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112.悪役令嬢の領歌(りょうか)と儀式

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、これで50歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「ね?どうかしら?」



 私はルイスに披露した後、問いかけていた。

 ルイスは両手を腰に、やや呆れている。



「いつの間に、こんなことを?」


「去年の秋から、少しずつよ。

楽器の購入を相談した時、ルー様は私に一任するって言ってくれたでしょう?

行軍開始のラッパもあるし、組み合わせたら、作戦に使える合図や信号にもなるでしょう?

一糸乱れぬ、って言うなら、リズムがあった方が合わせやすいでしょう?」


「それは、そうだが……」


「それに、学校を巡回してくれたら、教育に役立つとも思ったの。

子ども達、収穫祭にやってくる吟遊詩人や楽団であんなに喜んでくれるんだもの」


「わかった。わかったよ。

しかし、お前ら、団長に黙って。

いや、もうこうなったら……、よしとするか!」


「やった!団長閣下の許可が無事に下りました!」


『おーッ!』


 騎士服姿の私が拳を空に上げると、見守っていた周囲の騎士団の面々も、同様に突き上げる。

 ルイスはその光景を、『仕方ないなあ』という表情で見守っていた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 私がエヴルー騎士団の顧問として、“こっそり”やってたことは、“小編成の軍楽隊”の育成だ。

 馬の両脇に付けたドラム、ラッパ、ホルンを演奏しながら、ルイスの前で馬場を周回してみせたのだ。


 曲は、帝国の国歌と、有名な聖歌、そしてエヴルー公爵領の歌、『エヴルー領歌』である。


 いずれも行進曲の形式に(のっと)り、4分の2拍子に編曲した、歌いやすくもある旋律だ。



 以前、楽器店に行き、領 地 邸(カントリーハウス)帝都邸(タウンハウス)に置く楽器を注文した時、学校、そして騎士団にも楽器を、と考えたのだ。


 アーサーに相談したところ、学校は問題なく、騎士団は小編成なら、という条件だった。


 もちろん、最初からそのつもりだ。


 ルイスがいない時に、自薦、他薦を問わず、希望者を秘密裡に募り、経験者は簡単にテストして採用、楽器未経験者は、楽器との相性を見て決めた。


 そこからこっそり練習していたのだ。

 ただし、『エヴルー領歌』は最近だ。

 簡潔なメロディだが、よくぞここまでやってくれました。


 最終的には子ども達から歌詞を募集し、恥ずかしいことこの上ないが、不肖ながら、私が作曲を担当した。


 アンナ様のノックス侯爵家も先代夫人が作曲されている、と聞かされ、「ぜひエリー様が」と勧められた。


 また、相談した伯母様から、他にも『領歌』がある貴族家の多くは、音楽の素養を披露するため、その地を治める家の者が作曲している、と聞いたためでもあった。


「エリーが作曲するのが、一番収まりがいいわ。

作曲家を紹介するから、出来たら見てもらって、『充分でございます』とか楽譜にサインしてもらえば、ケチはつけられないわ」


 ここまで助言してくださり、帝室御用達の作曲家も紹介してくださった。


 確かに、その地に縁もゆかりもない作曲家に頼むよりはいいかなあ、と思い、雰囲気と勢いで旋律を歌いながら五線譜に書き取り、作曲家のサインもいただいた。



 しかし、エヴルー公爵家が続く限り、歌われる歌だ。

 『やっぱり作曲家にきちんと頼もう』と思い直した時には、マーサを始めとした使用人達がなぜか知っており、覚えて歌えていた。

 クレーオス先生は鼻歌混じりで歌ってらっしゃる。


 作曲した楽譜をマーサが見て、覚えたらしい。

 元男爵令嬢、現子爵家令嬢のマーサの教養をうっかりしてました。

 楽譜もスラスラ読めて歌えるのでした。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 休憩のお茶の時間に、ルイスにきちんと事情と経緯を説明すると、歌詞が載っている書類を手に取り、じっと眺める。



「“エヴルーらしい”な。よく書けてる。先生たちが助けたのか?」


「たぶん、多少はね。

詩文の形式を指定して、学校ごとに一作品ってお願いしたから、添削されてると思うわ。

教育行政の担当者が、授業参観という名の、抜き打ち視察に行ったら、子ども達みんなで考えてる学校もあったそうよ」


「それで、これが選ばれた、と」


 ルイスが歌詞を朗読する。相変わらず良い声だ。



『エヴルーの小麦畑に朝が来る。

朝食たっぷり、さあ働こう。

耕す大地に実りは来たる。

我らの暮らしに(さいわ)いあれ。


エヴルーの牧場(まきば)に昼が来る。

緑の木陰で昼食だ。

チーズ作りに乳(しぼ)り。

我らの暮らしに(さいわ)いあれ。


エヴルーのハーブ畑に陽が落ちる。

一日働き、夕餉(ゆうげ)団欒(だんらん)

香る料理に温かい湯気。

我らの暮らしに(さいわ)いあれ』



「えぇ、住民の代表者に集まってもらって、あらかじめ渡してた詩の中から、2つを選んで投票したの。

1つだったら、絶対に自分の地区の学校の作品を選ぶでしょう?」


「クックックッ……。それはそうだ」


「それで、これが得票数で1番だったの。

公爵家とかひと言も入ってないのが、私は好きよ。

領民あっての領地で、エヴルー公爵家だもの」


「俺もそう思った。

だから、手紙で確認された時も、『これがいい』って返事をしたんだ」


「ん、色々大変だったのに、ありがとう。

気晴らしになれば、って思ってたけど、邪魔になってないかな、とも心配だった」


「ちょうどいい気分転換だったよ。

こう、チビ達がペンを片手に頑張って書いてるところとか、学校で発表してるとことか、浮かんでさ。

エリーの手紙と一緒に楽しんで、安らげたんだ」


「だったらよかった。

私も曲作りしてる時は、集中できたから助かったかな」


「しかし、この歌詞を知ったら、他の貴族はどう思うか。クックックックッ……。

ちょっと楽しみだな」


「あ!公爵家はまだしも帝室って入れなかったのは、まずかったかしら?」


「いいんじゃないか。

『我らの暮らしに(さいわ)いあれ』ということは、『我々帝国民の暮らしに(さいわ)いあれ』ということです。

『帝国民あっての帝国、帝国あっての帝国民だ』と常々仰ってらっしゃる皇帝陛下の意に沿った歌詞と思いますが』とか、言っとけばいいさ」


「さすが、ルイス参謀殿。いえ、エヴルー騎士団長閣下。

私もそう話すわね」


「了解。さてと、軍楽隊に合わせた、“一糸乱れぬ”を目指すとするか」


「無理はしないでね。別のお披露目でもいいんだし」


「エヴルーから移動する時に、壁門から帝都邸(タウンハウス)までで試すよ。

その時、合格点なら本番でもやる。

面白そうだろ?」


 ルイスの表情が、悪戯を楽しむ少年のように生き生きと輝く。

 本当に素敵な私の旦那様だ。


「えぇ、面白そう。気をつけて、訓練してきてね。

行ってらっしゃい」


 私はルイスの右頬の傷痕に、唇を捧げると、訓練所へ送り出した。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 エヴルーでの生活は忙しかった。


 私が領地経営や、福祉教育部門で、アーサーを相手に、報告、視察、会合、決裁などの日々を送る一方、ルイスは閲兵式(えっぺいしき)に向けての訓練を送る(かたわ)ら、治安について討議していた。



 そんな中、ルイスに視察を兼ねた遠乗りに誘われた。

 私と出会った、あの“水辺”に行きたいのだ、と青い瞳に見つめられる。



「訓練はいいの?」


「副団長がいる。しっかりこなしてくれてるよ。

俺が会議に出たり、決裁してる時もそうだ。心配いらない」


「わかったわ。楽しみにしてます」


 私も久しぶりに身体が動かせて嬉しい。

 マーサにはしっかり日焼け対策を用意された。



 翌日—



 乗馬服姿の私は、ルイスと護衛の数人と共に、旧エヴルー伯爵領へ向かった。


 ルイスが言うには、見回りが旧帝室直轄領に(かたよ)っていたのも、気になっていたと、“幹線道路”を馬で行きながら話す。


「難しいのよね。順調なところでも、きちんと目配りしてないといけないわ」


 ただ馬上ではこれ以上は話せない。


 お忍びでも、私とルイスの顔は、多くの領民が知っている。

 『こんなことを話してた』という噂はすぐに広まり、伝言ゲームで都合よく変えられたりもする。


 私は内心、『旧伯爵領と旧帝室直轄地領って、王国のソフィア様とメアリー様みたいなのよね。

極力、どちらも平等に遇さないと、後宮内だけではなく、政治バランスまで関わってくる。

エヴルー公爵家内では、この二つの地方の扱いは、直接、領内政治に関わってくるのだもの』と、思う。


 あの『エヴルー領歌』も、アンナ様が仰っていた通り、作るのだったら、子ども達に練習して歌ってもらおう、と思っていた。


 ただ練習する場合、指導者は先生だ。その全員が音楽が得意な訳でもない。


 いや、主にエヴルー旧伯爵領の学校に赴任している、帝都立高等学校出身の先生方は、音楽も教えられる。

 縦型ピアノを置けば、おそらく全員は、簡単にでも弾けるだろう。


 一方、旧帝室直轄地領の先生方のほとんどが、帝立学園出身の元騎士だ。

 帝都立高等学校で短期集中で、基本的な教育課程に必要な単位取得はしてくださったが、帝立学園の騎士科で、音楽の授業を選択している方は少ないだろう。

 つまり音楽教育はこのままでは無理だ。


 ただ、歌は得意な方がかなりいて、収穫祭でも気持ちよさそうに歌っていた。

 であれば、縦型ピアノで音程さえきちんと合えば、子ども達に教えられる。


 そこで、各学校に縦型ピアノを設置する前に、音楽の先生の講習を、領 地 邸(カントリーハウス)で受けてもらうことにした。

 基本的な楽譜の読み方から始め、実践も、騎士なら誰でも知っている帝国国歌から、ごくごく簡単な童謡や民謡などだ。


 送り迎えは、公爵家が紋章無しの馬車で行い、なんとか右手と左手でメロディを弾けるようになってから、順に縦型ピアノを設置していったのだ。


 あれもアーサー達、行政官のおかげだよなあ、と思いながら、幹線道路を抜け、街道を進み、視察を始めた。



 アーサーに聞いたのか、視察は初めてエヴルー伯爵領を見回った時と同じルートで、畑だった。


 あの、初めての領地見回りに一緒に付いてきてくれたアーサーは、今ではエヴルー公爵家の大黒柱だ。

 お母さまと領民の関係などの影響を心配し、いろんな準備を考えてくれたマーサは、専属侍女として、閲兵式(えっぺいしき)の時の観覧席での衣装の準備をしてくれている。


 領民に今年の作物の出来や、困っていること、要望などを聞き、別れる時には、「エリー様、ルイス様、お幸せに!」と声をかけられる。


 私はなんて幸せなんだろう、としみじみ思いながら、昼を迎え、あの水辺へ向かった。



 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 今日は子ども達はいなかった。


 昼食はあの時と同じピクニック方式だ。


 美しい水辺を眺められる木陰にシートを広げ、乗馬帽とジャケットを脱ぐと、風が心地よい。

 馬達にも水をたっぷり飲ませ、にんじんや氷砂糖などを与える。本当に可愛い。


 ルイスや恐縮する護衛達と一緒に、領 地 邸(カントリーハウス)のシェフがフードボックスに詰めてくれた、美味しい昼食を味わう。



「風が気持ちいいな」


「そうね、水辺も綺麗。後で手を浸してこようかしら」


「水遊びなら付き合うぞ」


「本当に?嬉しい」


 あの時と同じように、食後、水辺で濡らし木にかけ、風で冷やしたハーブティーを飲んでいると、ルイスが護衛達に人払いを命じる。



 どうしたんだろう。

 今までの見回りで何かあったかしら、と思っていると、ルイスが真剣な面持ちで話しかけてくる。



「エリー。本当は閲兵式(えっぺいしき)か、ここかで迷ったんだが、二人にとって大切なことだから、二人っきりの時がいいと、俺は思ったんだ」



 閲兵式(えっぺいしき)か、この水辺って一体なんだろう。

 わからないままだが、その表情と口調から、ルイスが何かとても大切なことをしたいと思ってることは理解する。



「そうなのね」


「ああ。

エリーは知ってるだろうが、騎士の忠誠は主君に捧げられる。

俺の場合は皇帝陛下だ」


「えぇ、そうね」


 もう、これは当然のことなので、(うなず)くばかりだ。



「もう一つ、騎士には、貴婦人へ捧げる忠誠がある。

俺は、本当は、あの、訓練公開日、優勝したら、あの場でエリーに、“きちんと”俺の貴婦人への忠誠を捧げようと思ってたんだ。

言葉だけじゃなく……」


 訓練公開日とは、トーナメント戦で勝利する度に、紅薔薇(べにばら)を捧げてくれた時のことだ。

 あの7本の紅薔薇(べにばら)と、事故後のお見舞いの青薔薇(あおばら)は、今も大切に、ドライフラワーにして、帝都邸(タウンハウス)の私室の机の上に、ガラスケースに入れて飾ってある。


 『言葉だけじゃなく』というのは、正式な忠誠を捧げる儀式もやりたかった、ということだ。

 そこまで想ってくれていたのか、と胸が熱くなる。


「ルー様……」


「だけど、あんな事故があって、エリーを大変な目に合わせて、なかなか言い出せないまま、今日までズルズル来てしまった。

自分が情けないんだが、こんな俺でも、“きちんと”忠誠を捧げさせて欲しいんだ」



 貴婦人の忠誠は、多くは主君に配偶者がいれば、その方に捧げられる。

 この場合は皇妃陛下だ。


 ルイスは捧げていなかったのか、と少し驚く。

が、事情が事情だ。

 また貴婦人の忠誠は、妻や婚約者、恋人などに捧げる場合もあり、ルイスの申し出は珍しくはなかった。



「こんな俺、じゃないわ。

私はルー様がいいの。ルー様じゃなきゃ、受けないわ」


 ちなみにアルトゥール王子殿下は、迷いなくそのまま王妃陛下に捧げられたので、全く問題ありません。


「ありがとう、エリー。

いや、エリザベス・エヴルー閣下。

騎士としての忠誠を、私の永遠の貴婦人である貴女に捧げます」


 ルイスは私の前に(ひざまず)くと、両手で(さや)ごとの剣を捧げ持つ。

 私を見上げる青い瞳には、深い愛情の光が宿っていた。

 表情が引き締まり、右頬の傷痕も一段と凛々しい。


 私は緊張しながらその剣を抜くと、やや(うつむ)いているルイスの左肩を軽く三度打つ。


「ルイス・エヴルー閣下。

貴方の騎士としての忠誠を、私、エリザベス・エヴルーは、貴方の永遠の貴婦人として、心からの愛情と尊敬をもって承ります」



 剣をルイスが捧げ持つ鞘に入れ、儀式は終わる。



 ほっとした表情のルイスが立ち上がり、私を優しく抱擁する。



「ありがとう、エリー。俺の騎士の誇りを受け取ってくれた」


「私こそありがとう、ルー様。素晴らしい名誉をいただいたわ。

どんな宝物も(かす)んでしまうわ」


「エリー……」


「ルー様……」


 結婚式での初めての時のような神聖な雰囲気で、私の唇にルイスの温もりがふわりと重なった。



ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


この『悪役令嬢エリザベスの幸せ』の世界を借りて、

小説投稿サイト「小説家になろう」様が主催する、夏季の期間限定企画「夏のホラー、テーマはうわさ」に参加させていただいています。

夏っぽい、怪談仕立てのお話です。


【ここだけの話】

https://book1.adouzi.eu.org/n7906jj/


立秋を過ぎても猛暑が続いています。

残暑お見舞い代わりに、よかったらお楽しみください。

ヽ(´ー`)


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[一言] いい詩ですね。 もし将来帝国が滅んだとしても、エヴルーでは歌われてそうな気がします。
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