいました。

私も拝見してよろしゅうございますか?」


「もちろんですわ。エリー。案内をお願いできる?」


「はい、伯母様。ソフィア様、こちらへどうぞ」


 私は2階に上がり、お母さまの肖像画の前にソフィア様をお連れする。

 ソフィア様はしばらく、じっと見つめていた後、深くお辞儀(カーテシー)をする。


「……アンジェラ様。エリー様の友人、ソフィアと申します。お目にかかれて光栄です。

今は国が離れてしまいましたが、心は寄り添っております。

どうか、天からお見守りくださいませ。

エリー様にご加護を(たまわ)りますように」


 お母さまへ敬意を表しつつ、挨拶してくださった気持ちに心から感謝する。

 ルイスの時とは全く違う温かさだった。

 姿勢を正したソフィア様が私に向き直る。



「初めてお会いしたけれど、本当にエリー様は、お母様譲りのお顔立ちなのね。

でもそっくりとは思わないわ。お二人は別人格よ」


 王国ではお母さまの生前、“天使効果”(ゆえ)に肖像画は残せなかった。

 また最後の言葉に含みがあった。

 そして、そういうことを言う、私とソフィア様に共通する方はお一人しかいない。


「王妃様には可能な限り、エリー様のご懐妊がお耳に入らないようにするわ。でも限界はあるの。

まだ“王妃派”は生き残ってるし。

この肖像画の存在も知られたら、どういう反応をされるか想像もできないわ。

でもご安心なさって。ラッセル宰相閣下と協力しあって、エリー様はお守りします」


 私は王妃陛下のお母さまへの執着を思い出し、背筋に冷たいものが走るが、お父さまとソフィア様を心強くも思う。

 “天使効果”の研究者でもあるクレーオス先生もいらっしゃるのだ。


「ソフィア様、ありがとう……」


「どういたしまして。本当に素晴らしい絵だこと。

お美しくて凛となさってて、そういうところはエリー様に似てらっしゃるのね」


「そう仰ってくださって嬉しいわ。ソフィア様。

お母さまもきっとお喜びでしょう」


 私達はしばらく絵を眺めると、伯母様と昼食を共にし、ルイスに手紙を送った後、早速ソフィア様の案を実行に移した。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 私がソフィア様を帝都の名所をご案内しているころ、人数を絞った御前会議では、王国からの内密の“提言”が討議されていた。



「我が国は汗はかきますが、利しかない。

南部の用水の整備は小麦栽培にも不可欠で、それが遅れていたため、被害が広がった一面もあります」


「タンド公爵。どこかに裏があるとは思えませんか。ご縁続きの貴方に聞くのも失礼だが。

事前の連絡もなかったのでしょう」


「それは実物を見て、味わってではないと、先入観を与えただろう、と。

確かに未知の穀物だ。この時期に対応する時間がない、と考えた可能性はある。

皆様もご存知なかった。

今、目の前にあるパンやパンケーキを食べなければ、申し出を軽く見た可能性も高い。

実際、昨夜の私がそうだったのだ。

また、この粉で食べても常食に耐えられる品種の米は、試験的に栽培中の王国にとっても貴重で、ふさわしい人物でないと託せなかった、との伝言だった」


「ふさわしい人物とはどなたなのか?」


「内聞に願いたい。ソフィア薔薇妃殿下だ」


「薔薇妃殿下とは、第一王子妃殿下のことか?」


 議場が一斉に騒がしくなる。わざわざ王国の王子妃が、という思いが見てとれた。


「さよう。実に賢くしっかりとしたお方だった。

政治手腕は去年おいでになったメアリー百合妃殿下よりも上だろう」


 一座に静寂が訪れる。

 友好通商条約を結んだ相手国の王族が、わざわざ秘密裡に運んだ穀物に関する提言を、受け入れるべきか、断るべきか、ほとんどの出席者が悩んでいた。


 話がうまい、うますぎるのだ。

 帝国にとっては、申し出の通り設備整備に汗はかくが、それは従来の小麦栽培にも利用できる。

 先ほどの試食なら、他の穀類よりも常食に耐えられる。

 欠点はパンに比べ日持ちしないそうだが、焼くのはパンより手間がかからないとの説明だった。


 王国にはどういう隠れた意図があるのか——


 疑いの自縄自縛に陥りかけていた時、明るい声が響く。



「受け入れるに1票です。意図は明確、ルイス閣下に死なれては困る。これに尽きるでしょう」


「ウォルフ殿。それはごく私的なことでしょう。

大義名分(たいぎめいぶん)に過ぎない」


「おや、私が手塩にかけて育てた、ルイス閣下、臣籍降下したルイス第三皇子を甘く見ては困りますよ。

彼が死ねば、南部を一つにまとめる旗頭がいなくなる。


大規模な紛争が勃発すれば、戦線は拡大し、二十数年前よりも南部が動乱状態になる確率は高い。

何せ、復興の進捗状況がよろしくない。


下賜されたばかりで、土地に愛着をそこまで持てていない領主は、帝国の“絶対的保障”を感じなければ、命が大事と逃げ出すでしょう。

その“絶対的保障”の体現者がルイス閣下なのです。


彼を失い、動乱が広がれば、王国に飛び火する可能性も出てきた。友好通商条約を締結しましたからね。

王国のほうが、彼の価値をよくご理解されてる、ということでしょう」


 ウォルフの淀みない弁舌と裏腹に、議場に気まずい雰囲気が流れる。先の紛争時にルイスを良いように扱った自覚は、それなりにはあった。


 そこに、超越した支配者の声が響く。


「ウォルフの言うことには、理がある。

外側から俯瞰(ふかん)した方が、確かに物事がよく見える。

(わし)はこの提言を受け入れよう。

来年に向け、用水工事はなるべく早く着手せよ」


「はっ、仰せのままに!」


「“余談”は、ウォルフを中心に、適宜、人を集め着手せよ。

タンド、行政官からも少しは出せ」


「であれば、文句ばかりの貴族どもをどうにかしていただきたく……。

あやつらのために、効率が著しく落ちているところに、人を引き抜けば、現在の南部の対応に綻びが出ます。

皆の必死の努力で、餓死者が出ていないのです。

国民の命を奪われますか?」


 主君に対しても、はっきりと物申す。昔から変わらない。


「では、陳情の謁見受付所を設けよう。そこに文句を言う者を集めよ。

ウォルフ。騎士団で管理せよ。タンド達の職務の邪魔をさせるな」


「はっ、かしこまりました」


「陛下。謁見経由で来られては、もっと困ります。

“錦の御旗”を振りかざされては、さらに厄介です」


「行かぬようにはする。ならばよいのであろう。

タンド。ウォルフに人を出せ。

この“余談”には行政面から南部の事情に詳しい者も必要だろう」


「…………仰せのままに」


「他の者はタンドとウォルフに協力せよ。この二人に倒れられては困るのだ」


「はっ、仰せのままに!」


「皆の者、これまで以上に力を合わせよ。

(わし)は今年を『変革の年』とした。

長年の懸念であった南部問題が、大きく前進するやも知れぬ。

これは帝国全体のためでもある。よいな」


「はっ、仰せのままに!」


「ふむ、皆の者、大義であった」


 皇帝陛下は御前会議の間から、退出する。


 翌日から、“問題児”の陳情者達は騎士団所属の近衛騎士に、「この件に関して陛下への謁見受付所が設置されました」と別室を案内され、出入りも厳しく管理された。


 散々待たされた上に、謁見では今に至る領地運営の問題点をまとめた調査書を文官に読み上げられ、直々に“ご下問”される。

 この噂は瞬く間に広がり、タンド公爵とその部下達を悩ませた貴族達の姿は消えていた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 ソフィア様は翌日から、スケジュールを変更された。

 午前中は大使館にて、随行員の文官達と共に、伯父様の部下の行政官達と打ち合わせ、午後は私と名所巡りをされる。


 私は“両公爵”としての品格が(たも)てるエヴルー・シリーズの青いドレスの一方、ソフィア様は華やかなピンクや淡黄色などのドレスを楽しまれている。


 帝立美術館では、模写をしていた美術関係者達が集まり、帝都邸(タウンハウス)の公開について、感謝や感想、再開の要望など、護衛が穏やかに警告するほどだった。


 帝立歌劇場の昼公演(マチネー)も観に行ったが、伯母様が皇妃陛下にお願いした帝室のためのボックス席で、充分な注目を浴びていた。


 そんな中、あの抗議した記事を書いた新聞記者が食いつき、外出した帝都邸(タウンハウス)の使用人に取材してきた。



 『連日、エリザベス閣下と共にいる女性は何者か?』と。



 記者はある程度以上の貴族家の顔は把握していたが、見たことがない。

 それは、記者に金を握らせ、あの記事を書かせた、反“シリアリス(穀物)派”の貴族達も同じだった。



「私も詳しくは存じませんが、ルイス様にとって、“とても大切な御方”、とのことです。

貴族家の“奥”の慣習にも詳しく、エリザベス様のお眼鏡にかなった素晴らしい御方とも、お聞きしました……」



 貴族家の“奥”と言えば、帝室では後宮に当たり、側室がいる貴族家では、正室が管理する。

 夫に浮気され、ろくでもない女性を連れてこられるよりは、自分に脅威を与えない程度の女性を、正室が側室に、と見繕う場合もある。

 正室の妊娠中に、ということも少なからずあった。


 これを聞いた記者は、確定的な情報を掴んだと意気込み、早速記事を仕上げる。

 先日の抗議には、小さな謝罪文を載せざるを得なかったが、『ざまあみろ!これで報酬も得られるし、何が“運命の恋”だ!』などと浮かれていた。



 翌日、スクープとして、その新聞社の一面にはこう書かれていた。


『“運命の恋”で結ばれた“両公爵”の蜜月もこれまでか?!

憂国の美しきエリザベス閣下、救国の英雄 ルイス閣下に側室を献上?!』


 記事の文面にも、今までの美辞麗句を活用し、『“豊穣の女神に愛されし者”も夫からは愛されなかった』だの、『夫を()きつける“知恵の泉”は枯れたようだ』だの言いたい放題だ。



「ふふふ……。うまくいきましたわね」


「ルイス。騎士団で何か言われても、『秘密裡に動いてるんだ』で通しましょう。実際そうだもの」


「わかった……」


 眉間の(しわ)が過去最高に深いルイスを見送ると、私とソフィア様は、早速準備に取り掛かる。

 皇妃陛下より、『出仕せよ』とのお声がかりがあったのだ。

 これも段取り通りだ。



 マーサ率いる美容チームに磨かれた私とソフィア様は皇城の後宮へと上がる。


 私はエヴルー・シリーズのローズマリーの花輪が地模様の青いドレスに、大粒の真珠とサファイアが輝く白金細工のティアラにイヤリングや指輪などを身につける。


 ソフィア様は、パールホワイトに白い薔薇模様のレースを用いた、上品なドレスを見事に着こなされていた。

 大粒の真珠とルビーが(きら)めく白金のティアラに、イヤリングや指輪でその身を飾る。


「あのように着飾っても、無駄なのにねえ」

「もう一人の方はどなたなの?まさか噂の側室?」


 後宮の廊下でさえ、小声でも噂雀(うわさすずめ)がかしましい。


 皇妃陛下の居室に着き、ほっとするが、ここからが本番だ。

 ソフィア様と深めのお辞儀(カーテシー)をし、ご挨拶する。



「エリザベス・エヴルー、お召しと聞き参上いたしました」


「ああ、よくいらっしゃいました。

今日はエリザベス王女殿下として、お呼びしたのです。

エヴルー閣下としてお願いしたほうがお早く会えるでしょう?

どうぞ、こちらへ」


「ありがとうございます」


 皇妃陛下と同じ高さに用意されたソファーに、ソフィア様と二人座る。


「その御方が噂の?」


「はい。帝国の事情に配慮し、非公式にご訪問くださいました、ソフィア薔薇妃殿下でございます」


「お初にお目にかかります。ソフィア薔薇妃殿下。

白薔薇のようにお美しいこと。

ようこそ、帝国へお越しくださいました」



 この時点で、皇妃陛下付きの侍女達に驚きが走る。

 侍女長など数名を除いては、『王国の王子妃殿下の皇妃陛下への表敬訪問』など、全く知らされていなかった。



「帝国の麗しい月である皇妃陛下。

私こそお目にかかれて光栄でございます。

エリザベス第一王女殿下のお手紙でも、メアリー百合妃殿下からも、素晴らしい御方だとお聞きしていました」


「まあ、嬉しいこと。

本日はソフィア薔薇妃殿下にお()びとお礼を申し上げたくて、エリザベス王女殿下に無理を申し上げたのです。


ろくに取材もせず、非常に失礼な記事を報道した報道機関は、帝国の法をもって罰を与えます。

せっかく非公式でお越しいただいたお気遣いを無にしてしまいますが、国王陛下に申し訳が立ちません。

ご訪問を国民に知らせますね」


「私こそ(かえ)ってお騒がせしてしまい、失礼いたしました」


「そんなことは決してございません。

お礼を申し上げなくてはならないのに、あのような……。

ああ、不快な話題はおしまいにしましょう。

ソフィア薔薇妃殿下がお持ち下された、(こめ)という穀物で作ったパンケーキをいただきました。不思議な食感で美味しゅうございました」


「お口にあってよろしゅうございました。お持ちした甲斐がございます」


「不作で苦しむ帝国南部の民のために、感謝申し上げます。

もうしばらくご滞在なさるとか?」


「はい、あと1週間から10日ほど」


「でしたら、またぜひお会いしとうございます。

その時はお気軽にお越しくださいね」


「はい。楽しみにしております」


 ここで侍女長が皇妃陛下の耳許で(ささや)く。

 皇妃陛下の眉が上がる。

 どこかで見た記憶がある、またか。



「お断りして。お忙しいから、お帰りいただこうとしたのに」

「もう、そこまでおいででございます」

「ふう。仕方ないわね。お迎えするご用意を」


 ああ、確実だわ。

 ソフィア様にも耳元で(ささや)く。

 豪華な衣擦れと共に現れたのは、皇帝陛下だ。

 私とソフィア様は立ち上がり、お辞儀(カーテシー)でお迎えする。


「いやあ、これはこれは。皇妃の元に珍しい御方がお越しと聞いてな。歓談中にすまぬの」


「珍しいとは失礼でしてよ。お美しくお優しい御方でいらっしゃいます。

ソフィア薔薇妃殿下。皇帝陛下がお越しになりました。

皇帝陛下。王国のソフィア薔薇妃殿下でいらっしゃいます」


「帝国を(あまね)く照らす太陽たる皇帝陛下、ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます」


「お美しいソフィア薔薇妃殿下。どうぞ、お楽に。

ああ、エリザベス王女殿下も。

よくぞ、帝国へお越しくだされた。また、米のことは感謝し申す。

国王陛下によろしくお伝えくだされ」


「はい、ご報告いたします」


「では、せわしないが、これにて失礼する。歓談中、申し訳なかった」


 風のように現れた皇帝陛下は、風のように去っていった。


「本当に仕方のない陛下だこと。私に任せてくださればよいものを。

ソフィア薔薇妃殿下のお美しさを小耳にはさんで、お会いしたいと思われたのね」


「私こそお目にかかれ、光栄にございます」


「お引き留めして失礼しました。ご帰国前に、またぜひお会いしましょうね。

エリザベス王女殿下も、体調が許せば、帝国のご案内を続けてくださる?

本当ならば、私が行うところなのだけど、国情を考えての非公式のお心遣いなのですもの。

私の代わりによろしくお願いいたします」


「かしこまりました。謹んでソフィア薔薇妃殿下の歓待をお受けいたします」


「ありがとうございます。エリザベス王女殿下」


 私とソフィア様は、行きと同じく堂々と退出する。

 ソフィア様のご身分は、皇城を駆け巡り、新聞の一面報道を喜んでいた貴族達は、驚きと共に歯噛みする。



 皇妃陛下の進言もあり、この側室報道を重く見た皇帝陛下直々の命令で新聞社などに捜査が入ることとなった。

 “不敬罪容疑”で記者は逮捕され、その自白と押収された手紙など証拠により、何人かの貴族も連鎖的に逮捕された。

 さらには貴族邸への家宅捜査により、穀類に関する命令への不満や不実施の内容まで出てくる。

 容疑は追加され、被疑者も増え、“不敬報道事件”として捜査本部が立ち上がる事態となった。


 ウォルフ騎士団長からの、「素晴らしい仕事をしてくださり、とても助かりました」という伝言を、帰邸したルイスは複雑な表情で私に伝えた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
 くくく! ルイスさん、面白く無いですよね〜 笑ってごめんなさいですが、溺愛が裏返って大いに拗ねてるルイスさんが可愛い… そして可笑しみモリモリ〜 エリザベスさんとの仲をちょっとでも瑕疵を付けるなんて…
ウォルフも囮にする…というか不穏分子一層を素早く!!確実に!!出来るのが嬉しいのでしょうね~~ これだけやっとけばあそこんちに手を出したらヤベェってなるよね…特に貴族ではないの皆さんにはそうなるかも。…
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